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お兄様をおみおくりしたわたくしは、日課の走り込みと素振りをした後、参内の用意を整えた。

こんな時に、鍛錬なんてと思う。
けれども、昨日も倒れたばかりだからと怠けていたし、いつも通りの生活を送っていたほうが、お兄様たちがはやく帰ってきてくださる気がして、できるだけいつも通りにふるまう。

参内すれば、王城はどんな騒ぎになっているだろう。

小翼のわたくしには、連絡も来ていない。
けれど、官吏の方々は今頃、事態に対応するために忙しくなさっているだろう。

……わたくしも、はやめに参内しようかしら。

エミリオと二人の朝食は、重苦しい雰囲気に包まれていた。

昨日の夕食のときはわたくしを気遣っていろいろ話しかけてくれたエミリオも、今日はそんな気力はないのだろう。
それでもぽつりぽつりと、わたくしに話しかけてくれた。

「速駆ってなんですか?ちらっと噂では聞いたことあるんですけど、よくわからなかったんです」

「速駆は…、膨大な魔力を必要とするから、庶民にはあまり知られていないのでしょうね。貴族でも、かなり上級の方しか使えないんですよ」

いけない。
頭がぼんやりとして、考えがあちこちにとぶ。
目の前の話題に、気を傾けなくては。

「……簡単に説明すると、王城や州庁にはそれぞれ花将門というものが設置されています。速駆はその花将門と花将門をつなぐ魔力道を行く移動方法です。この方法を使えば、州の移動は、移動者の魔力や体力にもよりますが通常かかる移動時間の三分の一ほどの時間で移動できるんです。お父様なら、五分の一ほどで移動できると思います」

「あぁ、だからザッハマインまで3日なんて短期間で移動できるのか……」

エミリオはパンを口に押し込みながら、頷く。
口は動いているし会話もしているけれど、気もそぞろだ。

わたくしだって、そうだ。
あまいクリームをつけていただくパンも、あまいはずなのに、なんの味もしない。

「普通に馬車で移動するなら、ザッハマインまで12日はかかるんですよ。マリオたちはもっと時間がかかったかもしれないな。ねーちゃん、食べるの大好きで、うまいものを見るとあれこれ食べたがるし。マリオはマリオで、珍しい食材とか調理法を見ると、商売っ気だすしで」

エミリオのお姉さまたちは、結婚式をあげた翌日に旅行にむかわれたらしい。

それが、15日前のこと。
旅行として馬車で移動するなら12日かかるということは、おふたりは本当にザッハマインに着いたところなんだろう。

タイミングが悪いと嘆いていたエミリオの気持ちを、あらためて感じた。

わたくしはカップの紅茶を飲み干した。
メイドが注ぎ足してくれる。

今日はこれで、何杯目かしら。
いくらなんでも飲みすぎだわ。

「リーリアお嬢様!遠話が…、遠話がかかっています……っ!」

その時、家令が食堂に飛び込んできた。
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