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おそるおそるエミリオの表情を見つめる。
彼の青い目に、悲しみの色があれば、見落とさないように。

けれどエミリオは「ぶはっ」と紅茶にむせて、くすくすと笑いだす。

「貴族をうとむ?ないないですって。そーんな高尚な感覚」

エミリオは紅茶のカップをおいて、口元をぬぐった。

「うちのとーちゃんは、いい目を持っているって評判の採集師なんですよ」

「え、ええ……」

とつぜん話が変わったようで、わたくしは戸惑いつつ相槌をうつ。
エミリオはお日様のような明るい笑顔で、自慢そうに言う。

「とーちゃん、魔力なんてほとんどないんですけど、そのほとんどの魔力が目に宿ってて。子どものころ食べ物に困って、必死で食べ物を探していたらそうなったみたいなんですけど。そのせいかな、世の中のこともまっすぐ本質を見てるっていうか」

エミリオのお父様は、お父様と同じくらいの年齢だろうか。
サラベス王が即位なさったのは30年前。
当時のグラッハは荒れていたと聞く。
エミリオの明るい笑顔を見ながら、彼のお父様が幼少期に食べるものもなかったと聞くのは、不思議な気分だった。

「だから、王様とか貴族とかがどれだけ必死で俺たちのこと守ってくれているのか、わかってるんですよ。俺、こないだも言ったでしょ?このグラッハの貴族はみんながんばってくれているって。とーちゃんも同意見ですから」

「……ありがとう」

まだ貴族として大した働きもしていないわたくしが、代表のようにお礼を言うのはおかしいかもしれない。
けれど、わたくしたちの矜持を認めてくれている庶民がいることが嬉しい。
がんばっているというのが、わたくしたちだけの独りよがりではなく、守っているつもりの彼らに通じていると言葉にして教えてもらうのは、とても救われた気がする。
今のようなときは特に。

「いや、礼を言われることじゃないですって。っていうか、俺も今は貴族なんだし、がんばらなくちゃなーって気合いれているんです。……で、とーちゃんのことですけど」

「ええ」

エミリオのお父様が、貴族をうとんでいらっしゃるのでなくてよかった。
けれど、ではなぜ、お父様はこの家を訪れるのを嫌がられるのだろう。

すこし緊張して、エミリオの言葉を待つ。
エミリオは肩をすくめて、

「単純な話なんですけど。とーちゃん、すぐ物を壊すんですよね。ガサツなんです。だから、高いものがあるお屋敷には近づくのを嫌がるんですよ。マリオの家にもめったに行かねーんですよ?」

「……え、えぇ?」

そ、そんな理由なの?
でも、そんな理由なら。すこしくらい物が壊れても、エミリオの心を壊すよりはいいのだし、お泊りしていただくほうがいいんじゃないかしら。

わたくしが再度エミリオのお父様にお泊りいただくよう勧めようとしたとき、エミリオはしみじみと言った。

「とーちゃん、いつも言っているんですよね。高いものがいっぱいある場所に連れて行かれるのは拷問みたいなもんだって」

「……そうなの。じゃぁ、来ていただくわけにはいかないわよね」

拷問とまで言われて、お泊りいただくのは申し訳ない。
わたくしは、エミリオのお父様にお泊りいただくのをあきらめた。

「それに、俺、リーリア姉様が王城に泊まるのは、心配だからいやですけど。自分が寂しいとかはないですよ?そりゃここに本当に一人なら寂しいでしょうけど、使用人の方たちもいますし、仲良くしてもらってますし」

「そう?」

「そうですって」

おどけて笑うエミリオの言葉に嘘はなさそうだけど、でも強がっているようにも見える。

「それに俺、ここではハッセン公爵の……お父様の子どもでしょう?お父様がいらっしゃるときならともかく、お父様が不在の時に、とーちゃんをここに呼ぶのは、なんか違うっていうか……。いやなんですよね」

エミリオは、そうつけ加えて、照れたように笑った。
わたくしはその笑みに、どきりとする。

エミリオは、わたくしたちの家族として、どうあるべきかを真摯に考えてくれているのだろう。
その彼が、お父様の不在中に、ご実家のご両親を呼ぶのはいやだというのなら、わたくしの考えは間違っていたのだ。

……でも、家庭教師なら、お泊りいただくのは問題ないだろう。
お勉強のための合宿にもなるかもしれないし。

やっぱり、エミリオに寂しい思いをさせるのは、不安だもの。
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