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試着の続きどころの気分ではありませんが

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「じゃぁ、試着の続きできるか?」

 レイは、私のほうを見て、言う。
けど。

「試着の続き…ですか?」

 いや、いまそういう状況じゃなくない?
お洋服やさんの女の子が今、従僕に連れて行かれたし。
お店の子達は涙目のままだし、オサドさんは頭を下げたままだ。
 こんな状態で、試着の続き……。

 ない!
って言いかけて、気づいた。

 レイは、いつも他人のことを気に掛けている。
文化的に、私の感覚とは違うなって思うこともあるけど、貴族だから平民をないがしろにしてるってことはない。
 そのレイが、試着を勧めるってことは、そうしたほうがいい理由があるんじゃないかって。

「あの女の子は、ひどい扱いはされませんか?」

 逡巡したけど、それだけは尋ねる。

「あぁ。たぶんいま、ここの結界は俺が予想していたよりも強くなっているみたいだしな。想像以上に簡単に作動しちまったんだと思う。あの人が暗器でも隠していない限り、ひどい扱いは受けることはないって保証する」

 レイは、落ち着いた表情で応えてくれた。

「そうですか。では、試着の続きをお願いいたします」

 訊きたいことは、いっぱいある。
なんであの女の子がきゅうに壁に飛ばされたのかとか、結界ってなんなのかとか。
結界がレイの予想以上に強いってどうしてなのかとか、このまま試着するのって、お洋服やさんたち的にどうなのかとか。
 あの女の子が暗器を持っていたら、どうなるのかとか。

 だけど、ひとまずすべての質問は飲み込んだ。

「では、次は…。そうですね、あのピンクのドレスを試着しようかしら。お願いできますか?」

 意識して、ゆっくり、落ち着いた声で話す。
彼女たちの仲間が捕まった後で、明るい声で話しかけるのは、躊躇する。
でも、私が彼女たちに反感をもっていないということを明確に示すように、あたたかく。

 うまくできたかは、わからない。
それでも、青ざめていたお洋服やさんの女の子たちは、自分たちの仕事を思い出したかのように、姿勢を正した。

「はい。今すぐに」

 リーダーっぽい女の人が、小さく深呼吸した後で、私を見て応えてくれた。

 うん。
私にも何がなんだかわからないし、彼女たちも同じだろう。
 だけど、私たちがすべきなのはきっと、普通に振る舞うことみたいだから。

 私は彼女に頷いて、レイとオサドさんに言った。

「では着替えますので、男性はこの部屋から出ていただけますか?」

 さっきあんなことがあったばかりだ。
レイはためらうかと思ったけど、あっさりと頷いた。

「わかったぜー。ほら、オサド。お前も出るぞ」
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