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義兄が私と似た表情です。つまり何かしでかすと思います-3
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「セーゲル……っ」
扉のむこうに、義兄になったばかりの従兄の姿を見つけて、ロゼッタは彼の名を呼んだ。
とっさに立ち上がり、仮死状態になる毒が入った瓶をスカートの影に隠す。
そして、わざとこわばった笑顔をうかべて、セーゲルから距離をとるように一歩うしろに下がった。
「驚いたわ。ノックもせず、女性の部屋の扉を開けるなんて、失礼ですわよ?」
ロゼッタは、セーゲルの無礼をとがめながら、また一歩うしろに下がる。
まるで、セーゲルという危険な男性から身を守るように。
困惑した表情で彼を見ると、セーゲルは儀礼的な笑みで応えた。
「すまない、ロゼッタ。きみの具合がよくないようだと聞いて、焦っていたようだ」
「そんな言い訳を信用しろというのですか?」
「言い訳ではあるが、真実だ。もちろん、それでわたしの無礼が許されるとは思っていないが……」
「それなら、すぐにドアを閉めて出て行ってください。ご自分がどれほど失礼な振る舞いをなさっているのかおわかりでしょう?」
ロゼッタは、警戒心もあらわに言った。
最初にセーゲルに見せた警戒心は、ロゼッタが手にしていた毒の瓶を隠すための演技だった。
とつぜん部屋に入ってきたセーゲルに驚いて立ち上がり、彼と距離をとるために下がっているように見せかけて、棚に瓶を隠すためだけの見せかけの警戒心だった。
けれど、セーゲルはぐだぐだと言い訳をして、ロゼッタの部屋の扉を閉じることも、出直そうともしない。
仮に侍女からロゼッタの具合が悪いのだと聞いたとして、ノックもせず、部屋の主の返事もまたず、ドアを開けるなんて考えられない。
よしんば心配でドアを開けてしまったのだとしても、ロゼッタが不快を露わにしているのに、それでも立ち去ろうとしないなんて妙だ。
ロゼッタは、セーゲルを観察する。
彼は貴族らしい表情を取り繕っていて、真意は読めない。
ロゼッタのカンは、セーゲルは危険ではないと告げたままだ。
殺意や害意は、たぶんない。
ならば、先ほどロゼッタが手にしていた瓶に気づかれたのだろうか。
けれど、ロゼッタはドアが開くとほぼ同時に、瓶をスカートの影に隠した。
ロゼッタがなにかを隠したことは感づかれたかもしれないが、それがなにかまでは見えなかったはずだ。
それなら……。
ロゼッタは考えをめぐらせながらも、セーゲルがロゼッタのきっぱりとした拒絶を受けて、部屋から出て行ってくれないかと期待した。
ふつうなら、淑女が部屋から出て行くように言えば、紳士は従うものだ。
ましてここは、ロゼッタの私室。
招かれてもいないセーゲルは、本来、入室できる権利もない。
セーゲルは部屋には入っていないが、ロゼッタの部屋のドアを開け、そのドアの内側に立っていれば、入室したも同然だ。
けれど、セーゲルはかなしげに眉をひそめ、哀願するようにロゼッタに言う。
「部屋に入ってはいけないか? きみが心配なんだ、ロゼッタ」
「お気遣いはありがたく受け取ります。けれど、今日のパーティのために、すこし緊張しているだけです。ひとりにしてくれませんか?」
「緊張しているのなら、誰かがそばにいたほうがいいだろう? わたしでは不足なら、義母様をお呼びしようか」
「……いいえ。ほんとうに、だいじょうぶです……!」
いまだ。
ロゼッタは苛立ったように言って、セーゲルに詰め寄るように数歩前に出た。
そして小さく「あ……」と声を漏らし、かぁっと顔を赤くする。
「セ、セーゲル……! ほんとうに、ほんとうに、出て行ってください……!」
声を荒げて言いながら、ロゼッタは先ほどの場所に戻って、スカートでそこに落としたものを隠そうとする。
けれど、ロゼッタが動くまでの数秒の間に、セーゲルはロゼッタが落としたそれを見てしまった。
ロゼッタが落としたのは、靴下をとめるガーターだ。
ロゼッタの前世ほどではないが、今の世でも、女性の足はスカートできっちりと隠されている。
女性の足は、非常に性的なものと認識されているのだ。
そのため、靴下やそれをとめるガーターも、非常に性的なものだと認識されている。
ロゼッタが落としたガーターを見てしまったセーゲルは、かっと頬を赤くした。
「すまない」
さすがにセーゲルも、それ以上、部屋に居座ることはできないようだった。
さっとドアを閉め、自身もロゼッタの部屋から出て行く。
けれど、そのいっしゅん、セーゲルがロゼッタの部屋を見渡し、ロゼッタを見透かすような目で見たことに、ロゼッタは気づいていた。
あの、ロゼッタ自身に似た油断のならない目。
……ああいった表情をする人間は、自分の是とすることのためなら、手段を択ばない。
それはロゼッタ自身にもあてはまるからこそわかる、奇妙なシンクロだった。
セーゲルは、気づいているのかもしれない。
ロゼッタが、セーゲルを追い出すために、わざとガーターを外し、落としたように見せかけたことに。
そして、ロゼッタが隠そうとしたものが、ふつうの貴族の令嬢なら、年の近い異性に見られば気を失いかねないほど恥ずかしいとされているガーターを人目にさらしてまで隠したいものだということに。
「とんだ伏兵ね。とはいえ、毒さえ飲んでしまえば、セーゲルはわたくしが毒薬を持っていたなんて言い出せないでしょう。そんなことをすれば、わたくしは王族との婚姻を嫌って自死した不敬者になってしまい、この公爵家も安穏とはしていられない。それは、この家を継ぐセーゲルだって困るはずだもの……」
ロゼッタは、自分を説得するように、小声で囁いた。
「毒を飲むなら、はやいほうがいい。今夜。決行しましょう」
扉のむこうに、義兄になったばかりの従兄の姿を見つけて、ロゼッタは彼の名を呼んだ。
とっさに立ち上がり、仮死状態になる毒が入った瓶をスカートの影に隠す。
そして、わざとこわばった笑顔をうかべて、セーゲルから距離をとるように一歩うしろに下がった。
「驚いたわ。ノックもせず、女性の部屋の扉を開けるなんて、失礼ですわよ?」
ロゼッタは、セーゲルの無礼をとがめながら、また一歩うしろに下がる。
まるで、セーゲルという危険な男性から身を守るように。
困惑した表情で彼を見ると、セーゲルは儀礼的な笑みで応えた。
「すまない、ロゼッタ。きみの具合がよくないようだと聞いて、焦っていたようだ」
「そんな言い訳を信用しろというのですか?」
「言い訳ではあるが、真実だ。もちろん、それでわたしの無礼が許されるとは思っていないが……」
「それなら、すぐにドアを閉めて出て行ってください。ご自分がどれほど失礼な振る舞いをなさっているのかおわかりでしょう?」
ロゼッタは、警戒心もあらわに言った。
最初にセーゲルに見せた警戒心は、ロゼッタが手にしていた毒の瓶を隠すための演技だった。
とつぜん部屋に入ってきたセーゲルに驚いて立ち上がり、彼と距離をとるために下がっているように見せかけて、棚に瓶を隠すためだけの見せかけの警戒心だった。
けれど、セーゲルはぐだぐだと言い訳をして、ロゼッタの部屋の扉を閉じることも、出直そうともしない。
仮に侍女からロゼッタの具合が悪いのだと聞いたとして、ノックもせず、部屋の主の返事もまたず、ドアを開けるなんて考えられない。
よしんば心配でドアを開けてしまったのだとしても、ロゼッタが不快を露わにしているのに、それでも立ち去ろうとしないなんて妙だ。
ロゼッタは、セーゲルを観察する。
彼は貴族らしい表情を取り繕っていて、真意は読めない。
ロゼッタのカンは、セーゲルは危険ではないと告げたままだ。
殺意や害意は、たぶんない。
ならば、先ほどロゼッタが手にしていた瓶に気づかれたのだろうか。
けれど、ロゼッタはドアが開くとほぼ同時に、瓶をスカートの影に隠した。
ロゼッタがなにかを隠したことは感づかれたかもしれないが、それがなにかまでは見えなかったはずだ。
それなら……。
ロゼッタは考えをめぐらせながらも、セーゲルがロゼッタのきっぱりとした拒絶を受けて、部屋から出て行ってくれないかと期待した。
ふつうなら、淑女が部屋から出て行くように言えば、紳士は従うものだ。
ましてここは、ロゼッタの私室。
招かれてもいないセーゲルは、本来、入室できる権利もない。
セーゲルは部屋には入っていないが、ロゼッタの部屋のドアを開け、そのドアの内側に立っていれば、入室したも同然だ。
けれど、セーゲルはかなしげに眉をひそめ、哀願するようにロゼッタに言う。
「部屋に入ってはいけないか? きみが心配なんだ、ロゼッタ」
「お気遣いはありがたく受け取ります。けれど、今日のパーティのために、すこし緊張しているだけです。ひとりにしてくれませんか?」
「緊張しているのなら、誰かがそばにいたほうがいいだろう? わたしでは不足なら、義母様をお呼びしようか」
「……いいえ。ほんとうに、だいじょうぶです……!」
いまだ。
ロゼッタは苛立ったように言って、セーゲルに詰め寄るように数歩前に出た。
そして小さく「あ……」と声を漏らし、かぁっと顔を赤くする。
「セ、セーゲル……! ほんとうに、ほんとうに、出て行ってください……!」
声を荒げて言いながら、ロゼッタは先ほどの場所に戻って、スカートでそこに落としたものを隠そうとする。
けれど、ロゼッタが動くまでの数秒の間に、セーゲルはロゼッタが落としたそれを見てしまった。
ロゼッタが落としたのは、靴下をとめるガーターだ。
ロゼッタの前世ほどではないが、今の世でも、女性の足はスカートできっちりと隠されている。
女性の足は、非常に性的なものと認識されているのだ。
そのため、靴下やそれをとめるガーターも、非常に性的なものだと認識されている。
ロゼッタが落としたガーターを見てしまったセーゲルは、かっと頬を赤くした。
「すまない」
さすがにセーゲルも、それ以上、部屋に居座ることはできないようだった。
さっとドアを閉め、自身もロゼッタの部屋から出て行く。
けれど、そのいっしゅん、セーゲルがロゼッタの部屋を見渡し、ロゼッタを見透かすような目で見たことに、ロゼッタは気づいていた。
あの、ロゼッタ自身に似た油断のならない目。
……ああいった表情をする人間は、自分の是とすることのためなら、手段を択ばない。
それはロゼッタ自身にもあてはまるからこそわかる、奇妙なシンクロだった。
セーゲルは、気づいているのかもしれない。
ロゼッタが、セーゲルを追い出すために、わざとガーターを外し、落としたように見せかけたことに。
そして、ロゼッタが隠そうとしたものが、ふつうの貴族の令嬢なら、年の近い異性に見られば気を失いかねないほど恥ずかしいとされているガーターを人目にさらしてまで隠したいものだということに。
「とんだ伏兵ね。とはいえ、毒さえ飲んでしまえば、セーゲルはわたくしが毒薬を持っていたなんて言い出せないでしょう。そんなことをすれば、わたくしは王族との婚姻を嫌って自死した不敬者になってしまい、この公爵家も安穏とはしていられない。それは、この家を継ぐセーゲルだって困るはずだもの……」
ロゼッタは、自分を説得するように、小声で囁いた。
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