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シャナル王子 13

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「……お父様が、行方不明?」

ざぁっとリアの顔から、血の気が失せる。
慌ててリアにかけよって手を握ると、リアは震える指で、力いっぱい僕の手を握りしめてきた。

「詳しくは、軍部でお聞きください」

青ざめて震えるリアを、軍人は気の毒そうに見ながら、言う。
だけどその目にほんの少し、リアと手を握る僕への好奇心が見えた。

あー、やだやだ。クズが。

非常事態だってのに、リアに手を握られてどきどきしている僕も僕だけど、危険な任務に赴いた上官が行方不明だと年若い令嬢に伝えている時に、噂話の種を見つけて喜んでいるなんてさ、この軍人ってほんとクズだよねー。

僕はいらいらする気持ちをかくさず、軍人をにらみつける。
ついでに魔力で威嚇してやると、軍人は自分も顔色を青くさせた。

……こんなことしても、ますます噂を煽るだけかもしれないけどさ。
なんかせずにはいられないじゃん。

「すぐに軍部会議所に行く。案内しろ」

いつもの僕らしくない口調で、軍人に命令する。
軍部会議所の場所なんてわかっているけど、さっさと男の視線をリアからそらしたかった。
男は恐縮ばって、僕たちの先に立って、歩き始める。

うんうん、それでいいんだよー。
振り返って、リアの姿をもう一度見ようなんて思うなよ?
うっかり僕、魔力暴走しちゃうかもしれないからねー。

「リア。僕がついているから」

リアの手を握って、力づけるように言う。
けれどリアは青ざめた顔に無理に笑みを浮かべようとして、ますます辛そうだった。

くそっ。僕の役立たず。
僕がついているから?
だから、なんなんだっていうんだ?

ハッセン公爵は、リアにとって唯一無二の尊敬し愛する父で、僕はリアの心の隅っこにおいてもらっているだけの手のかかる王子でしかない。
ガイ・ハッセンならともかく、こんな僕が傍にいたところで、リアにはなんの慰めにもならないよね。
なのにリアの王子様気取りで、リアの手を握ってさ。
僕なんかが傍にいたって、リアにはぜんぜん気持ちの支えにならないのにね。

わかっているよ。
でも、青ざめた顔のリアの手を離すことができず、僕はリアの手をひいて、軍部会議所に向かう。

ちらちらと、あちこちから視線を感じる。
リアはそれどころじゃないっぽくて、ただ必死で歩いている。

当然だよね。
行方不明になったのは、リアの大切な家族なんだから。

リアをかわいそうだと思う反面、そんなふうにリアに大切に思われているハッセン公爵がねたましい。
僕が行方不明になったら、リアはこの百分の一でも、心配してくれるかな?

あーあ、自分の大切な人がこんな苦しそうなのに、こんなことばっか考えちゃうとか。
僕って、ほんとうにどこか壊れているのかもしれない。
だから、リアは僕を選んでくれないのかな。

でも、今、リアの震える手を握っているのは、僕だ。

たとえそれが、この場にハッセン公爵やガイ・ハッセンがいないからだとしても。
震えるリアを、支えているのは、僕だ。

だから僕は、好奇の目をこちらに向ける周囲を威嚇しつつ、リアの手を握ったまま軍部会議所にむかった。
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