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妄想以上に非現実な現実を逃避するのに失敗しましたが

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 窓から差し込んでくる朝日のせいだろうか。
ぱっと目が覚めた。

「え、どこだここ……」

 ベッドで半身を起すと、体がギシギシ言う。
あーしまった、変な恰好で寝ちゃったから、疲れとれてないわー。
 お風呂も入っていないんだっけ。
お湯わかさなくちゃ……。

 ぼーっとした頭でそう考えて、それからぐるりと首をまわして、もう一度。

「え、どこなの?ここ」

 なんで私が、天蓋ベッドで寝ているんだろう。
そんでこのやたらゴージャスなお部屋はいったいどういうことだ。
 ロンドンに旅行中なんだっけ?
お城ホテルは考えに考えたすえ、お値段の相談がつかずあきらめたはずだったけど……。

「じゃないわー」

 部屋をぐるりと見回しても、トランクがない。
そこでようやく現実を思い出した。

 あー、はいはい。
私、異世界に来ていたんでしたね!

 起きて一瞬後には思い出していたけど、夢かと思ったよね!
だってさぁ、目が覚めたら予約した覚えのない古城ホテルに泊まっていましたっていうのと、異世界の騎士様のお屋敷に泊めていただいていましたっていうののどっちが現実的かっていうと、あきらかに前者だよね。

 とはいえ、自分のいる場所が日本だろうとロンドンだろうと異世界だろうと、しなくちゃいけないことはあるもので。
 私は自分の顔に触れると、そのガビガビ具合におののいて、さっさとお風呂にお湯を入れた。
設定温度が若干熱めだったから、ちょっと時間をおいてぬるくする作戦。

 続いて、私の唯一の持ち物であるバッグを広げた。
中から、メイク落としと洗顔フォーム、化粧水と乳液、歯ブラシセット、櫛を出す。
 飛行機の機内に持ち込める液体は、100ml以下の容器に入ったもので、かつ容量1リットル以下のジッパーつき袋に入るぶんだけ。
なので化粧水も乳液も、せいぜい数日分ってとこだ。

 この世界にいつまでいるかわからないから、早々に使っちゃうのは不安だ。
けど、この砂漠状態のお肌は、緊急レスキューが必要すぎる。
このままのガビガビ状態で過ごすなんて、無理すぎるし。

 髪をとかしつつ、私はため息をついた。
のんきな悩みなのはわかってる。
でも、衣食が足りている現状だと、顔とか髪の状態も無視はできないんだよ…。

 この世界にも、化粧水とかメイク道具ってあるのかなぁ……。

 あとはお風呂に入ったら、着替える準備が必要だよね。
バッグの中には、下着やストレッチ素材のワンピース、カーディガンなんかが入っている。
空港でスーツケースが見つからない、いわゆるロストバゲージに備えて、一泊はできる荷物を用意していた自分をほめたたえたい。

 でも、服はこちらの服をお借りしたのがある。
こっちを着たほうがいいかな。

 お借りした服は、レイの双子のお姉さん、ダイアモンド様のドレスだ。
 ゆったりサイズの寝るとき用のワンピースと、部屋でくつろぐ用のワンピースの2着。
普通の服は、サイズの都合上お借りできなかったんだよね。
レイのお姉さまは、細身なんだな……。

 けっして、決して私がデブだからではないと信じたい。
ややデブよりだけどさ。
一応標準体重なので!

 ちなみに下着は自分のがありますって主張しました。
ほんとこれは持っててよかったよ。
洗い替えに1セットあれば、なんとか急場はしのげるしね。

あとはさっさと元の世界に戻れれば、無問題なのですが。

「……帰りたい、よね」

 つぶやいて、鏡を見る。
鏡の中の自分は、いつもより頼りなげに見えた。
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