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エミリオ 12
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「リーリア……!」
身をひるがえして、俺の部屋から出て行こうとするリーリアの肩をつかむ。
その手に力をこめて、リーリアの体を無理やり俺のほうにむけて、……気づいた。
気丈に俺を睨んでくるリーリアの目じりには涙がうかび、かすかに体が震えている。
……俺、なにやってんだ?
初めは、確かにリーリアを慰めようとしただけだった。
泣かせるつもりはあったけど、それは泣くことがリーリアの緊張しきった気持ちを和らげると思ったからだ。
父親の行方がわかんねーって時に、まわりにすがることもできないリーリアを支えたいって思ったからなのに。
今の俺がしていることって、なんだ?
ただリーリアをこわがらせて、余計な負担を与えているだけじゃねーか。
気持ちを支える、なんてのは、相手の気持ちに寄り添ってなきゃ意味がねぇ。
そんなの基本中の基本で、それこそ貴族も庶民も関係ないってのに。
支えるどころか、俺が負担を増やしてどうすんだよ。
俺はリーリアから手を離し、がばっと頭を下げた。
「ごめん。リーリア姉様。余計なこと、した」
「エミリオ……」
姉様、と付け加えたのは、リーリアの警戒を解くためだ。
リーリアが姉として扱えっていうなら、今はそのとおりにする。
……もう、俺の中じゃ、リーリアは「姉」じゃなくなったけど。
気持ちに反して「姉様」と呼ぶと、リーリアは今にも逃げ出そうと扉に向かっていた体を反転させて、俺のほうに向き直る。
それでもやっぱり警戒はほどけきらなくて、リーリアは俺から一歩退いて、距離をとった。
盾にでもするように胸の前で自分の手をぎゅっと握り、俺を見てくるリーリアに、地味にダメージを受ける。
くっそ。
初対面の顔合わせの時より、警戒されてんじゃねーか。
こんな状況で、一応は味方だと思われてたのに、リーリアを警戒させるとか……。
負担かけまくりだろ。
俺、ほんとうに余計なことをしちまったよな。
「悪い。リーリア姉様を助けるつもりで、かえって追い詰めた。すぐ許してくれとはいえねーけど、俺は、リーリア姉様の味方だから。それだけは覚えといて」
せめて自分はリーリアの味方で、もしもリーリアがもうだめだって思った時は頼ってほしくて、言葉を重ねる。
けど。
「……そんな。わたくしのほうこそ、エミリオがわたくしを気遣ってくれているのはわかっているのに、受け入れることができなくてごめんなさい」
リーリアは、申し訳なさそうに目を伏せて言う。
その体は、まだ震えているのにさぁ。
あー、ちくしょ。
ここで謝るのも不正解だったか?
リーリアに謝って欲しいわけじゃねー、頼りにしてほしいだけなんだってのに!
普通の、俺が今まで知っていた子たちとは、反応がちがいすぎる。
うまく慰めることもできねーとか、ぁあ、もう!
「リーリア姉様が謝るのは、違うだろ。俺が暴走したんだし。ほんと、ごめん。俺ってここにいてもなんの役にもたてねーのかなって、ちょっと焦ってた。俺だって、リーリア姉様の味方なのに、頼ってくれって……、自分のことばっか考えてて。ほんと、ごめん」
口に出したのは、ほんとうのこと。
なのに思いっきり嘘ついている気分になったのは、リーリアが泣きそうに顔をゆがめたからだ。
むきになって頼らせようとしたのって、俺がリーリアのこと、女子として意識しているからでもある。
なのにいい子ぶってんじゃねーよって、自分で思う。
「……わたくしのほうこそ。わたくし、わたくしは弱くて、主としていたらなくて。そんな自分を守るために、あなたを傷つけているのに……」
うわ。リーリア、ほんとうに泣きそうになっている。
泣きたくないって、俺のことつっぱねたのに。
でもって、俺も、こんなふうに泣かせたいわけじゃねーのに…!
身をひるがえして、俺の部屋から出て行こうとするリーリアの肩をつかむ。
その手に力をこめて、リーリアの体を無理やり俺のほうにむけて、……気づいた。
気丈に俺を睨んでくるリーリアの目じりには涙がうかび、かすかに体が震えている。
……俺、なにやってんだ?
初めは、確かにリーリアを慰めようとしただけだった。
泣かせるつもりはあったけど、それは泣くことがリーリアの緊張しきった気持ちを和らげると思ったからだ。
父親の行方がわかんねーって時に、まわりにすがることもできないリーリアを支えたいって思ったからなのに。
今の俺がしていることって、なんだ?
ただリーリアをこわがらせて、余計な負担を与えているだけじゃねーか。
気持ちを支える、なんてのは、相手の気持ちに寄り添ってなきゃ意味がねぇ。
そんなの基本中の基本で、それこそ貴族も庶民も関係ないってのに。
支えるどころか、俺が負担を増やしてどうすんだよ。
俺はリーリアから手を離し、がばっと頭を下げた。
「ごめん。リーリア姉様。余計なこと、した」
「エミリオ……」
姉様、と付け加えたのは、リーリアの警戒を解くためだ。
リーリアが姉として扱えっていうなら、今はそのとおりにする。
……もう、俺の中じゃ、リーリアは「姉」じゃなくなったけど。
気持ちに反して「姉様」と呼ぶと、リーリアは今にも逃げ出そうと扉に向かっていた体を反転させて、俺のほうに向き直る。
それでもやっぱり警戒はほどけきらなくて、リーリアは俺から一歩退いて、距離をとった。
盾にでもするように胸の前で自分の手をぎゅっと握り、俺を見てくるリーリアに、地味にダメージを受ける。
くっそ。
初対面の顔合わせの時より、警戒されてんじゃねーか。
こんな状況で、一応は味方だと思われてたのに、リーリアを警戒させるとか……。
負担かけまくりだろ。
俺、ほんとうに余計なことをしちまったよな。
「悪い。リーリア姉様を助けるつもりで、かえって追い詰めた。すぐ許してくれとはいえねーけど、俺は、リーリア姉様の味方だから。それだけは覚えといて」
せめて自分はリーリアの味方で、もしもリーリアがもうだめだって思った時は頼ってほしくて、言葉を重ねる。
けど。
「……そんな。わたくしのほうこそ、エミリオがわたくしを気遣ってくれているのはわかっているのに、受け入れることができなくてごめんなさい」
リーリアは、申し訳なさそうに目を伏せて言う。
その体は、まだ震えているのにさぁ。
あー、ちくしょ。
ここで謝るのも不正解だったか?
リーリアに謝って欲しいわけじゃねー、頼りにしてほしいだけなんだってのに!
普通の、俺が今まで知っていた子たちとは、反応がちがいすぎる。
うまく慰めることもできねーとか、ぁあ、もう!
「リーリア姉様が謝るのは、違うだろ。俺が暴走したんだし。ほんと、ごめん。俺ってここにいてもなんの役にもたてねーのかなって、ちょっと焦ってた。俺だって、リーリア姉様の味方なのに、頼ってくれって……、自分のことばっか考えてて。ほんと、ごめん」
口に出したのは、ほんとうのこと。
なのに思いっきり嘘ついている気分になったのは、リーリアが泣きそうに顔をゆがめたからだ。
むきになって頼らせようとしたのって、俺がリーリアのこと、女子として意識しているからでもある。
なのにいい子ぶってんじゃねーよって、自分で思う。
「……わたくしのほうこそ。わたくし、わたくしは弱くて、主としていたらなくて。そんな自分を守るために、あなたを傷つけているのに……」
うわ。リーリア、ほんとうに泣きそうになっている。
泣きたくないって、俺のことつっぱねたのに。
でもって、俺も、こんなふうに泣かせたいわけじゃねーのに…!
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