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「エミリオは、武術にも興味があるのかい?」
会話をする気になってくれたらしいエミリオにほっとしていると、お兄様も会話に参加してくださる。
「はい。きちんと習ったことはないので、実力はぜんぜんなんですけど。興味はありますよ」
エミリオは姿勢を正し、お兄様のほうへ体を向けた。
口調はすこし崩れているところもあるけれど、しっかりと相手を見てお話する態度は見苦しさがない。
姿勢のよさと、委縮したところのない堂々とした態度のせいかしら。
マナーにそぐわないところもいくつかあるけれど、気障りに思うことはなかった。
お父様からは、エミリオに特にどこかの家で礼儀を仕込んでから招いたとはとは聞いていない。
エミリオは、どこでこんなふるまいを覚えたのかしら。
「その年齢から武術を始めるのははやいとはいえないが、見たところ君は運動が得意そうだ。公爵家の教師たちはみんな実力者ぞろいだし、きっとよく君を導いてくれるだろう」
わたくしが内心で首をかしげていると、お兄様はエミリオを励ますように言う。
そこには口先だけではない期待があるようで、……お兄様に期待を寄せられるなんて、羨ましい。
ちょっとだけ嫉妬してしまうわね。
わたくしもハッセン公爵家の一員であるから、一通りの武術は習っているけれど、あまり上手とはいえない。
魔術と混合して戦えば、貴族として「そこそこ」レベルでは戦えるけれど、魔術を封じられるような状況におかれれば、とても一将にはなれないだろう。
今のエミリオとなら戦っても勝てるでしょうけど、エミリオが武術を習えば、わたくしはすぐに敵わなくなると思う。
能力の差というのは残酷なものだから。
「いいわね。エミリオ」
苦い気持ちを笑顔で隠して言えば、エミリオはきょとんと目を丸くした。
「公爵家の教師ですか?学校に行くのではなく?」
その質問に、今度はわたくしとお兄様が目を丸くする。
「学校?カルーセン学院のことかしら?」
「学校に通うためにも、家庭教師に学ぶのだろう?それにエミリオはまだ14歳だ。カルーセン学院に通えるのは、15歳以上20歳未満の者だけだから、まだ学校には通えないな」
首をかしげたわたくしを補足するように、お兄様がおっしゃる。
するとエミリオは慌てて、
「いや、カルーセン学院って。そんなエリート学校のことじゃないですよ。基礎学校の上級版みたいな学校があるのかと思っていたのですが、ないんですか?」
基礎学校というのは、家庭教師を個人で雇えない庶民たちが通うことを義務付けられている学校のことだ。
10歳の礼式の前には、すべての子どもが読み書き計算の簡単な基礎学力を問う試験に合格するよう求められている。
病気等の特別な理由があれば免除されることもあるけど、こればかりは五属どこの階層に所属していても、基本的には合格しなければならなない。
不合格者は、労働につくことが困難になるからだ。
試験は、ごくごく簡単な基礎的な学力を問うものだけど、まったく学ばずに合格できるものでもない。
金銭的に余裕のあるものは家庭に教師を招く。
お金の余裕のない庶民の子どもたちの多くは、5歳ごろから基礎学校に通い、7~8歳頃から試験を受け始め、10歳の礼式までに試験に受かるよう勉強するらしい。
物心ついたころから家庭教師たちに勉学を叩き込まれるわたくしたち貴族なら、5歳までに合格できなければ恥と言われる試験だ。
会話をする気になってくれたらしいエミリオにほっとしていると、お兄様も会話に参加してくださる。
「はい。きちんと習ったことはないので、実力はぜんぜんなんですけど。興味はありますよ」
エミリオは姿勢を正し、お兄様のほうへ体を向けた。
口調はすこし崩れているところもあるけれど、しっかりと相手を見てお話する態度は見苦しさがない。
姿勢のよさと、委縮したところのない堂々とした態度のせいかしら。
マナーにそぐわないところもいくつかあるけれど、気障りに思うことはなかった。
お父様からは、エミリオに特にどこかの家で礼儀を仕込んでから招いたとはとは聞いていない。
エミリオは、どこでこんなふるまいを覚えたのかしら。
「その年齢から武術を始めるのははやいとはいえないが、見たところ君は運動が得意そうだ。公爵家の教師たちはみんな実力者ぞろいだし、きっとよく君を導いてくれるだろう」
わたくしが内心で首をかしげていると、お兄様はエミリオを励ますように言う。
そこには口先だけではない期待があるようで、……お兄様に期待を寄せられるなんて、羨ましい。
ちょっとだけ嫉妬してしまうわね。
わたくしもハッセン公爵家の一員であるから、一通りの武術は習っているけれど、あまり上手とはいえない。
魔術と混合して戦えば、貴族として「そこそこ」レベルでは戦えるけれど、魔術を封じられるような状況におかれれば、とても一将にはなれないだろう。
今のエミリオとなら戦っても勝てるでしょうけど、エミリオが武術を習えば、わたくしはすぐに敵わなくなると思う。
能力の差というのは残酷なものだから。
「いいわね。エミリオ」
苦い気持ちを笑顔で隠して言えば、エミリオはきょとんと目を丸くした。
「公爵家の教師ですか?学校に行くのではなく?」
その質問に、今度はわたくしとお兄様が目を丸くする。
「学校?カルーセン学院のことかしら?」
「学校に通うためにも、家庭教師に学ぶのだろう?それにエミリオはまだ14歳だ。カルーセン学院に通えるのは、15歳以上20歳未満の者だけだから、まだ学校には通えないな」
首をかしげたわたくしを補足するように、お兄様がおっしゃる。
するとエミリオは慌てて、
「いや、カルーセン学院って。そんなエリート学校のことじゃないですよ。基礎学校の上級版みたいな学校があるのかと思っていたのですが、ないんですか?」
基礎学校というのは、家庭教師を個人で雇えない庶民たちが通うことを義務付けられている学校のことだ。
10歳の礼式の前には、すべての子どもが読み書き計算の簡単な基礎学力を問う試験に合格するよう求められている。
病気等の特別な理由があれば免除されることもあるけど、こればかりは五属どこの階層に所属していても、基本的には合格しなければならなない。
不合格者は、労働につくことが困難になるからだ。
試験は、ごくごく簡単な基礎的な学力を問うものだけど、まったく学ばずに合格できるものでもない。
金銭的に余裕のあるものは家庭に教師を招く。
お金の余裕のない庶民の子どもたちの多くは、5歳ごろから基礎学校に通い、7~8歳頃から試験を受け始め、10歳の礼式までに試験に受かるよう勉強するらしい。
物心ついたころから家庭教師たちに勉学を叩き込まれるわたくしたち貴族なら、5歳までに合格できなければ恥と言われる試験だ。
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