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女の嫉妬①
しおりを挟む「……ちゃんっ
…愛ちゃん!」
「!!
…徹ちゃん」
仕事の真っ最中にも関わらず、ついまたボーっとしてしまっていた。
「愛ちゃん、また手がお留守になってたよ。
僕の事以外に、何考えてたの?」
あたしに身体を跨がられた常連客の徹が、口元をへの字に曲げて訊いてきた。
「や、やだぁ、今は徹ちゃんの事しか考えてないもの。
どうしたら徹ちゃんが、もっと悦んでくれるかなぁって」
「愛ちゃん!」
「ぁっ…んんっ!」
徹は急にあたしの首に腕をまわして、強引に唇を押し当ててきた。
「ん~っ!
愛ちゃんって、そんなに僕の事を考えてくれてたんだねぇ。
僕、もう嬉しいよ~」
そう言ってまた徹はあたしの唇を押し当て、今度は無理やり舌を絡めてきた。
「僕は愛ちゃん一筋だよ。
愛ちゃんは、もう誰にもあげないんだ」
「ん…、徹ちゃんったら…」
あたしだって、紫苑一筋だもの。
誰にもあげたくない。
今頃紫苑は何をしているのだろう。
お店でお仕事?
それとも、上得意のお客と一緒にいるの?
紫苑…あたしのプレゼントした腕時計、今もしてくれてるよね…?
紫苑に対する気持ちが冷めないまま、日を跨いだ。
デートなんてしてくれただけでもラッキーだったのに、一度してもらうとまたしてほしいって欲望が出てしまう。
休みの日は、必ず“club-shion”に行こう。
毎回は会えないとは思うけど、でも少しでも紫苑に近い場所にいたいから。
そしてあたしの存在を、少しでも紫苑に意識してほしいから…っ!!
__午後3時。
支度に時間のかかる職場である為に、今日もこのくらいの時間に職場に向かって外を歩いていた。
この辺りの繁華街はショッピングビルや飲食店が多くて、いつの時間帯でもそれなりに人が多い。
こんな仕事をしているあたしだけど、今は殆どメイクをしていないラフな状態なので通行人にはあたしが愛だという事は気付かない。
ある意味堂々と職場までの道を歩いていたわけなのだが、車道を隔てた向こう側の道にある人物を捉え、ドキッとして足を止めた。
__あれは、紫苑!?
一番会いたかった、だけど今だけは会いたくなかった紫苑が、すぐそこにいたのだ。
会いたくなかったっていうのは、あたしがメイクや衣装をキチッとしていなかったってのもあるんだけど。
むしろ今はそれよりも、紫苑の…隣にいる女の存在の事だった。
「………………っ」
物陰に隠れるようにして、紫苑とその女が一緒に歩いている様子を見る。
あれは…今あの女とのデートの真っ最中なんだ。
相手は気合いの入った服にメイクを施した20代半ばくらいの女。
紫苑の腕にベッタリとくっついて楽しそうに会話をしている様子に、モヤモヤしながら嫉妬の炎を燃やしてしまう。
「ダ、ダメよ。
あれが紫苑のお仕事なんだから、ヤキモチ妬いたって仕方ないのよ…っ」
どうしようもない気持ちに自分の中で葛藤しながら、結局その場を走って逃げた。
だって昨日の時と同じような紫苑の笑みが、今のあたしには辛すぎたから…。
バタン!
勢いよく控え室のドアを開けて入ってきたあたしに、同僚の女たちの視線が集中した。
「愛さん。
どうしたの?」
早速そんなあたしに気付いた凛が、先に歩み寄って来た。
「…凛…」
「何か顔色悪くない?
具合悪いの?」
「…そうじゃないの。
ちょっと走っちゃったから、それでね」
動揺して、まだ胸がドクドク鳴ってる。
モヤモヤした気持ち悪いものがあたしの中で渦巻いて、凛の言う通り具合すら悪いかもしれない。
それに対して、随分生き生きした様子なのが凛だった。
そういえば、昨夜は休みだからって一晩出張ホストを楽しむんだって言ってたっけ。
「いいわねぇ、凛はストレス発散できて」
「え?でも愛さんったら、昨日は本命君とデートだったんでしょ?
ストレス発散できたんじゃないの?」
凛の言う事はもっともだ。
あたしは本命である紫苑と、ようやく念願の2人きりのデートができたんだもの。
スゴくドキドキしたし、スゴく楽しかった。
だけど、だからこそ今日のあの様子を目の当たりにしてしまった今、辛くて胸が痛くなってしまうんだ…。
「…あたしね、あの後また夜も会いたいって言ったんだけど、予定があるからって断られちゃったの」
「ふぅん?
結構忙しい人なんだ、愛さんの本命君」
「そうみたい。
初めてプレゼントした腕時計、スゴく喜んでくれたみたいだったけど。
あれってやっぱり、ただの営業スマイルだったのかなぁ」
「腕時計?」
「うん、ロレックスのね。
せめて今日1日着けたままでいてってお願いしたら、いいよって言ってくれたんだけどさ…」
たくさんの上得意がいる紫苑だもの、やっぱりそれも口先だけの約束だったかもしれないな。
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