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婚約破棄された令嬢は、復讐を祈って、その駅に身を捧げる

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 もうすぐ結婚の準備が整う、そんなある日のことだった。
カスロールとアイーダが、そろってフリーダのいる書斎を訪れた。

「フリーダ。悪いけど、君との婚約は、破棄するよ。俺は、アイーダと結婚することにした」

 カスロールは、さわやかな笑みを浮かべて言った。
アイーダは、その隣で、照れくさそうに笑った。

「ごめんなさい、お姉さま。カスロール様はお姉さまの婚約者だけど、私のほうが好きなんですって。だから、ね。私がカスロール様と結婚して、この家を継ぐわ。お姉さまは、修道院に行くといいわ。支度金は出してあげるから、心配しないでね」

「……なにを、言っているの?」

 幸せそうに微笑むアイーダが、フリーダには信じられなかった。
ふたりは、そう仲の良い姉妹というわけではなかった。
だが、仲が悪かったわけでもない。

 幼いころは時折ケンカし、仲直りし、ともに学び、ともに遊んだ。
母の葬儀の日は、ふたり寄り添って支え合い、一晩中なき明かした。

 ふたりきりの姉妹なのだ。
フリーダがカスロールの暴虐に耐えてきたのも、アイーダのためでもあったのに……。

「どういうことなの?カスロール」

 フリーダは、凍り付きそうな心を奮い立たせ、自分の婚約者を……、その立場ゆえに、自分を玩具のようにもてあそんできた男をにらんだ。
 けれど、カスロールは肩をすくめて、笑うだけだった。

「だって仕方ないだろ。君は真面目ぶって口うるさいし、人生に楽しみを感じてない。昼も夜もね。その点アイーダは、いつも笑顔で、積極的で、楽しむってことを知ってる。外見も、咲き始めのバラみたいにかわいいしね。どっちを選ぶかっていえば、誰だってアイーダを選ぶよ」

 フリーダは、羞恥に震えた。
知られた、と思ったのだ。
結婚前に、ふしだらなことをしていたことを。
妹のアイーダに。

 けれど、アイーダは、そんなフリーダを見て、気の毒そうに言った。

「お姉さまってば、寝台の上でもいつも固くなるばかりだったんですって?そんなだから捨てられるのよ」

「君みたいな真面目な女も悪くはなかったよ。無理やりっぽいのもね。でも、ともに生きるなら、ともに楽しめる女性じゃないとね。まぁ、俺は、君にもこの屋敷に残ってもらって、ずっと一緒に暮らしてもいいって言ったんだけど」

「お断りよ!」

 あまりのことに、フリーダは状況をすべて理解することができなかった。
けれどもカスロールがにやにや笑って言う言葉を聞いて、瞬時に拒絶した。

 カスロールは「おぉ、怖い」と笑い、アイーダは「ほんとね」と、わざとらしくカスロールの腕にしがみついた。
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