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この世界の常識に疎いだけなんですが

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 い、いや。落ち着こう。

 レイは、私が異世界から来たって知っているわけで。
異世界から来たというのは信じてないにしても、遠くから来たというのは信じてくれていると思うし。
私が、こっちの常識がないというのは、わかってるはずだ。

 だから、夜のお誘い的な意味で、ドレスを選んでほしいって言ったわけじゃないというのは、わかってくれていると思う。

 うん。
よし。
ちょっと落ち着いた。

 考えてみれば、お洋服屋さんを呼んでくれたのは、レイだもんね。
レイに選んでもらうって、ふつうだと思う。

 あ、でも待って。
レイがドレスを選んでくれていた時、オサドさんがヘンな顔をしていたんだ。
それで、あの時レイが「美咲に頼まれたんだよ、いっしょにドレスを選んでくれって」とか言ってた……。
で、オサドさんは、「仲がいいですね」って……。

 はああああああああああああああああ?
いや、確かあの時レイは、私が遠くから来ているからドレスがわからないとか言ってたはず。
だから、だいじょうぶだと思う。
思うけど……。

「ほ、ほんとに違うんです。意味とか、知らなくて……」

「そのようですね…」

「あの、オサドさんたちも、誤解されていますか?」

「おそらくは……」

 うわああああああああああああああ。
ちょっと待って、レイ、なに言ってるの?
 レイは、私が意味とかわからず言ってるって気づいてたはずだよね?
なのに誤解されるようなこと、わざわざ言わなくてもよくない?
 あ、でも、実際にレイがドレスを選んでたから、オサドさんが微妙な顔でレイを見ていたんだっけ。
それで、レイはその説明をして……。
 う。レイを責められない。
けど、もうちょっとなんかさぁ、いいように言いつくろってくれてもいいんじゃぁって思ってしまうんですけど……!

「あの、そもそも、ご家族以外の男性が、女性にドレスを贈ること自体が、婚約者以上のご関係でないとよく言われないことなので……」

 顔を真っ赤にして、おろおろしていると、リーダーさんが、そうっと更なる爆弾を落としてくれた。

 え。
それって、対外的には、もう、私はレイの婚約者的な感じで扱われないと、それはそれでよくないってこと……?
いろいろキャパがオーバーしそうなんですけど……!

「ですが、その……。美咲様が、このあたりの風習にお詳しくないと、オサドにも伝えます」

 リーダーさんが、慰めるように言ってくれた。

「はい、ありがとうございます……」

 ありがたいんだけど、なんかもう恥ずかしすぎて、穴を掘って埋まりたい気分です。
ここのお屋敷の人たちも、誤解しているんだろうなぁ……。
そっとメアリーに視線を移すと、ずっと黙っていたメアリーさんは、私と目を合わせてにこりと笑った。

「仲がよいことは、恥ずかしがることではございませんよ」

 それはそうかもだけど、それとこれは別だよね!?

「美咲様が、こちらの風習にお詳しくないようだとは、館のものにも周知いたします。けれど、レイ様は、ご存知の上で行動されているということを、美咲様はお留め置きくださいませ」

 メアリーさんは、綺麗な所作でお辞儀をした。
けど、ぜったい楽しんでるよね?
にんまりした笑顔で言われても、からかわれているような気持ちにしかならないんですけど。

 でも、言われたことは、きっと私が考えなくちゃいけないことだ。

「わかりました。ありがとうございます……」

 レイが、私にそばにいてほしいって言ってくれたことも。
周りに、婚約者にするみたいな振る舞いをしていることも。
 私は、ちゃんと受け止めたほうがいいんだろう。
帰りたいという気持ちと、同時に。

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