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30歳になりましたが

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 昨日はあんなに忙しい日だったのに、起きてしまえば体はなんだか調子がよかった。
誰かに起こしてもらえるまで目が覚めないかなって思ってたのに。
自分の頑丈さに、びっくりだ。

「あー、そういえば今日で私、30歳なんじゃん」

 あんなに意識していた日なのに、すっかり忘れていた。
まぁ当たり前だけど、29歳から30歳の誕生日を迎えたところで、現実の時間の流れは1日は1日とふだんと同じ。
たった1日で一気に何かが変わるわけじゃない。
 変わるとしたら、私の意識と周りの扱い方だけだろう。

 だけどまさか30歳になったとたん、異世界に来るとはね!
しかもそこの世界は癒し人なる年をとらない人種がいらっしゃるそうで、年齢はあんまり意識されていないみたい。
 だとしたら、この1日で変わることはほとんどなにもないのかもしれない。
日々、年を重ねていくうちに、いろいろ変化はあるんだろうけどさ。

「お誕生日おめでとう」

 誰も言ってくれないので、自分で言ってみる。
そうか、今日から30歳かぁ。

 嬉しいような、ちょっとだけ残念なような複雑な気分。
いちばん本心の希望は、年齢を重ねることが嬉しく思えるくらい、年齢を重ねた自分に自信が持てるくらい素敵な大人になることだもんね。
 なのに、いまだ彼氏も夫も子供もいなくて仕事もなくてっていう状態だから、年齢を重ねることが怖いんだ。

 お風呂に入って、ふぅとため息をつく。
とりあえず、お風呂は気持ちいい。
ギシギシだった体が癒される。

 シャワーも浴びて、ダイアモンド様にお借りしたワンピースに着替えると、ふたたび眠気が襲ってきた。
だめだだめだ。
まだ寝るわけにはいかないって。

 私はバッグの底に隠しておいたスマホを取り出し、電源ボタンを押す。
昨日洞窟でレイを待っている時はなぜか電源が入らなかったんだよね。
最近調子が悪かったから、そのせいかなって思って、そのままにしていたんだけど。

 まさか道端で、この世界ではオーバーテクノロジーになるだろうスマホを出すわけにもいかないし。
そうそう見せていいもんじゃないかもって思っていたんで、バッグの底に隠していたんだよね。

 レイには見せたガイドブックもだけど、こういう明らかに異世界のものって、ほんとに見せていいのか迷う。
私がいくら「異世界から来ました」って口では言ってて、それをこっちの人に信じてもらっても、こういう決定的な証拠がなければ、後で言い逃れもできるって考えちゃうんだよね。
だけど証拠を見せてしまえば、後で撤回はできない。
スマホなんて、その最たるものだ。

 だけど、まさかの事態が起こった。
私のスマホの電源は落ちたまま、ぴくりとも動かなかった。 
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