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「全力で嫌がらせ」の意味がたぶん彼女と違うと思うのです (ロゼッタ)

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 リィリィに全力で嫌がらせをすると決めて、3日。
ロゼッタはさっそく困っていた。

 嫌がらせすること自体は、難しくない。
むしろロゼッタにとって、嫌がらせをすることは呼吸をするように、容易だった。

 ロゼッタは自分の血にまみれた前世を厭い、今世では穏やかな人生を送りたいと切望している。

 にもかかわらず、ロゼッタは知らず知らずのうちに物騒な人間を引き寄せているのだろうか。
ぜひともロゼッタの下で働きたい、ロゼッタの役にたてるのであれば、汚れ仕事もいとわない、むしろ喜んで汚れ仕事をしたい、という人間が何人も集まってきていた。
彼ら彼女たちは少数ではあるが、全員口も堅く、実力もある者たちである。

 ロゼッタがリィリィに全力で嫌がらせをすると考えた時、即座に思いついたのは、彼らを使ってのリィリィの暗殺だった。

 だが本来の目的は嫌がらせではなく、自分と王子の婚約破棄、あるいはリィリィへ王子を譲ることだ。
リィリィの暗殺は、本末転倒である。

 たいした護衛もつけずにのんきに生活しているリィリィなど、ロゼッタの子飼いのものたちにかかれば、数時間後には骸になっているだろう。
 けれど、リィリィを暗殺してしまっては、クレイン王子とリィリィを結婚させることはできない。

(どうにかして、わたくしが王族としてふさわしくないと考えていただいて、婚約を解消できさえすれば、次にリィリィが選ばれるのも難しくないようですのに……)

 ロゼッタは、思案気に息を吐いた。
この数日調べたところ、リィリィはロゼッタと並ぶ王子の婚約者候補に挙がっていることがわかった。

 リィリィは、男爵令嬢と王子の婚約などあり得ないと思っていたようだ。
けれど近年この国では、ブルジョアジーが台頭し、平民が力をつけている。
 国民への人気取りとして、成り上がりの貴族で、いまだ商会を経営している、貴族らしくない貴族であるガストン男爵家のリィリィを王子妃に押す層も多かったのである。

 ガストン男爵ひきいるガストン商会は、昨年のバララーク川の氾濫の時のすみやかかつ大規模な救援活動を行ったことで、平民たちの絶大な支持を得ていた。
特に、男爵令嬢でありながら下町にまで足を運び、救援の補助をしていたリィリィは一部の新聞では「聖女」とまで呼ばれていた。

(聖女だなんて、大げさですけど。リィリィは、愛らしいもの。貴族令嬢らしく凛とした雰囲気もあって、とても魅力的だわ。人間なんて、口ではどんなきれいごとを口にしても、容姿の美しいものには評価があまくなるもの。若く、かわいらしく、心きよらかに見えるリィリィは、いい旗印になりうる)

 これは友人への身びいきではないはずだ、とロゼッタは思う。

 リィリィは、ひかえめに言っても、ロゼッタのことが大好きだ。
たぶんリィリィの友人の中では、いちばんに好かれている。
さきほど読んでしまった日記を見れば、リィリィがひそかに恋心を寄せているクレイン王子よりも、好かれている気もする。

 そんなリィリィは、誰にむけるよりもいちばんかわいい笑顔をロゼッタに向けてくる。
なので、ロゼッタは世界でいちばんリィリィのかわいさを熟知していると自認している。

 けれどそんなロゼッタにはおよばないにしろ、リィリィに笑顔を向けれらた人間は、そこに親しみや好意を感じ取ってしまうような、そんな雰囲気がリィリィにはある。

 血まみれの前世の記憶を持ち、他人への警戒心が強いはずのロゼッタでさえ、はじめて出会った時から、リィリィに笑顔で話しかけられると、無視することはできなかった。
単なる男爵令嬢なんて、てきとうにあしらって話などきかなくてもいいはずなのに、まだ自分たちに「前世の記憶」という共通点があると気づいていない時でさえ、ロゼッタはリィリィの話を聞き、言葉をかわし、いまのような友人になった。

 リィリィには、そんな特別な魅力がある。
だからこそ、公爵令嬢のロゼッタに次いで、王子の相手として名前が挙がっているのだろう。

 現状、ロゼッタが王子にふさわしくないと思われれば、次にとりあげられるのはリィリィである可能性は高い。
 だからこそ、目指せ、婚約破棄。
ロゼッタはリィリィに「全力で嫌がらせ」しつつ、かつリィリィに害を与えない方法を考えなければいけないのだが、……それが難しい。

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