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あら?なんだか都合のいい展開ですね? -1 (ロゼッタ)

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 騒然としていた会場も、警備兵たちの手によって落ち着きをとりもどしてきた。
王宮医師もかけつけ、クレイン王子とリィリィを診る。

「おふたりとも、かすり傷です。これから詳しい診断をいたしますが、おそらく矢には毒物も塗られていないでしょう」

 王宮医師の言葉を聞いて、かたずをのんで見守っていた人々の口から、安堵のため息が漏れた。
ロゼッタも、そのひとりだ。
 リィリィが矢傷をつけられてから動けなくなっていたのを見て、ロゼッタは毒物の疑いを懸念していた。
それも心配はないようだと聞いて、体の力が抜ける。

 よかった。
ほんとうによかった。

 ロゼッタは、バクバクと大きな音を立てていた心臓を手で押さえて、深呼吸を繰り返す。
リィリィは、無事だった……!

 クレイン王子とリィリィは、王宮医師に連れられて退席した。
これから詳しい診断を受けるのだろう。
 周囲を警備のものに囲まれて移動するリィリィは、まだ恐怖がつよく残っているのか、顔色が悪い。
クレイン王子がリィリィを気遣って話しかけると、リィリィはぎこちない笑みをうかべた。

 警備兵はあちこち駆け回っていた。
すぐに帰ると言う貴族たちを馬車まで警備しながら送る者もいれば、逃げた射手を探す者もいた。
非番のものも呼ばれたのだろうか、その数はどんどん増えているように見えた。

 けれど射手は、とうとうとらえられなかった。

 もともとこの会場の警備は、薄かった。
天井がガラスという特殊な構造のため、ホール自体が大きくなく、出入り口が限られていて警備がしやすいと思われていたからだ。
天井のガラスに上り、そのガラスを突き破って矢を射てくる剛腕かつ軽やかな暗殺者の存在は、想定されていなかったのだ。

 後手後手にまわる警護の騎士たちに、セーゲルが軽蔑するように鼻をならした。

「なんとも無様なことだ」

 ロゼッタも、心中では思わずうなづいてしまった。
けれど、場所が悪すぎる。
表面上は、口の悪い従兄を咎めるように見あげた。

「この国は、平和ですもの。もう長い間、恐れ多くも王族の御身を傷つけようとするものなどおりませんでしたし……」

 ロゼッタは言葉を濁しながらも、セーゲルをたしなめる。
するとセーゲルは、眉をしかめて言う。

「それでも警護の手を抜いていいという理由にはならないだろう。一歩間違えれば、王子は射殺されていたかもしれないんだ」

「それはそうですけれども……」

 ロゼッタだって、ほんとうはそう思っている。
あの警備兵はもちろん、こんなずさんな警備計画のパーティを開いた王族たちには腹が立って仕方ない。
リィリィも王子も無事だったからよかったものの、取り返しのつかないことになっていたかもしれないのだ。

 だが、ここは王宮だ。
場所柄、声高に警備兵や彼らの上司である王族の批判など、すべきではないと思っているだけだ。

 セーゲルだって、ロゼッタの真意に気づいているはずだ。
むっとしてセーゲルを睨むと、セーゲルもそれ以上の皮肉は口にしなかった。

 ロゼッタは、セーゲルに話しかける気もしなかったので、口を閉じたままピンと背中を伸ばして立っていた。
すると、自然と周囲の声が耳に入ってくる。

 会場に残っているのは、比較的高位の女性が多かった。
彼女たちをエスコートしてきた男性たちは、警備兵に混ざって、射手を追いかけているのかもしれない。
先ほどまでクレイン王子を取り囲んでいた側仕えの女性たちも、ほとんどがその場に残り、周囲の人々と話をしていた。

 女性たちの大部分は、突然の王子暗殺未遂に怯えているようだった。
仲の良い数人ずづで集まって、周囲を警戒するように、ときおり視線を巡らせる。

「なんということでしょう」

「おそろしいこと……」

「なぜこのようなことが……」

 ささやくような声が、あちこちで交わされる。
会場の中を満たす恐れと苛立ちの混ざった声は、さざ波のように会場に恐怖で染めていく。
 けれど、その恐怖は少しずつ、別の話が持ち出されて静まっていった。

「ご覧になられました? あのクレイン王子が、とっさに女性をかばって矢を受けようとされるなんて……」

「ええ、もちろんですわ…! もちろんクレイン王子は大切な御身ですもの。誰かをかばって御身を危険にさらすなど、いけないことかもしれません。ですが、女性としては、やはりとっさに身を挺してかばっていただくのは、憧れてしまいます」

「クレイン王子は、とてもまじめな方ですわ。女性にも、いつも礼儀を重んじた対応をされています。ですがだからこそ、あの女性をかばった時の態度を見れば、ねぇ……」

 夫人たちのささやきを聞いて、先ほどまで青ざめていたまだ若い令嬢が、ほぅっと熱いため息をついた。

「ロマンス、ですわね……」

「まるで、ちまたで流行している恋愛小説のようですわ……!」
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