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この短い間にすっかりユリウス王子のファンになったらしいシスレイは、わたくしにこっそりウィンクをしながら部屋を出る。
対照的にハウアー様はとてもわたくしを心配そうに見ながら、扉を閉められた。
パタンと扉の閉まる音がする。
わたくしは執務机の椅子に座るようにうながされ、そこに座る。
ユリウス王子は少し離れた窓際の椅子に腰をおかけになった。
「さて、と」
ユリウス王子は、わたくしのほうを見て、おっしゃる。
その表情は、逆光になっていて、見えない。
王子の髪は黒いのに、輪郭だけが光に透けて金に輝いている。
その光だけが、奇妙にはっきりと目にうつった。
「リーリア・ハッセン。ちゃんと食事は、とっているかい?」
「え、は、はい」
予想外の王子のお言葉に、わたくしはみっともなく言葉につまる。
きっとシャナル王子のことで、責められると思っていたのに……。
ユリウス王子は、わたくしの返事を聞くと「そうか」と優しい声でおっしゃる。
「お父上のことは、聞いたよ。さぞかし、心配だろう」
「お気遣い、ありがとうございます。……父が不覚をとったこと、ハッセン公爵家の人間として、お詫び申し上げます」
わたくしは目をふせて、謝罪の言葉を吐いた。
お父様が悪いと思っているわけじゃない。
けれども、……将であるお父様だけが敵とともにさらわれたことは、軽率な行動だったと責められても仕方ないとは思っている。
けれど、ユリウス王子は強い口調でわたくしの謝罪を遮った。
「やめなさい。まだハッセン公爵の行動は、明瞭になっていない。彼の行動にどのような意味があるのか、私たちは誰も知らないんだ。その段階で、君が謝罪をすれば、ありもしないかもしれない公爵の咎を君が作り出すことになるんだよ」
「……もうしわけございません!」
「怒っているわけじゃない。こちらこそ、口調が強くなってすまなかった。だが、君はいまハッセン公爵家の代表的立場だ。言葉には、気をつけるべきだと思う」
「申し訳ございません……」
ユリウス王子がおっしゃることはもっともで、わたくしはお父様の行動を無意識におとしめていたと気づいて青くなった。
そんなつもりじゃなかった、なんて言い訳にもならない。
ユリウス王子に向かって下げた頭をそのままに、わたくしはもう一度謝罪した。
すると、
「ほら、また。謝罪は必要ないって言っただろう?」
いつのまに、移動したのか。
わたくしの頭上からユリウス王子のお声がした。
と同時に、ぽんと上から頭をおされ。
「ぶぐっ」
わたくしの頭を押した力はそんなに強いものではなかったけれど、ほとんど力の入っていなかったわたくしの頭は机に思いっきりぶつかった。
真っ先にぶつかった鼻がまがりそうに痛くて、口から豚の鳴き声のような声がもれる。
かっと顔が赤くなる。
わ、わたくしは、なんて奇妙な声を……。
けれども、わたくし以上に動揺していたのはユリウス王子だった。
「す、すまない!まさかそんなに勢いよく机にぶつかるとは思っていなかったんだ!力加減を間違えた!だ、だいじょうぶ……じゃないよな?ほんとうにすまない!」
おろおろとおっしゃる王子に、わたくしはそろりと顔をあげた。
「だい、じょうぶです……」
そういって、ユリウス王子へと顔を向ける。
すると王子は、ぎょっと目をむいた。
対照的にハウアー様はとてもわたくしを心配そうに見ながら、扉を閉められた。
パタンと扉の閉まる音がする。
わたくしは執務机の椅子に座るようにうながされ、そこに座る。
ユリウス王子は少し離れた窓際の椅子に腰をおかけになった。
「さて、と」
ユリウス王子は、わたくしのほうを見て、おっしゃる。
その表情は、逆光になっていて、見えない。
王子の髪は黒いのに、輪郭だけが光に透けて金に輝いている。
その光だけが、奇妙にはっきりと目にうつった。
「リーリア・ハッセン。ちゃんと食事は、とっているかい?」
「え、は、はい」
予想外の王子のお言葉に、わたくしはみっともなく言葉につまる。
きっとシャナル王子のことで、責められると思っていたのに……。
ユリウス王子は、わたくしの返事を聞くと「そうか」と優しい声でおっしゃる。
「お父上のことは、聞いたよ。さぞかし、心配だろう」
「お気遣い、ありがとうございます。……父が不覚をとったこと、ハッセン公爵家の人間として、お詫び申し上げます」
わたくしは目をふせて、謝罪の言葉を吐いた。
お父様が悪いと思っているわけじゃない。
けれども、……将であるお父様だけが敵とともにさらわれたことは、軽率な行動だったと責められても仕方ないとは思っている。
けれど、ユリウス王子は強い口調でわたくしの謝罪を遮った。
「やめなさい。まだハッセン公爵の行動は、明瞭になっていない。彼の行動にどのような意味があるのか、私たちは誰も知らないんだ。その段階で、君が謝罪をすれば、ありもしないかもしれない公爵の咎を君が作り出すことになるんだよ」
「……もうしわけございません!」
「怒っているわけじゃない。こちらこそ、口調が強くなってすまなかった。だが、君はいまハッセン公爵家の代表的立場だ。言葉には、気をつけるべきだと思う」
「申し訳ございません……」
ユリウス王子がおっしゃることはもっともで、わたくしはお父様の行動を無意識におとしめていたと気づいて青くなった。
そんなつもりじゃなかった、なんて言い訳にもならない。
ユリウス王子に向かって下げた頭をそのままに、わたくしはもう一度謝罪した。
すると、
「ほら、また。謝罪は必要ないって言っただろう?」
いつのまに、移動したのか。
わたくしの頭上からユリウス王子のお声がした。
と同時に、ぽんと上から頭をおされ。
「ぶぐっ」
わたくしの頭を押した力はそんなに強いものではなかったけれど、ほとんど力の入っていなかったわたくしの頭は机に思いっきりぶつかった。
真っ先にぶつかった鼻がまがりそうに痛くて、口から豚の鳴き声のような声がもれる。
かっと顔が赤くなる。
わ、わたくしは、なんて奇妙な声を……。
けれども、わたくし以上に動揺していたのはユリウス王子だった。
「す、すまない!まさかそんなに勢いよく机にぶつかるとは思っていなかったんだ!力加減を間違えた!だ、だいじょうぶ……じゃないよな?ほんとうにすまない!」
おろおろとおっしゃる王子に、わたくしはそろりと顔をあげた。
「だい、じょうぶです……」
そういって、ユリウス王子へと顔を向ける。
すると王子は、ぎょっと目をむいた。
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