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夢の余韻をひきずりながら、わたくしは王城へと入る。
シャナル王子の王子宮まで歩く途中、周囲の人々の視線を感じた。
……覚悟していたことだ。
うつむきそうになる視線をまっすぐに固定し、背筋を伸ばして歩く。
昨日は醜態をさらしてしまったとはいえ、これ以上の醜態はさらしてはいけない。
わたくしはハッセン公爵の娘であり、この王城で働く小翼なのだから。
王城の中のことである。
わたくしへ向けられる視線もそうあからさまなものではなく、すれ違いざまにちらちらとみられるくらいである。
すれ違いざまにこずかれることも、悪意ある言葉を投げつけられることもなかった。
父の失態を、王子に救ってもらおうというのだ。
多少の悪意を受ける覚悟はしていた。
この程度の視線など、なんの罰にもならない。
この先、例えどんな罵詈雑言を受けようとも、わたくしは毅然として受け入れよう。
それが王城に残ったハッセン公爵家の人間のできることのひとつのはずだ。
わたくしは静かに、ゆっくりと廊下を歩く。
人々の視線を感じて震えそうになるのをごまかすために、先ほどの夢のことを思う。
短い、けれども不思議な夢だった。
一昨日の夜、お兄様を見た時のような、不思議な現実感のある夢。
お兄様がいらして、お父様もいらした。
お父様は何かと戦っていらしたようだけれども、力のある目を保っていらした。
わたくしが王に申し上げた通り、お父様は心も魔力もお強い方だ。
あれが正夢なら、きっとお父様はご無事だろう。
……シャナル王子も、お元気そうだった。
夢の中のこととはいえ、安堵する。
あの不思議な夢は、正夢だといい。
そしてみんな、無事に帰ってきてくださればいい……。
「リーリア……!」
わたくしに向けられる視線を遮断するために考え事に没頭しながらあるいていると、ふいに手をひかれた。
どきりとしてそちらへ目を向けると、唇に指をたてたシスレイがそっとわたくしの手をひく。
意味がわからないながらついていくと、シスレイは廊下の端の壁をそっと反転させる。
周囲に人目がないのを確認すると、わたくしにも後に続くよう促した。
人の姿がないことを確認しながら、シスレイは歩く。
わたくしもシスレイの緊張がうつったかのように、そっと視線をめぐらせながら、後を追った。
幸いにして、この隠し廊下には人の姿はなかった。
隠し廊下といってもこの廊下は、王族が非常時に使用する脱出路などではなく、メイドなどの使用人が表の人間の目につかないように移動するための廊下のようだ。
ところどころにゴミを集める箱や掃除用具が置かれている。
通常であれば、わたくしたち小翼や官吏は、こちらの廊下は使用しない。
こちら側の廊下を使用するのは、料理や洗濯を実際に行う使用人たちが主なのだ。
側仕えの侍官たちは、彼らがここまで運んできた料理や洗濯ものを決められた場所で受け取り、王族に提供するというのが基本だ。
こちら側の廊下をわたくしたちが使用することを禁じられているわけではないのだけれども、隠し廊下の入り口はわかりにくく、移動の距離間もつかみにくいので、小翼で隠し廊下を使用する人間は少ない。
けれどシスレイは、迷わずどこかへと向かっているようだった。
シャナル王子の王子宮まで歩く途中、周囲の人々の視線を感じた。
……覚悟していたことだ。
うつむきそうになる視線をまっすぐに固定し、背筋を伸ばして歩く。
昨日は醜態をさらしてしまったとはいえ、これ以上の醜態はさらしてはいけない。
わたくしはハッセン公爵の娘であり、この王城で働く小翼なのだから。
王城の中のことである。
わたくしへ向けられる視線もそうあからさまなものではなく、すれ違いざまにちらちらとみられるくらいである。
すれ違いざまにこずかれることも、悪意ある言葉を投げつけられることもなかった。
父の失態を、王子に救ってもらおうというのだ。
多少の悪意を受ける覚悟はしていた。
この程度の視線など、なんの罰にもならない。
この先、例えどんな罵詈雑言を受けようとも、わたくしは毅然として受け入れよう。
それが王城に残ったハッセン公爵家の人間のできることのひとつのはずだ。
わたくしは静かに、ゆっくりと廊下を歩く。
人々の視線を感じて震えそうになるのをごまかすために、先ほどの夢のことを思う。
短い、けれども不思議な夢だった。
一昨日の夜、お兄様を見た時のような、不思議な現実感のある夢。
お兄様がいらして、お父様もいらした。
お父様は何かと戦っていらしたようだけれども、力のある目を保っていらした。
わたくしが王に申し上げた通り、お父様は心も魔力もお強い方だ。
あれが正夢なら、きっとお父様はご無事だろう。
……シャナル王子も、お元気そうだった。
夢の中のこととはいえ、安堵する。
あの不思議な夢は、正夢だといい。
そしてみんな、無事に帰ってきてくださればいい……。
「リーリア……!」
わたくしに向けられる視線を遮断するために考え事に没頭しながらあるいていると、ふいに手をひかれた。
どきりとしてそちらへ目を向けると、唇に指をたてたシスレイがそっとわたくしの手をひく。
意味がわからないながらついていくと、シスレイは廊下の端の壁をそっと反転させる。
周囲に人目がないのを確認すると、わたくしにも後に続くよう促した。
人の姿がないことを確認しながら、シスレイは歩く。
わたくしもシスレイの緊張がうつったかのように、そっと視線をめぐらせながら、後を追った。
幸いにして、この隠し廊下には人の姿はなかった。
隠し廊下といってもこの廊下は、王族が非常時に使用する脱出路などではなく、メイドなどの使用人が表の人間の目につかないように移動するための廊下のようだ。
ところどころにゴミを集める箱や掃除用具が置かれている。
通常であれば、わたくしたち小翼や官吏は、こちらの廊下は使用しない。
こちら側の廊下を使用するのは、料理や洗濯を実際に行う使用人たちが主なのだ。
側仕えの侍官たちは、彼らがここまで運んできた料理や洗濯ものを決められた場所で受け取り、王族に提供するというのが基本だ。
こちら側の廊下をわたくしたちが使用することを禁じられているわけではないのだけれども、隠し廊下の入り口はわかりにくく、移動の距離間もつかみにくいので、小翼で隠し廊下を使用する人間は少ない。
けれどシスレイは、迷わずどこかへと向かっているようだった。
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