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シスレイの言葉は、あまりに思いがけないものだった。
「わたくしの想い人がユリウス王子?ええ、もちろん違うけれども……」
わたくしとユリウス王子には、ほとんど面識もない。
同僚であるシスレイも、それは知っているはずだ。
シスレイの言葉の真意をはかりかねて、わたくしは言葉をにごした。
「そもそも、ユリウス王子ともほとんど面識もございませんし」
「それだから、リーリアはリーリアだわって思うわ」
「どういうことですの?」
シスレイの意味ありげなくすくす笑いに、すこし腹がたつ。
わたくしは今、次期王と目されている王子に反感をかっているのではないかと怯えているのに、シスレイのこののんびりした態度はどうだろう。
けれども、この態度もわたくしの緊張をやわらげてくれようとしてのことなのかしら。
シスレイは、もうひとつくすりと笑って、言う。
「面識なんてなくたって、人を想うことはあるでしょう?それに、ユリウス王子は次期王となられる方。年周りもわたくしたちより3歳年上とつり合いもとれますし、華やかで、楽しい方ですもの。お慕いしていても、不思議はないでしょう?」
「そういうものかしら?」
シスレイは力説するけれども、彼女も完全に他人事として語っている。
確かに、ユリウス王子に対する噂は好意的なものが多く、人に愛されている方だと思う。
よい人なのだろう。
見た目も、人をひきつける容姿だと思う。
けれども。
王として、ではなく。
個人の恋愛対象としてかんがえれば、お兄様と比べられるほどの方ではないと思う。
わたくしはお兄様が「リア」と呼ぶ、あの声を思い出した。
わたくしの頬に、髪に、いとおしげに触れてくださるときの、あの目を思い出した。
それだけで、胸がきゅんとする。
せつなく、あまい、うずき。
ユリウス王子のお顔を思い出しても、容姿の整った方だとは思うけれども、心は動かない。
あぁ、お兄様にお会いしたい。
あの手で触れてほしい。
「いいえ、ユリウス王子がどんなに人を引き付けるかたでも、関係ありませんわ。わたくしの想い人は違うかたですもの」
脱線しすぎた話をもどすべく、わたくしがきっぱりいうと、シスレイも「そうね」とうなずいた。
そして、空いたお皿を片付ける。
「長居しすぎたわ。そろそろ戻らないと、ハウアー様に怒られちゃう」
いたずらっぽく笑うシスレイに、わたくしも片づけを手伝いながら、
「ありがとう、シスレイ。お話していたら、すこし気が晴れたわ」
「人目を避けるためとはいえ、こうこもりっきりでは気疲れしますわよね」
シスレイはちいさく何度かうなずいて、トレーを持って扉へとむかう。
「リーリアも、今日は定刻で帰るんでしょう?帰りも、馬車までサポートしますから。ね」
「ありがとう」
なにごともなく、今日が終わればいい。
わたくしはシスレイにお礼を言って、扉をあけた。
そして、わたくしたちは二人して悲鳴をのみこんだ。
扉を開けたすぐ前のところに、渋面のハウアー様と、黒髪青目の美青年……ユリウス王子が立っていた。
どうして?
なぜ、王子がこんなところにいらっしゃるの?
まさに今、噂をしていた王子の登場に、シスレイの顔も青ざめている。
きっとわたくしも、同じような顔をしているだろう。
この部屋は、ふだんシャナル王子がお使いのお部屋だ。
扉の外に、中の会話が漏れ聞こえることなどないとは思うけれど、……心臓がばくばくと鳴る。
慌てて礼をとるわたくしとシスレイに、王子はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「やぁ。休憩は終わりかな?悪いけど、ここで待たせてもらったよ、リーリア・ハッセン」
その興味津々とばかりにわたくしを見つめるユリウス王子の視線に、わたくしは顔をこわばらせた。
「わたくしの想い人がユリウス王子?ええ、もちろん違うけれども……」
わたくしとユリウス王子には、ほとんど面識もない。
同僚であるシスレイも、それは知っているはずだ。
シスレイの言葉の真意をはかりかねて、わたくしは言葉をにごした。
「そもそも、ユリウス王子ともほとんど面識もございませんし」
「それだから、リーリアはリーリアだわって思うわ」
「どういうことですの?」
シスレイの意味ありげなくすくす笑いに、すこし腹がたつ。
わたくしは今、次期王と目されている王子に反感をかっているのではないかと怯えているのに、シスレイのこののんびりした態度はどうだろう。
けれども、この態度もわたくしの緊張をやわらげてくれようとしてのことなのかしら。
シスレイは、もうひとつくすりと笑って、言う。
「面識なんてなくたって、人を想うことはあるでしょう?それに、ユリウス王子は次期王となられる方。年周りもわたくしたちより3歳年上とつり合いもとれますし、華やかで、楽しい方ですもの。お慕いしていても、不思議はないでしょう?」
「そういうものかしら?」
シスレイは力説するけれども、彼女も完全に他人事として語っている。
確かに、ユリウス王子に対する噂は好意的なものが多く、人に愛されている方だと思う。
よい人なのだろう。
見た目も、人をひきつける容姿だと思う。
けれども。
王として、ではなく。
個人の恋愛対象としてかんがえれば、お兄様と比べられるほどの方ではないと思う。
わたくしはお兄様が「リア」と呼ぶ、あの声を思い出した。
わたくしの頬に、髪に、いとおしげに触れてくださるときの、あの目を思い出した。
それだけで、胸がきゅんとする。
せつなく、あまい、うずき。
ユリウス王子のお顔を思い出しても、容姿の整った方だとは思うけれども、心は動かない。
あぁ、お兄様にお会いしたい。
あの手で触れてほしい。
「いいえ、ユリウス王子がどんなに人を引き付けるかたでも、関係ありませんわ。わたくしの想い人は違うかたですもの」
脱線しすぎた話をもどすべく、わたくしがきっぱりいうと、シスレイも「そうね」とうなずいた。
そして、空いたお皿を片付ける。
「長居しすぎたわ。そろそろ戻らないと、ハウアー様に怒られちゃう」
いたずらっぽく笑うシスレイに、わたくしも片づけを手伝いながら、
「ありがとう、シスレイ。お話していたら、すこし気が晴れたわ」
「人目を避けるためとはいえ、こうこもりっきりでは気疲れしますわよね」
シスレイはちいさく何度かうなずいて、トレーを持って扉へとむかう。
「リーリアも、今日は定刻で帰るんでしょう?帰りも、馬車までサポートしますから。ね」
「ありがとう」
なにごともなく、今日が終わればいい。
わたくしはシスレイにお礼を言って、扉をあけた。
そして、わたくしたちは二人して悲鳴をのみこんだ。
扉を開けたすぐ前のところに、渋面のハウアー様と、黒髪青目の美青年……ユリウス王子が立っていた。
どうして?
なぜ、王子がこんなところにいらっしゃるの?
まさに今、噂をしていた王子の登場に、シスレイの顔も青ざめている。
きっとわたくしも、同じような顔をしているだろう。
この部屋は、ふだんシャナル王子がお使いのお部屋だ。
扉の外に、中の会話が漏れ聞こえることなどないとは思うけれど、……心臓がばくばくと鳴る。
慌てて礼をとるわたくしとシスレイに、王子はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「やぁ。休憩は終わりかな?悪いけど、ここで待たせてもらったよ、リーリア・ハッセン」
その興味津々とばかりにわたくしを見つめるユリウス王子の視線に、わたくしは顔をこわばらせた。
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