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「全力で嫌がらせ」の意味がたぶん彼女と違うと思うのです -2

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「浮かない表情をされていますが、どうかされたのですか?」

  リィリィや侍女たちに心配されると、ロゼッタは「なんでもないわ」と応える。

 けれど、このところロゼッタは、どうすればリィリィを傷つけないで嫌がらせをできるのか、ずっと悩んでいた。

 嫌がらせすること事態は、とても簡単だ。
けれど他人から見れば「ひどい」嫌がらせなのに、リィリィを傷つけないように嫌がらせするのは、とても難しい。

 頭を悩ませていたロゼッタだったが、3日後、いいものを手に入れた。
 ロゼッタの下で働く小飼が「きっとロゼッタ様のお役に立ちます」と贈ってくれたもの。
 それは摂取すれば数日、仮死状態になるという毒薬だった。

 小さな瓶に入っているその毒薬は、小飼の志願者たちで実験したところ、確かに数日の間、仮死状態になるのに、その後は体になんの悪影響も残さない不思議な毒薬だった。

 ロゼッタは、その毒を自分で飲もう、と思った。

 リィリィに嫌がらせをすることで、ロゼッタが王子の婚約者を降りるのは、リィリィの予言なのだから、成功率が高いはずだった。
だからロゼッタとしては、そのとおりに実行したかった。

 けれど、いくら考えても、ロゼッタにはよい案が浮かばなかった。

 全力で嫌がらせすれば、自分は疑われることもなくリィリィを暗殺できてしまう。
 かといって下手に手加減して失敗し、その証拠を捕まれれば、ロゼッタの生家である公爵家にまで咎が及びかねない。

 穏やかな愛情を交わしあえる今生の家族は、ロゼッタにとって大切なもののひとつだった。
 リィリィへの嫌がらせが原因で王子に婚約破棄されるくらいの迷惑なら、公爵家には大した打撃でもない。
その程度ならば、ロゼッタを放逐するなり修道院に入れるなりすれば、切り抜けられるだろう。
家族には迷惑をかけて申し訳ないが、まぁ許容範囲だと思う。

 けれどロゼッタがリィリィを暗殺しようとした明確な
証拠が挙げられれば、おそらく公爵家にも厳しい咎めがあるだろう。
ロゼッタひとりの処罰ではすまない可能性が高い。

 ロゼッタの前世では、暗殺などされるほうが悪いという風潮だった。
 そのため、暗殺しても事件の捜査もろくにされなかったが、この時代は異なる。
 すくなくとも貴族の令嬢が殺されれば、捜査は綿密に行われる。
適当に代理の犯人をつきだして終わりというわけにはいかないのだ。

 もちろん嫌がらせの手段として、リィリィを殺すことだけではなく、別の方法も考えた。

 だがロゼッタの前世では、嫌がらせといえば本人の殺害、あるいは本人の身内の殺害というのが一般的だった。
そのせいか、他の手段はいくら考えても、しっくりこなかった。

 リィリィの場合なら、関係する商会を潰したり、身内を拐って脅迫したり、身内をギャンブルや借金の沼にどっぷり浸からせたりなども考えた。
だが、これも現代では「やり過ぎ」になりそうで、しっくりとはこない。

 現代では嫌がらせと言えば、悪意のある噂をばらまいたり、家に動物の死骸を送りつけたりするのが主流のようだった。
 けれど、そんなことくらいで、本当に嫌がらせになるのか。
ロゼッタには、わからない。

 動物の死骸など、邸で働く者に処分してもらえば済むはなしだ。
 噂はうまく扱えば、なかなか有効な嫌がらせになると思う。
 けれどやり過ぎてはいけないだろう。
どの程度積極的に動けば嫌がらせになりうるのか、ロゼッタにはいまひとつわからない。
だから噂を嫌がらせに使うのも躊躇した。

 どちらの時代にも共通して、女性には暴漢をしむけ貞操を奪うというのもあった。
が、これも実行すればリィリィが自害しかねないし、リィリィが王子妃になることもできなくなってしまう。

 すっかり手詰まりになったロゼッタは、リィリィの予言のとおりにするのを諦めた。
 とにかく自分が王子の婚約者としてふさわしくないと判断されればいいのだと思い当たったのだ。
 そうすれば、現在王子妃候補の次点であるリィリィに機会がおとずれるはずだ。

 そこで、登場するのがこの毒だ。
飲んだところで数日仮死状態になるだけだし、貴族の葬儀は1週間はかかる。
葬儀が行われている途中で息を吹き返すものもたまにいるし、ロゼッタがそのひとりになっても不自然ではない。

 とはいえ一度死んだ娘が王子の婚約者でい続けられるとも思えない。
ロゼッタは、この薬が体に後遺症を残さないと知っているが、世間的にはなぜロゼッタが仮死状態になったのかもわからないのだ。
健康に著しく不安のある王子妃など、政略で選ばれるはずもない。
まさにロゼッタが求めていた毒だった。

 我ながら、いい思い付きだ。

 週末、ロゼッタは学校の寮を出て、実家に戻ることにした。
寮で死亡すれば、周囲の人間……特にリィリィに疑いがかかりかねない。
服毒は、実家でするつもりだった。
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