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あら?なんだか都合のいい展開ですね?-3
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声をひそめて、その夫人は周囲の令嬢たちに言う。
「宰相子息のフラッド様や、騎士団長子息のレイモンド様など、クレイン王子の側近は、ガストン男爵令嬢を王子の婚約者に推していたそうですわ」
「まぁ……」
宰相子息フラッドは、洒脱で陽気な青年だ。
異性との関係が華やかすぎると眉をしかめるものもいるが、数多の言語を操り、各方面のすさまじいまでの知識量を誇る。
華やかな交友関係の中で得た知識で、誰も気づいていなかった互いに利益を得ることができる者同士をとりもったり、外交問題解決の糸口をつかんだりと、政治的手腕も発揮している。
騎士団長子息のレイモンドは、元気で逞しい天才だ。
昨今の技術の進化により、軍事行動では騎士団はすでに形骸化しており、兵器を扱う軍部がその中心にある。
レイモンドは、しかし祖父である元騎士団長に幼いころから傾倒し、騎士を目指し、鍛え、振る舞っている。
いっぽうで兵器にも興味が強く、おそるべき威力の兵器の開発をいくつも成していた。
騎士道精神からそれらの兵器はあくまで戦争の抑止力であるとするレイモンドはそれらの兵器について秘匿技術をいくつも有しており、軍部も頭があがらない。
犬猿の仲の騎士団と軍部をまとめていくのはレイモンドだろうと囁かれている。
ふたりとも、種類の異なる才能あふれる青年たちだが、幼いころからともに育ったクレイン王子に深い忠心と友情を持っているようで、ふたりに比べれば凡庸に見えるクレイン王子を揶揄した学友は、苛烈な嫌がらせを受けたと聞く。
そのふたりが、ガストン男爵令嬢を王子の婚約者に推していたのであれば、ガストン伯爵令嬢は自分たちが認識している以上の才能と、王子の愛情を得ているのではないか……。
すこし離れたところから見ているロゼッタにも、夫人の言葉を聞いた令嬢たちがリィリィへの認識を改めさせたことが見て取れた。
ひとりの令嬢が、すこし皮肉気に笑って言う。
「クレイン王子のご婚約は、内定では、ロゼッタ・ローゼンタール公爵令嬢が選ばれていらしたのよね? 最近、パーティでのクレイン王子の最初のダンスはロゼッタ様でしたもの。……でも、あんな王子のお姿を見ると、ねぇ。王子のお心のありかは明らかですわ」
ロゼッタへの悪意はすこしだけ。
意地悪な笑みに隠されていた。
権勢を誇るローゼンタール公爵家には、秘められた敵も多い。
このまま自分をけなす言葉が続くのかと、ロゼッタは予想した。
それは、当初ロゼッタが望んだ展開でもある。
ぞんぶんに自分の悪口でもりあがってほしいロゼッタは、彼女たちに自分の存在が気づかれないように、セーゲルの影に隠れた。
だが、いっしゅんロゼッタの悪口が続きそうだった場の雰囲気は、側仕えの女性の一言で霧散した。
「フラッド様もレイモンド様も、クレイン王子と幼いころから仲の良いご友人でいらっしゃるもの。きっと王子のガストン男爵令嬢へのお気持ちに気づいていらっしゃるのね」
またロマンスへと話題が誘導される。
うっとりとした表情の令嬢が、目をうるませて、それに続いた。
「リィリィ様も、王子を庇われて、矢を受けられて……。女性の身で、勇敢ですこと」
「やはり、愛情があってのことじゃないかしら。そうでなければ、女性の身で矢に身を晒すなんてできないでしょう」
リィリィは真面目で民を思う気持ちが強いクレイン王子を異性としても高く評価していたが、一般的な女性たちからの人気はいまひとつだった。
ロゼッタが母に伝えたように、王子であり、見目も麗しく温厚なクレイン王子は、人気がある。
ただそれは王子としてであり、女性たちのときめきの対象としては、フラッドやレイモンドのほうが圧倒的に人気だった。
だがこれまで自分の意思など感じさせないほど「完璧な王子」だったクレイン王子が初めて見せた私情。
それがひとりの令嬢への熱情であったことに、女性たちは驚き、心を動かされていた。
その令嬢は男爵令嬢で、一見王子とは不釣り合いのようだ。
けれどエレメンタール学院で監督生つとめるほど女生徒たちに認められ、王子の側近たちも推している。
王子と令嬢の気持ちは、さきほどの事件で明らかになったようである。
「ロマンスですわ……」
「男爵令嬢ではすこし身分が足りないようにも思いますけれど。ご身分からすれば、やはりローゼンタール公爵令嬢にはかないませんもの」
成金貴族への嫌悪感が強いのだろう夫人のひとりが、ちくりとした言葉で水を差そうとした。
けれど、年若い令嬢の多くがロマンスにのぼせあがり、場の雰囲気は圧倒的にリィリィを支持しようというものに染まっている。
「いまの時代、身分にとらわれて、思いあうふたりが引き裂かれるなんてナンセンスですわ!」
「ローゼンタール公爵令嬢は素晴らしい方ですけれど、だからこそ別の女性を想っている王子に嫁ぐなどもったいないですわ」
「クレイン王子はこれまで私情も見せずに、王子としてふさわしく振る舞ってこられましたもの。恋のひとつくらい我儘をとおされてもよいのではないかしら」
「ガストン男爵令嬢も候補のひとりであられたぐらいですし、適正もあるのではないかしら。おそらく王子は貴族間のバランスを考えて、ご自身の恋をあきらめようとされたのでしょうけれど」
「ガストン男爵は、バララーク川の氾濫で評価を高め過ぎましたものね。警戒する方々の気持ちもわかりますけれど。これまで王子が王子としてふさわしく生きてこられたことを思えば、それを逸脱するような今回の行動は、相当の想いだと察せられますもの。ひとりの人間として、応援したく存じますわ」
バスザスト伯爵夫人は、場の雰囲気をまとめあげるようにきっぱりと言った。
その言葉に、多くの夫人や令嬢が同意するように視線を交わす。
ロゼッタは、驚くほど自分に都合のいい展開に流れていく目の前の光景に、小さな身震いをした。
「宰相子息のフラッド様や、騎士団長子息のレイモンド様など、クレイン王子の側近は、ガストン男爵令嬢を王子の婚約者に推していたそうですわ」
「まぁ……」
宰相子息フラッドは、洒脱で陽気な青年だ。
異性との関係が華やかすぎると眉をしかめるものもいるが、数多の言語を操り、各方面のすさまじいまでの知識量を誇る。
華やかな交友関係の中で得た知識で、誰も気づいていなかった互いに利益を得ることができる者同士をとりもったり、外交問題解決の糸口をつかんだりと、政治的手腕も発揮している。
騎士団長子息のレイモンドは、元気で逞しい天才だ。
昨今の技術の進化により、軍事行動では騎士団はすでに形骸化しており、兵器を扱う軍部がその中心にある。
レイモンドは、しかし祖父である元騎士団長に幼いころから傾倒し、騎士を目指し、鍛え、振る舞っている。
いっぽうで兵器にも興味が強く、おそるべき威力の兵器の開発をいくつも成していた。
騎士道精神からそれらの兵器はあくまで戦争の抑止力であるとするレイモンドはそれらの兵器について秘匿技術をいくつも有しており、軍部も頭があがらない。
犬猿の仲の騎士団と軍部をまとめていくのはレイモンドだろうと囁かれている。
ふたりとも、種類の異なる才能あふれる青年たちだが、幼いころからともに育ったクレイン王子に深い忠心と友情を持っているようで、ふたりに比べれば凡庸に見えるクレイン王子を揶揄した学友は、苛烈な嫌がらせを受けたと聞く。
そのふたりが、ガストン男爵令嬢を王子の婚約者に推していたのであれば、ガストン伯爵令嬢は自分たちが認識している以上の才能と、王子の愛情を得ているのではないか……。
すこし離れたところから見ているロゼッタにも、夫人の言葉を聞いた令嬢たちがリィリィへの認識を改めさせたことが見て取れた。
ひとりの令嬢が、すこし皮肉気に笑って言う。
「クレイン王子のご婚約は、内定では、ロゼッタ・ローゼンタール公爵令嬢が選ばれていらしたのよね? 最近、パーティでのクレイン王子の最初のダンスはロゼッタ様でしたもの。……でも、あんな王子のお姿を見ると、ねぇ。王子のお心のありかは明らかですわ」
ロゼッタへの悪意はすこしだけ。
意地悪な笑みに隠されていた。
権勢を誇るローゼンタール公爵家には、秘められた敵も多い。
このまま自分をけなす言葉が続くのかと、ロゼッタは予想した。
それは、当初ロゼッタが望んだ展開でもある。
ぞんぶんに自分の悪口でもりあがってほしいロゼッタは、彼女たちに自分の存在が気づかれないように、セーゲルの影に隠れた。
だが、いっしゅんロゼッタの悪口が続きそうだった場の雰囲気は、側仕えの女性の一言で霧散した。
「フラッド様もレイモンド様も、クレイン王子と幼いころから仲の良いご友人でいらっしゃるもの。きっと王子のガストン男爵令嬢へのお気持ちに気づいていらっしゃるのね」
またロマンスへと話題が誘導される。
うっとりとした表情の令嬢が、目をうるませて、それに続いた。
「リィリィ様も、王子を庇われて、矢を受けられて……。女性の身で、勇敢ですこと」
「やはり、愛情があってのことじゃないかしら。そうでなければ、女性の身で矢に身を晒すなんてできないでしょう」
リィリィは真面目で民を思う気持ちが強いクレイン王子を異性としても高く評価していたが、一般的な女性たちからの人気はいまひとつだった。
ロゼッタが母に伝えたように、王子であり、見目も麗しく温厚なクレイン王子は、人気がある。
ただそれは王子としてであり、女性たちのときめきの対象としては、フラッドやレイモンドのほうが圧倒的に人気だった。
だがこれまで自分の意思など感じさせないほど「完璧な王子」だったクレイン王子が初めて見せた私情。
それがひとりの令嬢への熱情であったことに、女性たちは驚き、心を動かされていた。
その令嬢は男爵令嬢で、一見王子とは不釣り合いのようだ。
けれどエレメンタール学院で監督生つとめるほど女生徒たちに認められ、王子の側近たちも推している。
王子と令嬢の気持ちは、さきほどの事件で明らかになったようである。
「ロマンスですわ……」
「男爵令嬢ではすこし身分が足りないようにも思いますけれど。ご身分からすれば、やはりローゼンタール公爵令嬢にはかないませんもの」
成金貴族への嫌悪感が強いのだろう夫人のひとりが、ちくりとした言葉で水を差そうとした。
けれど、年若い令嬢の多くがロマンスにのぼせあがり、場の雰囲気は圧倒的にリィリィを支持しようというものに染まっている。
「いまの時代、身分にとらわれて、思いあうふたりが引き裂かれるなんてナンセンスですわ!」
「ローゼンタール公爵令嬢は素晴らしい方ですけれど、だからこそ別の女性を想っている王子に嫁ぐなどもったいないですわ」
「クレイン王子はこれまで私情も見せずに、王子としてふさわしく振る舞ってこられましたもの。恋のひとつくらい我儘をとおされてもよいのではないかしら」
「ガストン男爵令嬢も候補のひとりであられたぐらいですし、適正もあるのではないかしら。おそらく王子は貴族間のバランスを考えて、ご自身の恋をあきらめようとされたのでしょうけれど」
「ガストン男爵は、バララーク川の氾濫で評価を高め過ぎましたものね。警戒する方々の気持ちもわかりますけれど。これまで王子が王子としてふさわしく生きてこられたことを思えば、それを逸脱するような今回の行動は、相当の想いだと察せられますもの。ひとりの人間として、応援したく存じますわ」
バスザスト伯爵夫人は、場の雰囲気をまとめあげるようにきっぱりと言った。
その言葉に、多くの夫人や令嬢が同意するように視線を交わす。
ロゼッタは、驚くほど自分に都合のいい展開に流れていく目の前の光景に、小さな身震いをした。
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