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「もう遅いから」とエミリオが部屋を出たので、寝支度を整えた。
ルルーが下がった後も、ひとりで髪をブラッシングする。
考えれば考えるほど、今日もわたくしは至らない。
王子との噂を消すという、簡単そうなことすら解決策が見つけられないままだ。
エミリオに提案されたように、このまま何もしないで静観しているほうがいいのかもしれない。
けれど、あちこちに問題が山積みにされている中、いちばん手が付けやすそうなこの問題に、なにか手出ししたくなる。
愚者の考えだわ。
街のことをわたくしよりもよく知っているエミリオが止めたのなら、わたくしは現状で軽々に動かないほうがいいのだろう。
「人の噂も75日」というのは、前世のわたくしのいた世界のことわざだった。
75日というのは長すぎるけれど、とりあえず様子見すべきだろう。
……ということは、今日も問題はなにひとつ解決せず、増えただけということで。
次々にため息がこぼれるのも仕方ない。
零れ落ちそうな涙は、こぼしていないのだから。
目が赤くなったら、ルルーたちに心配されるますものね。
わたくしは少し躊躇しながら、床の上に座る。
背筋を伸ばして、両足を前で組むように……、痛い。
脚の付け根が、痛くて、立ち上がる。
脚をメインにストレッチをして、再度挑戦。
今度は、なかなかいい感じだ。
手も前に組んで、目を閉じて、ゆっくりと呼吸をする。
全身に、呼吸がいきわたるのを意識するように。
これは、前世のわたくしがしていた「ヨガ」という体術のひとつだ。
柔軟な体と「気」を整えるのにいいのだと、前世のわたくしの母にすすめられて、彼女はならっていたのだけれども、この「気」についての考え方が、一部魔術や魔力の扱いに似ている気がした。
目を閉じて、呼吸に意識しながら、体内にめぐる魔力を意識する。
目に見えるものではないから明白にはわかららないけれど、体の中に「なにか」がある気がした。
……気のせいかもしれないけれど。
思い出すのは、今日の朝、シャナル王子に紅茶を注いだ時のポット。
無意識にお湯を沸かした時の、魔力の使い方。
じゅうぶんに「気」を高めたと思ったところで、机に置かれたポットに手を伸ばす。
ルルーに用意してもらった水が入ったポットだ。
これをお湯に、と思った瞬間、魔力が体から動くのを感じた。
一瞬で、水はお湯に変わる。
そっと指で触れるとポットは熱く、おそらくポットの中の水は沸騰したお湯に変わったのだろう。
けれど、これでは失敗か成功か、よくわからなかった。
もともとの能力として、このサイズのポットの水をお湯に変えることはできる。
あの時驚いたのは、自分でも無意識にお湯を沸騰させるという魔力消費量の少なさにだったのだ。
今はふだんと同様、魔力を動かしたという意識はある。
その使用量は、ふだんよりすこし少ない気もするけれども、気のせいかもしれないというレベルだ。
「……そう簡単には、いきませんわよね」
魔力があがっているのなら、今日一日の不出来も一掃される快挙だと思ったけれども、現実はあまくない。
わたくしはもう一度呼吸法を試して、眠りについた。
……あぁ、お兄様にぎゅっと抱きしめていただきたい。
そうしたら、明日もがんばろうと思えるのに……。
ルルーが下がった後も、ひとりで髪をブラッシングする。
考えれば考えるほど、今日もわたくしは至らない。
王子との噂を消すという、簡単そうなことすら解決策が見つけられないままだ。
エミリオに提案されたように、このまま何もしないで静観しているほうがいいのかもしれない。
けれど、あちこちに問題が山積みにされている中、いちばん手が付けやすそうなこの問題に、なにか手出ししたくなる。
愚者の考えだわ。
街のことをわたくしよりもよく知っているエミリオが止めたのなら、わたくしは現状で軽々に動かないほうがいいのだろう。
「人の噂も75日」というのは、前世のわたくしのいた世界のことわざだった。
75日というのは長すぎるけれど、とりあえず様子見すべきだろう。
……ということは、今日も問題はなにひとつ解決せず、増えただけということで。
次々にため息がこぼれるのも仕方ない。
零れ落ちそうな涙は、こぼしていないのだから。
目が赤くなったら、ルルーたちに心配されるますものね。
わたくしは少し躊躇しながら、床の上に座る。
背筋を伸ばして、両足を前で組むように……、痛い。
脚の付け根が、痛くて、立ち上がる。
脚をメインにストレッチをして、再度挑戦。
今度は、なかなかいい感じだ。
手も前に組んで、目を閉じて、ゆっくりと呼吸をする。
全身に、呼吸がいきわたるのを意識するように。
これは、前世のわたくしがしていた「ヨガ」という体術のひとつだ。
柔軟な体と「気」を整えるのにいいのだと、前世のわたくしの母にすすめられて、彼女はならっていたのだけれども、この「気」についての考え方が、一部魔術や魔力の扱いに似ている気がした。
目を閉じて、呼吸に意識しながら、体内にめぐる魔力を意識する。
目に見えるものではないから明白にはわかららないけれど、体の中に「なにか」がある気がした。
……気のせいかもしれないけれど。
思い出すのは、今日の朝、シャナル王子に紅茶を注いだ時のポット。
無意識にお湯を沸かした時の、魔力の使い方。
じゅうぶんに「気」を高めたと思ったところで、机に置かれたポットに手を伸ばす。
ルルーに用意してもらった水が入ったポットだ。
これをお湯に、と思った瞬間、魔力が体から動くのを感じた。
一瞬で、水はお湯に変わる。
そっと指で触れるとポットは熱く、おそらくポットの中の水は沸騰したお湯に変わったのだろう。
けれど、これでは失敗か成功か、よくわからなかった。
もともとの能力として、このサイズのポットの水をお湯に変えることはできる。
あの時驚いたのは、自分でも無意識にお湯を沸騰させるという魔力消費量の少なさにだったのだ。
今はふだんと同様、魔力を動かしたという意識はある。
その使用量は、ふだんよりすこし少ない気もするけれども、気のせいかもしれないというレベルだ。
「……そう簡単には、いきませんわよね」
魔力があがっているのなら、今日一日の不出来も一掃される快挙だと思ったけれども、現実はあまくない。
わたくしはもう一度呼吸法を試して、眠りについた。
……あぁ、お兄様にぎゅっと抱きしめていただきたい。
そうしたら、明日もがんばろうと思えるのに……。
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