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「副…生徒会長…」

一般生徒たちの投票には、かなりの偏りがあった。
その殆どが桐生珪とわたしに集中していて、他の当選した生徒の投票数は微々たるものだった。

いや、それよりもすっかり忘れていた。
わたしは生徒会長になる事ばかり考えていたけど、生徒会執行部になる事自体は上位5人に選ばれればいいんだ。

ただ、生徒会長の座は桐生珪に奪われてしまったけれど、でもその差はほんの2票。
もちろん負けは負けなんだけどね。

掲示板の一番下には、早速今日の放課後に生徒会室集まる旨が書かれていた。

一般生徒立ち入り禁止の生徒会室…!

これまで入室を許されなかった生徒会室に、いよいよ入れる権利を得たんだ。

だけど…
あとたった2票、いや3票あれば桐生珪を負かす事が出来た今回の総選挙。
放課後、わたしに向ける余裕じみた桐生珪の笑みを予想すると、今からちょっとイライラもしてきた。







__それから。
待ちに待った…いや、来るべき時が来てしまった放課後。

わたしは帰宅の支度を済ませると、通学カバンは自分の机のサイドにかけたまま生徒会室に向かった。

ついこの間ドアの前まで覗きに行った生徒会室。
当然生徒会役員になれる気は満々だったのではあるけど、いざ本当になってしまうと緊張する。

もともと興味なかった筈の生徒会。
入室の禁止された生徒会室に入れるとなると、一応はドキドキするものだった。


1年の教室がある1階から階段を2回上がって3階のフロアに着く。職員室や校長室、それから保健室の並ぶ更にずっと奥に生徒会室はある。
その長い廊下を歩いて行くと見覚えのある生徒が3人、生徒会室のドアの前に立っていた。

…だけどその中には、桐生珪の姿はまだないみたい。

「あ…えっと…」

人の顔や名前を覚えるのはあんまり得意な方ではないけれど、とりあえず立候補者の中にいた3人だという事はわかった。

桐生珪が生徒会長でわたしが副会長なら、この3人は会計と書記に選ばれた人なんだろう。

「榊さんだよね。副生徒会長、おめでとう!
榊さんの演説、とても良かったよ。
私にも選挙権があったら榊さんに投票してたくらい」

口ごもったわたしに最初に話しかけてきたのは、3人いるうちの唯一の女子生徒だった。
名札を見ると、2年A組 伊集院 と書かれている。
2年生の割には小柄で、わたしよりも背も低い。ふわふわした柔らかい髪は天然ではなく、きっと朝から随分手入れされたものに違いないと思う。


「確かに、副会長の演説は面白かったよ。
だってムカつくセンコーの授業受けずに済むんだもんな。
でも、俺だったら生徒会長に入れてたぜ」

そう言ったのは、2年B組更科と名札に書かれた男子だった。

背は高く、サバサバした軽率な印象を受ける。
一応先輩になるんだけど、第一印象的にもとてもじゃないが尊敬は出来そうにないわね。


「生徒の大半が生徒会長と副会長に票を入れてましたもんね。
僕たちがこの票で執行部に入れたのが奇跡みたいなものですよ」


最後に口を開いたのは1年B組、相良という男子だ。

同じ学年でも、隣のクラスになると顔も名前も記憶にすらない。わたしにはメガネをかけた、頼りなさ気な印象しかなかった。

…この3人がどんな演説したのかなんて、もうわたしの記憶からは消えてる。それだけ印象に残らないつまらないものだったに違いない。

これから1年、このメンバーでやっていく事になるんだ。
もちろん、あと桐生珪を入れての5人なんだけども。


「そういえば、生徒会長はまだ来てないですね」

「今日集まりがある事、知らないなんてわけないよね?」

「生徒会長モテそうだからな。
あんな演説したんだから、早速女子から誘われたりしてんじゃないか?」

他のメンバーたちがあれこれ勝手に詮索する。

…ははぁ、なるほど。
演説じゃあ一般生徒たちから絶賛されてたけど、結局自分がチヤホヤされたかったから恋愛禁止を解除なんて言ったんだわ。

良い事言ったつもりで結局自分の為だったなんて。
こんな奴に負けたなんて思うと、とことんムカついてくるーっ!


「そんないい加減な人なんか置いといて、先に入りましょうよ。
カギ、開いてないの?」

わたしが生徒会室のドアに手をかけようとした時、背後から声がかかった。
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