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リアの花は、小さな星型の白い花だ。
地味だけれども香りがよく、好む人は多い。
花言葉は、「故郷」。
よく詩にもよまれる花だ。

とはいえ、わたくしのことが好きだとおっしゃってくださっているシャナル王子が、リアの花を詠っていれば、そこにわたくしへの想いがあるのは明らかだ。
王子は、わたくしのことをリアと呼ぶ。
お兄様の真似をして。

「……わたくしは、王子とともになんて、歩きませんのに」

溜息とともに、言葉が漏れる。
この詩が書かれたのは、いつなのだろうか。
おそらくわたくしが王子に、別に好きな人がいると打ち明ける前のことだろう。

王子がこんな詩をよまれたのは、わたくしに好きな人がいるとは知らなかったからかもしれない。
それにもちろん、この詩をわたくしが読むことなど、王子は考えていらっしゃらなかっただろう。

ここに書かれた言葉は、わたくしの目に触れることがない前提で書かれた言葉のはずだ。
わたくしが王子宮で働くことになったのは、偶発的な出来事なのだから。

見なかったことにしよう。

わたくしはそう決めて、紙片を「冬」に分類した。
リアの花が咲くのは、冬だからだ。

これは、ただの季節の歌だ。
そうとだけ、わたくしは読んだのだ。
恋の歌なんて、わたくしは読んでいない。

頭の中の記憶を塗り替えて、わたくしは紙片の整理に戻る。

「ナイチンゲール、これは春。北風、これは冬……」

けれども、ふと気づく。
確かに王子は、わたくしがこの詩を読むとは考えていなかっただろう。
けれども、ハウアー様は?

王子がつくった詩に、ハウアー様は目を通していなかったのだろうか?
これらの詩作は分類されていなかったのだから、その可能性はある。
けれども、あるいは王子の詩の内容を知っていて、わたくしに詩を整理させた可能性もある。
わたくしに、この詩を読ませるために。
王子の想いを、わたくしに知らしめるために。

……けれども、そんなことをしても意味などない。
わたくしは、王子のお気持ちを知っても、心が揺らぐことなんてない。

わたくしに見せるわけでもない詩に、わたくしへの恋心が読まれていたら、女の子は心をときめかせるものだと、ハウアー様は考えたのかもしれない。
そういう小説を、わたくしも何度か読んだことがある。

けれども、それは小説だけのこと。
現実では、好きな人がいる人間が、別の人に想われていると知っても、心を揺らすことなんてないと思う。
もしハウアー様の意図がわたくしの考え通りなら、ハウアー様は女の子に夢を見すぎか、小説の読みすぎだろう。

まぁ、おそらくこのような考えは、わたくしのうがちすぎでしょうけど。

いらないことばかり、考えている。
考えなくてはいけないことは、たくさんあるというのに。
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