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シャナル王子 12
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リアが語り始めたのは、リアが僕と同じくらいの年齢の時のことだった。
父であるハッセン公爵に連れて行かれた異国のこと、そこで見た国の荒廃、苦しむ人々……。
それを見たリアが、自分に、自分の国の彼らと同じような立場の人間を救う力があることを喜んだこと。
ハッセン公爵を継ぐ力はないにしても、貴族としてか礼族としてか、自分の力が持てる最大限を尽くして、国を守ろうと決めたこと。
そんなことを、丁寧に、話してくれる。
たぶん、リアは、僕にもこの国を守る意義とかを知らせたいんだろうな。
僕が、この力で、この国を守ることを誇れるようにって。
そのリアの意図はわかるんだけど、僕には無意味だよって言いたい。
国がぼろぼろになったら傷つく人がいるとか、そういう苦しみから民を守れる力は尊いとか、そういうの僕の心にはなんの影響もないんだ。
僕が欲しいのは、リアだけで。
僕にとって価値があるのは、リアだけで。
顔もみたことない、有象無象の民なんて、喜ぼうが苦しもうが、どうだっていい。
でも、そう言ってしまえば、リアに嫌われる。
だから僕は、リアが語る想いを、まるで理解しているみたいにふるまう。
「……わかった」
なにもわからないのに、知ったかぶりで、僕が言う。
リアは心配そうに、でもほっとした顔で僕を見ている。
これで、正解なんだよね?
「言っちゃいけないことを言って、ごめんなさい」
民を代償にと言えば、リアが手に入るかと思ったのに、だめだった。
リアは僕を正当に説得して、……僕はその内容にはぜんっぜん共感できないのに、リアに嫌われたくなくて、うなずくしかない。
「あやまるから、だから。……僕のこと、嫌いにならないで」
目からこぼれる涙をおもいっきりながして、えぐえぐと子どもっぽくなく。
半分は本気で、半分はリアに対するアピールだ。
ほら、見て。
僕は、子どもだよ。
まだ、こんなに子どもなんだ。
だから、許して。
側にいて。
僕のこと、捨てないで。
お願いだよ、リア。
リアは、ぎゅっと僕を抱きしめてくれた。
「嫌いになんてならないと申し上げましたわ、王子。わたくしが恋をしているのは別の方で、その気持ちはきっとかわりません。わたくしも、この恋をあきらめられないんです。でも、王子のお気持ちも心にとめておきます」
「えっ」
僕はびっくりして、リアを見上げた。
リアの空色の目は、困惑と迷いに揺れている。
だけど、その澄んだ色の瞳は、僕の存在を許すかのように、僕の姿をうつしていた。
「わたくしも、王子も。自分の恋をあきらめられない同士ですわ。今はまだこの気持ちを抱えたまま、これまで通りの関係を続けるというのはいかがでしょうか」
「それって…、リアは僕から逃げないってこと?今までみたいに、傍にいてくれるの?」
「王子の側仕えとしてお傍にいるのは、文化部に戻るまでの間だけです。でも、文化部に戻ってからも、これまでと同じように、およびいただければお傍に参りますよ」
これまでどおり。
それじゃ嫌だって思っていたはずなのに、今の僕には、それでもじゅうぶんすぎるくらい魅力的だった。
いちもにもなく、僕はうなずく。
「うん、わかった!じゃぁ、僕は、リアに好きになってもらえるように、いままで以上にがんばるね!」
そういうと、リアは困ったような顔をする。
リアが、ガイ・ハッセンへの恋を捨てるつもりなんてないってことはわかる。
だって、僕だって、リアへの恋をあきらめるつもりなんてないから。
それでも、いいんだ。
こうなったら、当初の予定通り、長期戦でリアに好きになってもらうだけだ。
ついつい傍にいられることになったこの好機に関係を進めようとして失敗しちゃったけど、やっぱり計画はじっくりねっとりすすめるべきだよね!
えへへっとリアに笑いかけると、リアも困り顔で笑い返してくれた。
父であるハッセン公爵に連れて行かれた異国のこと、そこで見た国の荒廃、苦しむ人々……。
それを見たリアが、自分に、自分の国の彼らと同じような立場の人間を救う力があることを喜んだこと。
ハッセン公爵を継ぐ力はないにしても、貴族としてか礼族としてか、自分の力が持てる最大限を尽くして、国を守ろうと決めたこと。
そんなことを、丁寧に、話してくれる。
たぶん、リアは、僕にもこの国を守る意義とかを知らせたいんだろうな。
僕が、この力で、この国を守ることを誇れるようにって。
そのリアの意図はわかるんだけど、僕には無意味だよって言いたい。
国がぼろぼろになったら傷つく人がいるとか、そういう苦しみから民を守れる力は尊いとか、そういうの僕の心にはなんの影響もないんだ。
僕が欲しいのは、リアだけで。
僕にとって価値があるのは、リアだけで。
顔もみたことない、有象無象の民なんて、喜ぼうが苦しもうが、どうだっていい。
でも、そう言ってしまえば、リアに嫌われる。
だから僕は、リアが語る想いを、まるで理解しているみたいにふるまう。
「……わかった」
なにもわからないのに、知ったかぶりで、僕が言う。
リアは心配そうに、でもほっとした顔で僕を見ている。
これで、正解なんだよね?
「言っちゃいけないことを言って、ごめんなさい」
民を代償にと言えば、リアが手に入るかと思ったのに、だめだった。
リアは僕を正当に説得して、……僕はその内容にはぜんっぜん共感できないのに、リアに嫌われたくなくて、うなずくしかない。
「あやまるから、だから。……僕のこと、嫌いにならないで」
目からこぼれる涙をおもいっきりながして、えぐえぐと子どもっぽくなく。
半分は本気で、半分はリアに対するアピールだ。
ほら、見て。
僕は、子どもだよ。
まだ、こんなに子どもなんだ。
だから、許して。
側にいて。
僕のこと、捨てないで。
お願いだよ、リア。
リアは、ぎゅっと僕を抱きしめてくれた。
「嫌いになんてならないと申し上げましたわ、王子。わたくしが恋をしているのは別の方で、その気持ちはきっとかわりません。わたくしも、この恋をあきらめられないんです。でも、王子のお気持ちも心にとめておきます」
「えっ」
僕はびっくりして、リアを見上げた。
リアの空色の目は、困惑と迷いに揺れている。
だけど、その澄んだ色の瞳は、僕の存在を許すかのように、僕の姿をうつしていた。
「わたくしも、王子も。自分の恋をあきらめられない同士ですわ。今はまだこの気持ちを抱えたまま、これまで通りの関係を続けるというのはいかがでしょうか」
「それって…、リアは僕から逃げないってこと?今までみたいに、傍にいてくれるの?」
「王子の側仕えとしてお傍にいるのは、文化部に戻るまでの間だけです。でも、文化部に戻ってからも、これまでと同じように、およびいただければお傍に参りますよ」
これまでどおり。
それじゃ嫌だって思っていたはずなのに、今の僕には、それでもじゅうぶんすぎるくらい魅力的だった。
いちもにもなく、僕はうなずく。
「うん、わかった!じゃぁ、僕は、リアに好きになってもらえるように、いままで以上にがんばるね!」
そういうと、リアは困ったような顔をする。
リアが、ガイ・ハッセンへの恋を捨てるつもりなんてないってことはわかる。
だって、僕だって、リアへの恋をあきらめるつもりなんてないから。
それでも、いいんだ。
こうなったら、当初の予定通り、長期戦でリアに好きになってもらうだけだ。
ついつい傍にいられることになったこの好機に関係を進めようとして失敗しちゃったけど、やっぱり計画はじっくりねっとりすすめるべきだよね!
えへへっとリアに笑いかけると、リアも困り顔で笑い返してくれた。
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