上 下
102 / 190

シャナル王子 12

しおりを挟む
リアが語り始めたのは、リアが僕と同じくらいの年齢の時のことだった。

父であるハッセン公爵に連れて行かれた異国のこと、そこで見た国の荒廃、苦しむ人々……。
それを見たリアが、自分に、自分の国の彼らと同じような立場の人間を救う力があることを喜んだこと。
ハッセン公爵を継ぐ力はないにしても、貴族としてか礼族としてか、自分の力が持てる最大限を尽くして、国を守ろうと決めたこと。

そんなことを、丁寧に、話してくれる。

たぶん、リアは、僕にもこの国を守る意義とかを知らせたいんだろうな。
僕が、この力で、この国を守ることを誇れるようにって。

そのリアの意図はわかるんだけど、僕には無意味だよって言いたい。

国がぼろぼろになったら傷つく人がいるとか、そういう苦しみから民を守れる力は尊いとか、そういうの僕の心にはなんの影響もないんだ。

僕が欲しいのは、リアだけで。
僕にとって価値があるのは、リアだけで。
顔もみたことない、有象無象の民なんて、喜ぼうが苦しもうが、どうだっていい。

でも、そう言ってしまえば、リアに嫌われる。

だから僕は、リアが語る想いを、まるで理解しているみたいにふるまう。

「……わかった」

なにもわからないのに、知ったかぶりで、僕が言う。
リアは心配そうに、でもほっとした顔で僕を見ている。

これで、正解なんだよね?

「言っちゃいけないことを言って、ごめんなさい」

民を代償にと言えば、リアが手に入るかと思ったのに、だめだった。
リアは僕を正当に説得して、……僕はその内容にはぜんっぜん共感できないのに、リアに嫌われたくなくて、うなずくしかない。

「あやまるから、だから。……僕のこと、嫌いにならないで」

目からこぼれる涙をおもいっきりながして、えぐえぐと子どもっぽくなく。
半分は本気で、半分はリアに対するアピールだ。

ほら、見て。
僕は、子どもだよ。
まだ、こんなに子どもなんだ。

だから、許して。
側にいて。
僕のこと、捨てないで。

お願いだよ、リア。

リアは、ぎゅっと僕を抱きしめてくれた。

「嫌いになんてならないと申し上げましたわ、王子。わたくしが恋をしているのは別の方で、その気持ちはきっとかわりません。わたくしも、この恋をあきらめられないんです。でも、王子のお気持ちも心にとめておきます」

「えっ」

僕はびっくりして、リアを見上げた。
リアの空色の目は、困惑と迷いに揺れている。
だけど、その澄んだ色の瞳は、僕の存在を許すかのように、僕の姿をうつしていた。

「わたくしも、王子も。自分の恋をあきらめられない同士ですわ。今はまだこの気持ちを抱えたまま、これまで通りの関係を続けるというのはいかがでしょうか」

「それって…、リアは僕から逃げないってこと?今までみたいに、傍にいてくれるの?」

「王子の側仕えとしてお傍にいるのは、文化部に戻るまでの間だけです。でも、文化部に戻ってからも、これまでと同じように、およびいただければお傍に参りますよ」

これまでどおり。
それじゃ嫌だって思っていたはずなのに、今の僕には、それでもじゅうぶんすぎるくらい魅力的だった。

いちもにもなく、僕はうなずく。

「うん、わかった!じゃぁ、僕は、リアに好きになってもらえるように、いままで以上にがんばるね!」

そういうと、リアは困ったような顔をする。
リアが、ガイ・ハッセンへの恋を捨てるつもりなんてないってことはわかる。
だって、僕だって、リアへの恋をあきらめるつもりなんてないから。

それでも、いいんだ。
こうなったら、当初の予定通り、長期戦でリアに好きになってもらうだけだ。

ついつい傍にいられることになったこの好機に関係を進めようとして失敗しちゃったけど、やっぱり計画はじっくりねっとりすすめるべきだよね!

えへへっとリアに笑いかけると、リアも困り顔で笑い返してくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

婚約破棄は踊り続ける

お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。 「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

処理中です...