上 下
1 / 1

***

しおりを挟む

「何だ、またフられたのかよ」


そう言って、コイツはテーブルの上の缶ビールの口を開けた。


「またって何よ! 失礼ね!」

「3回もフられりゃ、またって言ってもいいだろ?
そうか、このビールは俺に慰めてくれって買ってきたんだな」


なんて言いながら、コイツは開けたビールを私によこした。


「ほらよ、お前の3回目の失恋に乾杯」

「フン!」


私は向けられた缶ビールを強引に奪い取ると、グイグイと一気飲みする。


あーっ、もうムカつく!
何で私ばっかりこんな目にあうのよ。

自慢じゃないけど、学校だって良い所を出てる。顔やスタイルだって、悪くない。

なのに、どうして――――



「……性格、なんじゃねぇの?」

「なっ!?」


まるで私の考えてる事を見透かしたかのような口振り。

彼とは昔からの幼なじみで、しかも小中高とずっと同じ学校同じクラスという、究極の腐れ縁。

大学こそは私が女子大だったので分かれたものの、こうして今でもお互いの家に行ってはだべったりしているから、まるで家族ってぐらいお互いをよく理解し合っている。

だからこそ、今日も愚痴を言いに手みやげの缶ビールを持って来たってのに、そんな言い方しなくってもいいじゃない!


「お前は何かに夢中になると本っ当、他が見えなくなるんだよな」

「何よそれっ」

「心配しなくても、泣くんなら俺が胸貸してやるからよ」

「余計なお世話…きゃっ」


彼は私の肩をグイッと引っ張ると、無理やりその胸板に顔を押しつけた。


「………………!」


途端、ふわっと感じた彼の体温。
そして、私が昔から知ってる懐かしい匂い。

て言うかコイツ、こんなにいい身体つきしてたっけ…?



ついそんな感触に浸っていると、彼は私の背中に腕を回した。


「……どうした、泣かねぇんなら俺が鳴かせちまうぞ?」


ドキン と鳴り響いた私の心臓。


「鳴かせるもんなら、鳴かせてみなさいよっ」


わかってる。
誰よりも私の事をよく知ってるコイツなら、それが出来るって事を。


「……お前のそういう意地っ張りなとこ、昔から好きだったよ」


背中に回された腕がギュッと締めつけられ、彼の感触が私の身体全体に感じた。

あったかくて心地いい胸板の感触。

耳元で感じる彼の息づかい。

私の好きな所を把握している彼の手が、優しく這っていく。


だめ……、もっと……っ





「あぁ……んっ」






ほら、

もう私の口からは、鳴き声が漏れてしまった。










“スイートな腐れ縁のふたり”

*おしまい*


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

君の小さな手ー初恋相手に暴言を吐かれた件ー

須木 水夏
恋愛
初めて恋をした相手に、ブス!と罵られてプチッと切れたお話。 短編集に上げていたものを手直しして個別の短編として上げ直しました。 ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです

鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。 十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。 そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり────── ※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。 ※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく

矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。 髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。 いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。 『私はただの身代わりだったのね…』 彼は変わらない。 いつも優しい言葉を紡いでくれる。 でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

処理中です...