上 下
170 / 190

118

しおりを挟む
あるいは、逆にシャナル王子を王位につけないために、王族にふさわしい魔力をもたないわたくしと結婚させようとしている、ということも考えられるだろうか。

いいえ。
おそらく、それはありえない。

わたくしの魔力はそう強くはないけれども、王配に望まれる魔力はそう多くはない。
現に、現王配であるスノー様の魔力よりは、恐れ多いことだけれども、わたくしの魔力のほうが多いのではないかと思う。

王となる方があまり魔力が強くなく、王配の力添えを必要とするのであればまた事情も変わるだろうけれども、シャナル王子については、そのような心配もない。

わたくしと結婚することで、シャナル王子を王位から遠ざける企みというのは、あまりなさそうだ。

ということは、わたくしが把握していない「なにか」の事情があるのだろう。

考えているうちに、王子宮に到着していた。
シスレイの後について、宮に入り、先に出勤されている皆様にご挨拶をする。
ひととおりの挨拶を終えると、ハウアー様に小部屋に呼び出された。

「リーリア・ハッセン。昨夜はきちんと睡眠をとれましたか?」

「……はい。皆様のお心遣いのおかげで、平常通りの休息を得られました」

強がりまじりのわたくしの返答に、ハウアー様はじっとわたくしの顔をのぞきこみ、観察される。
そして、「ふむ」とうなずかれた。

「まぁ、いいでしょう。体調管理も、我々の大切な職務のひとつです。貴女が王城に勤めている限り、貴女の立場がどう変わろうと、そのことは変わりません。忙しいからといって、睡眠や食事をおろそかにし、体調を崩すのは、職務に反すると覚えておきなさい」

「はい」

ハウアー様のお言葉は、時折とても厳しく、正しい。
そしてその正しさは、いつも誰かを想っての正しさなのだ。
今回のお言葉は、わたくしのためのお言葉だ。

現在のわたくしは、王都においてはハッセン公爵の一時代理のようなものだ。
それはわたくしには重すぎる任で、わたくしは気を抜けばすぐにその重責にのまれるだろう。
ハウアー様はそれを予見して、睡眠と食事はきちんととるようにと伝えてくださっている。

シャナル王子の筆頭側仕えとして、王子を危険にさらす一因となったわたくしにおもうところがないわけではないだろうに、こうして気遣ってくださる。
信頼のできる方なのだと、思う。

だからこそ、わたくしとシャナル王子の噂について、どのようにお考えなのかと思うと、恐ろしかった。
わたくしはハウアー様のお言葉を聞きながら、先ほどの話をハウアー様が切り出されるのを怯えつつ待っていた。

けれども、ハウアー様は言葉を切ると、とつぜんわたくしへと頭を下げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

婚約破棄は踊り続ける

お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。 「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

処理中です...