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召喚された勇者が望むのは、婚約破棄された騎士令嬢
26: Side サイラス 8
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数時間後。
サイラスの母の寝室から出てきた上官は、ご機嫌で帰っていった。
サイラスは、弱みを握っているメイドに、母の寝室で「片付け」をするように命じた。
戻ってきたメイドの話では、母はなにが起こったのかも気づかず、眠ったままらしい。
メイドが母のからだを清め、寝台を整えて、再度その寝台に横たえても、すやすやと眠っているだけだという。
この強力な眠り薬は、先ほどの上官に渡されたものだが、よいものを手にいれたと、サイラスは思った。
これがあれば、母はなにも知らないままでいられ、サイラスも母の泣き言を聞かずに済むかもしれない、と。
けれど、次の時は、そううまくはいかなかった。
数日後カッシモが連れてきたのは、別の上官だった。
その上官は眠り薬のことを聞くと、使用は許可してくれた。
しかし量はかなり減らすように命じられた。
嫌な予感がしたが、サイラスは上官に従うしかなかった。
彼らの機嫌を損ねてしまえば、サイラスは騎士ではいられなくなるかもしれない。
サイラスは、母が気づかないまま、すべてが終わるようにと祈った。
母の心の安寧のためにも。
けれど、その祈りは、神に届かなかった。
今日の上官が母の寝室を訪れてから、1時間ほどたったころだろうか。
サイラスとカッシモが賭けトランプをしていると、母の悲鳴が小さく聞こえた。
「参ったな。ここまで声が聞こえるなんて。使用人たちの口をふせげるか?」
カッシモは、どこか興奮した声で、サイラスに尋ねた。
サイラスは、当たり前だ、とうなずいた。
「いまこの屋敷にいるのは、弱みを握っているメイドと従僕1人ずつだけだ。あいつらは秘密をばらされたくないから、めったなことでは口をわらない」
「へぇ。さすが用意周到なサイラスだな。にしても、やっぱり心が痛むか? お父上への愛に生きる母を、別の男に売った息子としては」
カッシモは、トランプの札をにらみながら、挑発するように言う。
サイラスは答えず、ただトランプを一枚放り投げた。
「チェックメイトだ。そっちの掛け金をぜんぶ寄こせ」
「嘘だろ? ここでハートのエースって、ツキすぎだろ。あーあ、サイラス。お前はほんとツイてる男だよ」
「ふん。まぁ、そうだろうな」
サイラスが自信たっぷりに言うと、カッシモは肩をすくめた。
あの上官は、先日の上官とは違い、眠っている女を犯したうえ、それを相手に知らしめるように、途中で目が覚めるように睡眠薬を調整するクソ野郎だ。
さっきの悲鳴は、サイラスの母が目を覚まし、自分の身に起きたことに気づいた悲鳴だろう。
あるいは、いま自分の身に起こっていることを、か。
とぎれとぎれに、サイラスの母の悲鳴が聞こえる。
今頃彼女は、自分がこんなめにあっているのが、自分がお腹を痛めて産み、大切に育てた息子のせいだと気づいているころだろう。
そうしたら、上官を連れてきたカッシモも、グルであることにも、気づいてしまうだろう。
ここに来られるのは、今日が最後かもしれないな。
カッシモはそう思い、楽しそうにトランプに興じるサイラスの罪悪感のなさに、恐ろしさを感じ始めた。
サイラスの母の寝室から出てきた上官は、ご機嫌で帰っていった。
サイラスは、弱みを握っているメイドに、母の寝室で「片付け」をするように命じた。
戻ってきたメイドの話では、母はなにが起こったのかも気づかず、眠ったままらしい。
メイドが母のからだを清め、寝台を整えて、再度その寝台に横たえても、すやすやと眠っているだけだという。
この強力な眠り薬は、先ほどの上官に渡されたものだが、よいものを手にいれたと、サイラスは思った。
これがあれば、母はなにも知らないままでいられ、サイラスも母の泣き言を聞かずに済むかもしれない、と。
けれど、次の時は、そううまくはいかなかった。
数日後カッシモが連れてきたのは、別の上官だった。
その上官は眠り薬のことを聞くと、使用は許可してくれた。
しかし量はかなり減らすように命じられた。
嫌な予感がしたが、サイラスは上官に従うしかなかった。
彼らの機嫌を損ねてしまえば、サイラスは騎士ではいられなくなるかもしれない。
サイラスは、母が気づかないまま、すべてが終わるようにと祈った。
母の心の安寧のためにも。
けれど、その祈りは、神に届かなかった。
今日の上官が母の寝室を訪れてから、1時間ほどたったころだろうか。
サイラスとカッシモが賭けトランプをしていると、母の悲鳴が小さく聞こえた。
「参ったな。ここまで声が聞こえるなんて。使用人たちの口をふせげるか?」
カッシモは、どこか興奮した声で、サイラスに尋ねた。
サイラスは、当たり前だ、とうなずいた。
「いまこの屋敷にいるのは、弱みを握っているメイドと従僕1人ずつだけだ。あいつらは秘密をばらされたくないから、めったなことでは口をわらない」
「へぇ。さすが用意周到なサイラスだな。にしても、やっぱり心が痛むか? お父上への愛に生きる母を、別の男に売った息子としては」
カッシモは、トランプの札をにらみながら、挑発するように言う。
サイラスは答えず、ただトランプを一枚放り投げた。
「チェックメイトだ。そっちの掛け金をぜんぶ寄こせ」
「嘘だろ? ここでハートのエースって、ツキすぎだろ。あーあ、サイラス。お前はほんとツイてる男だよ」
「ふん。まぁ、そうだろうな」
サイラスが自信たっぷりに言うと、カッシモは肩をすくめた。
あの上官は、先日の上官とは違い、眠っている女を犯したうえ、それを相手に知らしめるように、途中で目が覚めるように睡眠薬を調整するクソ野郎だ。
さっきの悲鳴は、サイラスの母が目を覚まし、自分の身に起きたことに気づいた悲鳴だろう。
あるいは、いま自分の身に起こっていることを、か。
とぎれとぎれに、サイラスの母の悲鳴が聞こえる。
今頃彼女は、自分がこんなめにあっているのが、自分がお腹を痛めて産み、大切に育てた息子のせいだと気づいているころだろう。
そうしたら、上官を連れてきたカッシモも、グルであることにも、気づいてしまうだろう。
ここに来られるのは、今日が最後かもしれないな。
カッシモはそう思い、楽しそうにトランプに興じるサイラスの罪悪感のなさに、恐ろしさを感じ始めた。
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