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絵本を読んでみましたが

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 仕事しにいくというレイと別れて、メアリーさんと別の部屋に移動する。

 深いワインレッドの壁紙が暖かそうなこの部屋は、また初めて見る部屋だった。
主に、主一家の女性が本を読んだり詩集したりするために使うお部屋だという。

 私の部屋は、まだドレスの片付けが途中だから、ここで過ごして欲しいと言われ、頷く。
あんな量だもん、そうすぐには片付かないよね。
お部屋が片付くまでひとりで本を読んでおくぐらいは、私にもできる。

 メアリーさんは、ささっと紅茶を用意してくれると、すぐに図書室に向かった。
私のお願いした本をとってきてくれるのだ。

 ひとりになると、なんとなくほっとした。
これだけ優しくしてもらっているのに、こんなふうに考えるなんて、申し訳ない。
 でも朝からずっとばたばたしていて、たくさんの知らない人に囲まれて。
社交的とはいえない私には、どうしても疲れが出てしまう。

 椅子に腰かけて目を閉じると、まだお昼過ぎなのに、眠ってしまいそうだった。

 レイの瞳の色のドレス……。
あれを着て、レイとどこかへ出かける日が来るのだろうか。
たとえば、パーティなんかに?

 考えられない。
ふるりと頭をふって、思考を散らす。

 レイのことは、好き。
たぶん。

 でも、自分がパーティに貴族の婚約者として出るなんて、ちょっと考えられない。
そういうのはもっと華やかな人間のすることで、私とは無縁なものだったのに。

 帰れるよね、もとの世界に。

 ふっと考えこみそうになったとき、メアリーさんが帰ってきた。
手には、数冊の本がある。

「お待たせいたしました、美咲様。お気に召すものがございましたら、よろしいのですが」


 そういって渡してくれたのは、ほんとに押さない子どもが読むような絵本だった。
文字と絵がセットで描かれ、綴りがわかるようになっている。
その上、本の最後の頁にはアルファベットのようなものが書かれていた。

 ざっと目を通して、気づく。

 文字はアルファベットに似ているけど、見たことのない文字が使われている。
なのに、文字をおっていると、自然に読み方がうかんでくるのだ。
こちらの読みと、日本語の両方で。
そして、選ぼうと思えば簡単に選択できる。

 なんだろう、この不思議な現象。

 ただ、こちらの世界の文字は、書いてある文字と読みが一致する表音文字だった。
これなら、文字を覚えるのは難しくないだろう。

 こっそり棟を撫で下ろし、メアリーさんに笑いかける。

「ありがとうございます。すごくわかりやすそうです」

 メアリーさんも、にっこりと笑い返してくれた。


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