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婚約破棄された令嬢は、復讐を祈って、その駅に身を捧げる

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 そして、今。
フリーダはこの駅にいる。
数日かけて、この駅を探しだしたのだ。

 いつのまにか、ホームには人影がなくなっていた。
日はまだ高く、太陽は煌々と地を照らしていた。
けれど、フリーダは、ここに闇があることを感じた。

 仲間が、いる。

 まっとうに生きてきたのに、強欲な人間の残虐な振る舞いで、人生を摘み取られた仲間の気配が、ホームのそこかしこからした。
通常の人間なら気づかないか恐れるだろうその気配を、フリーダは親しみを持って迎え入れた。

 なにを恐れることがあるだろう。
彼女たちは、自分と同じ、被害者だ。
 彼女たちよりもずっと、恐ろしいものは、かつての我が家にいる。
そしてきっと、この世には、ああいう恐ろしいけだものがたくさん住んでいるのだ。

 ならば、もはやこの世に未練などほとんどない。
あるとすれば、あのけだものたちへの復讐をこの手でできないことだけだ。

 私は、無力だ。
けれど、できることは、ある。
そのことが、いま、こんなにも嬉しい。



 

 高らかに汽笛をならして、蒸気機関車が来た。
フリーダは、笑って、線路へ躍り出た。

 遠くから、車掌があわてて走ってくる。
けれど、機関車はとまらない。
フリーダという、自らの選択で、この駅に身を捧げた乙女の命を砕くまで……。




 若い乙女が機関車にひき殺されるのを目撃した車掌が、甲高い悲鳴をあげた。
駅に漂っていた少女たちは、くすくす笑いながら、その気配を消した。

 また、仲間が増えた。

さぁ、彼女の願いをかなえよう……。

かつて無力だったわたしたちは、死んでその力を得たのだから……。

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