紫に抱かれたくて

むらさ樹

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「サービスやシステムとか、いろんな教えてもらったから。
だからさ…今度は、大丈夫だから」

まるでウブな女子生徒みたいに、ちょっぴり頬を赤らめたような顔して言う煌に、あたしはおかしくってわざと訊いてやった。

「何が?」

「あ、いや…だからさ、その…出張 とか…」

そんなに照れるなんて、この前の失敗がそんなに恥ずかしかったのかな。

それとも、年上のあたしに童貞奪われて動揺してるとか?
まさかね。


「おれさ、毎日暇だから…いつでも受けられるよ。
良かったら今夜、どう…かな」

あらあらあら?
覚えた途端、商売上手になってきたのかしら。

まさかホスト側から誘ってくるなんて、手口はあたしの仕事と似てるとこもあるのね。

ホストクラブのお店は、お酒を飲んでイケメンたちにチヤホヤされる所。
そしてお店を出てホテルで2人きりになる、夜の出張ホスト。

ホストとは、こうしてお金と交換で心と身体を癒やしてくれるスペシャリストだ。

お店で紫苑と飲んだワインも、一緒にデートしたランチも、とてもとても癒されたわ。

だけど…


「コラコラ、調子乗らないの。
あたしはお願いしてないわよ」

「…そっか、ごめん…」

いくら商売の為でも、相手の気持ちを誘導させるのって難しいんだから。
そう簡単に乗ってくれるわけじゃないのよ。


「…………………」


相手の…気持ち…。
デートの時、夢中になったって言ってくれた紫苑。

あたしとだから楽しんでくれたんじゃないのかな。
他のお客ともあんな親密そうにデートしてたんだ、多分…あたしも他の女たちと同じ…。

そうするとあたしたちは、単に紫苑に気持ちを動かされてるだけなのかもしれないな。

「………………」

口付けていたワインのグラスが、ゆっくりと離れた。

振り向かせたい。
振り向いてほしい。

出来ないってわかってるんだけど…ううん、わかってるからこそ、お金を支払って恋人ゴッコを楽しんでいるだけ。

お金を支払って…。



「…ねぇ、煌」

「ん?」

「やっぱり…お願いするわ」

「え、何を?」

気持ちまでは自分のものにならないから、お金を支払って身体だけ買うの。

それはあたしの仕事だって同じじゃないの。
気持ちを満たそうとする為に、わざと気付かない振りしてする恋人ゴッコ。

ストレスの溜まった身体を癒やしてもらう為、あたしたちは疑似体験をしてるだけなんだ。


「出張、してくれるんでしょ?」

「……………!
もちろんっ!」

紫苑への気持ちを満たす為…なんて言ったら、煌は傷付くかしらね。








___うちのお店もそうだけど、ホストクラブみたいな所は営業時間が夜中の12時までになっている。


それが終わってしばらくした時間になると、前回同様にホテルの一室で待つあたしのもとにノック音が聞こえた。


あたしはすぐに出迎えると、走ってきたのか息を切らした煌が立っていた。


「…ごめんっ、これでも急いで来たつもりなんだけど」

「大丈夫よ。
シャワーかかったりして時間潰してたから。
…あ!」


部屋に入った煌は、当然私服に着替えて来てるんだけど。

唯一、前の時と違うのは既にあのウイッグが取り払われていた事だった。


「うん。
やっぱり地毛の煌は、かわいいかわいい」

あたしは手を伸ばして、煌のサラサラ猫っ毛をクシャクシャと撫でた。

「あ、愛さんってば…っ」

「ほら、早くシャワー浴びておいでよ。
お姉さんずっと待ってんだぞ」

そう、待ってたの。
あたしの身体を満たしてくれるのは、今はホストしかいないんだから。
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