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召喚された勇者が望むのは、婚約破棄された騎士令嬢
22: Side サイラス 4
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サイラスは、絶望した。
右足を失えば、もはや騎士団にはいられない。
結婚も、駄目になるかもしれない。
才能あふれる騎士としての職と、容姿はぱっとしないものの、たっぷりの持参金を持つ血筋のいい婚約者との婚約も、なかったことになってしまうかもしれない……。
ついでにいえば、同じ魔獣狩りで、父も死んでいた。
そのためサイラスは、父の収入で暮らしていた母や妹たちの面倒までみなければならなくなった。
妹たちはサイラスよりかなり年下で、13歳と15歳だった。
嫁にやるにもまだ少しはやく、数年は面倒をみなければならない。
任務中に亡くなった父には多少の恩給がつくが、それも微々たるものだ。
サイラスの退職金などは、さらに少ないだろう。
いったいどうやって暮らしていけばいいんだ……。
サイラスは絶望した。
そして、とりあえず正式に婚約が破棄される前に、カミーユから搾り取れるだけ搾り取っておこうと決めた。
カミーユは、サイラスの犬であり、財布である。
さっそくサイラスが呼び出すと、カミーユは尾をふらんばかりにいそいでサイラスの家に駆け付けた。
「俺は、もうおしまいだ。こんな足になって、騎士も続けられないだろう……」
サイラスは知らなかったが、カミーユは何度も見舞いにきていたらしい。
ただそのころはサイラスは自分の足について絶望して荒れており、母がカミーユの身を案じてサイラスに会わせなかったのだという。
サイラスの心が落ち込んでいるときこそ、そばにいて慰めたかった、とカミーユは婚約者気取りで言った。
サイラスは、心の中で嘲笑した。
美しくもないカミーユにそばにいられても、慰めになどならない。
金の不安を感じるまで、サイラスはカミーユのことを思い出しもしなかった。
それでもカミーユがそう言うのなら、落ち込んでいるときにカミーユがそばにいればと思った。
こいつは頑丈そうだから、気晴らしに殴って、泣き顔でも見れば、気が晴れたかもしれない。
だが、そうすればいくらカミーユが馬鹿犬でも、サイラスのことを警戒したかもしれない。
今から大金を搾り取るということを考えれば、いっときの慰めにカミーユを使わなくてよかった。
サイラスは、これみよがしに涙を流した。
「母も、妹もいる。これからは俺が養っていかなければいけないのに、この足ではろくな仕事につけないだろうと思うと、不安で仕方がない。せめて手元に数年は暮らせる金があれば、安心できるのだが……」
サイラスの寝台の近くの椅子に座り、もらい泣きするカミーユを見ながら、サイラスは計算を巡らせた。
まず、カミーユから同情を買って、できるかぎり大金をせしめる。
そしておそらくこの婚約の継続をしぶるだろうカミーユの両親から、手切れ金として大金をせしめる。
その金があるうちに、母をてきとうな金持ちに売りつける。
母はまだ30代で、近所でも評判の美人だ。
年寄りの金持ちの愛人にくらいなら、それなりの値で売れるだろう。
ついでに妹たちも、同じように売る。
この国で結婚するにはまだはやい二人だが、愛人であれば、少女趣味の男などいくらでもいる。
しかし、子持ちの未亡人が娘たちのために愛人になるのは世間的にも許容されることだが、年少の娘を売るのは非難の的にしかならない。
表ざたになれば、サイラスの評判はがた落ちだ。
それに3人を売ってしまえば、サイラスが将来継続的に得られる収入はなくなる。
この脚さえもとの通りなら、己の才覚でなんとでも成り上がって見せるのだが……。
右足を失えば、もはや騎士団にはいられない。
結婚も、駄目になるかもしれない。
才能あふれる騎士としての職と、容姿はぱっとしないものの、たっぷりの持参金を持つ血筋のいい婚約者との婚約も、なかったことになってしまうかもしれない……。
ついでにいえば、同じ魔獣狩りで、父も死んでいた。
そのためサイラスは、父の収入で暮らしていた母や妹たちの面倒までみなければならなくなった。
妹たちはサイラスよりかなり年下で、13歳と15歳だった。
嫁にやるにもまだ少しはやく、数年は面倒をみなければならない。
任務中に亡くなった父には多少の恩給がつくが、それも微々たるものだ。
サイラスの退職金などは、さらに少ないだろう。
いったいどうやって暮らしていけばいいんだ……。
サイラスは絶望した。
そして、とりあえず正式に婚約が破棄される前に、カミーユから搾り取れるだけ搾り取っておこうと決めた。
カミーユは、サイラスの犬であり、財布である。
さっそくサイラスが呼び出すと、カミーユは尾をふらんばかりにいそいでサイラスの家に駆け付けた。
「俺は、もうおしまいだ。こんな足になって、騎士も続けられないだろう……」
サイラスは知らなかったが、カミーユは何度も見舞いにきていたらしい。
ただそのころはサイラスは自分の足について絶望して荒れており、母がカミーユの身を案じてサイラスに会わせなかったのだという。
サイラスの心が落ち込んでいるときこそ、そばにいて慰めたかった、とカミーユは婚約者気取りで言った。
サイラスは、心の中で嘲笑した。
美しくもないカミーユにそばにいられても、慰めになどならない。
金の不安を感じるまで、サイラスはカミーユのことを思い出しもしなかった。
それでもカミーユがそう言うのなら、落ち込んでいるときにカミーユがそばにいればと思った。
こいつは頑丈そうだから、気晴らしに殴って、泣き顔でも見れば、気が晴れたかもしれない。
だが、そうすればいくらカミーユが馬鹿犬でも、サイラスのことを警戒したかもしれない。
今から大金を搾り取るということを考えれば、いっときの慰めにカミーユを使わなくてよかった。
サイラスは、これみよがしに涙を流した。
「母も、妹もいる。これからは俺が養っていかなければいけないのに、この足ではろくな仕事につけないだろうと思うと、不安で仕方がない。せめて手元に数年は暮らせる金があれば、安心できるのだが……」
サイラスの寝台の近くの椅子に座り、もらい泣きするカミーユを見ながら、サイラスは計算を巡らせた。
まず、カミーユから同情を買って、できるかぎり大金をせしめる。
そしておそらくこの婚約の継続をしぶるだろうカミーユの両親から、手切れ金として大金をせしめる。
その金があるうちに、母をてきとうな金持ちに売りつける。
母はまだ30代で、近所でも評判の美人だ。
年寄りの金持ちの愛人にくらいなら、それなりの値で売れるだろう。
ついでに妹たちも、同じように売る。
この国で結婚するにはまだはやい二人だが、愛人であれば、少女趣味の男などいくらでもいる。
しかし、子持ちの未亡人が娘たちのために愛人になるのは世間的にも許容されることだが、年少の娘を売るのは非難の的にしかならない。
表ざたになれば、サイラスの評判はがた落ちだ。
それに3人を売ってしまえば、サイラスが将来継続的に得られる収入はなくなる。
この脚さえもとの通りなら、己の才覚でなんとでも成り上がって見せるのだが……。
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