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ロロシュ王の年齢を考えれば、国を覆うほどの魔力を出し続けることはそろそろお辛いはず。
とすれば、自分が退位した後の跡継ぎを考えるのは必要な職務だ。

なのにイプセンの王族として先ほどの資料にあげられていたのは、魔力的に王位を継げるはずのないアリッサ王女だけ。
王の次代をになうはずの、王子王女の名前がなかった。

イプセンには、ロロシュ王の後を継げる魔力の持ち主が現れなかったのかしら?

イプセンほどの大国であれば、国を治めるために王が求められる魔力は膨大だ。
国土が大きくなり、守るべき国民が増えれば、王に求められる魔力も大きくなるのは自明の理だ。
けれども、大国であれば人口も多く、それだけ高い魔力量を持つ人間が生まれる確率もあがる。
王となれる魔力量を持つ人間は、ほとんどの場合、一世代に数人は生まれるものだ。

けれど、過去の世界史をひもとけば、大きくなりすぎた国は、国を大きく広げた王の次に、王位を継げる魔力を持つ人間がいなくなることもあった。
国を守る王を失った”国”は分割され、いくつかの別の国になることが多い。

でもその場合、一国を割るというのは大事なので、調整は長い時間をかけて、ゆっくりとなされるはずだ。
そんな話があるのなら、昨日お兄様が教えてくださっただろう。

いくらイプセンとの国交がほとんどないとはいえ、国を割るというほど大きい話なら、外交部あたりでは情報を抑えているはずで、外交部が情報を抑えているならお兄様もなんらかの手段で情報をおさえていらっしゃるだろうから。

……ということは、イプセンの分割はない、と仮定してもいいのではないかしらと思う。

イプセン分割があり得ないと仮定するなら、ロロシュ王の跡継ぎはいるはずなのだ。
ロロシュ王はどう考えても、そろそろ次代を考えねばならないお年頃なのだから。

そもそも……、こんなことは考えるだけで不敬だし申し訳ないし、こんなことを考える自分が嫌だけれども、アリッサ王女をさらったというガノジェという”国”。

国境沿いの山奥とはいえ、イプセンの国内に”国”を建てられ、短期間とはいえ存続をゆるしてしまったなんて、それこそがロロシュ王がイプセン国を守る力が弱まっていることの証左ではないかしら。
ほんとうに申し訳ない考えだけれども。

では、その次代のイプセン王とは誰なのかと考えた時、わたくしはひとつの推論を思いついた。
イプセンには、わたくしのまだ知らない、ロロシュ王の跡継ぎである王子がいるのではないかしら、と。
イプセンの王子。それが「影」なのでは?と。

次代のイプセン王となるはずだった「影」がなんらかの事情でイプセンを去り、「ヒロイン」の配下にくだっているのなら、イプセンは今ロロシュ王の代わりの王をたてられないというのも納得がいく。

ひといきに思い込みそうになり、わたくしはふぅっと息を吐く。

焦っては、だめ。
勝手な思い込みをしていい話ではないのだから。

そもそもわたくしの推理の過程には、前世の乙女ゲームで知った事実が大きなヒントになっている。

ても「プリンセス・ルールズ」の世界は、この世界に酷似した世界とはいえ、この世界ではない。
ゲームでの知識を現実の出来事とイコールで考えるなんて、いけないことだわ。

ロロシュ王のお子がアリッサ姫しか記載されていなかったのも、単に血縁をしめしただけかもしれないのだから。

わたくしが考えて結論がでる問題ではない。
やっぱりお兄様に……、いえ。お父様とお兄様にうかがわなくては。
ちょっとは自分だけで調べたかったから悔しいけれど、妙な考えに染まるよりはいいはずよね。

白紙のままのメモを握って、わたくしは帰宅することにした。

けれど帰宅したわたくしを待っていたのは、イプセン国の跡継ぎのことなど吹き飛ぶくらい衝撃的な出来事だった。
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