上 下
46 / 113

執事さんに嫌われたくないのですが

しおりを挟む
 うわ。
傍にいてやりたい、ですって。

 レイの言葉って、ちょいちょい破壊力ある。
はやく一人でごろごろしたいなーってのが本音だけど、好意を持っている相手にそんなこと言われたら嬉しくなっちゃうじゃないか。

 ちょっと頬が熱い。
いい歳して、乙女な反応してすみません!

 けど、レイは背中を向けているし、バドーさんからはレイが邪魔になって私の姿は見えないはず。
だから、いいよね。
 と自分に許可を出して、思う存分にときめきを味わう。

 こういうドキドキって貴重品ですからね。
味わえる時に味わっておかないと!

 バドーさんは、レイの強硬な態度にかすかに驚いたように見えた。
けど、そんな気配は一瞬で消し去り、重ねて断ろうとしているようだった。

「ですが、レイモンド様。ひなげしの間は」

「わかっている。ひなげしの間だと、俺の部屋に近すぎるっていうんだろう?しかしな、彼女の気持ちをおもんぱかってくれ」

 レイの厚意は嬉しいけど、バドーさんを困らせるのは本意じゃない。
彼はこの家の執事で、使用人たちのトップだ。
彼に嫌われたら、このお屋敷にいづらくなっちゃう。

 ただでさえ身元不明な女が転がり込んでくるなんて、このお屋敷で働いている人にとっては迷惑だろう。
仕事は増えるわ、主の貞操や評判が気になるわで、迷惑の塊といっても過言じゃない。

 主人であるレイが命じてくれれば、使用人さんも表面上は丁重に扱ってくれるだろう。
けど、そういう問題でもないしね。
 人様にご迷惑かけないで済むならご迷惑かけたくないし、嫌われずにすむなら嫌われたくない。
これが小市民的常識ですから。

「レイ。私はどこのお部屋でも構わないわ」

 慌てて口をはさむ。
けれど、レイは私をふりかえって、安心させるように微笑んだ。

「美咲。だいじょうぶだから」

 だいじょうぶじゃないから!
お屋敷の執事さんに疎まれた状態で、滞在させていただくとか嫌だから。

「でも……、バドーさんがそうおっしゃるのも、理由があるのではないですか?」

「さようでございます。レイ様。先だって、ダイアモンド様から伝令がまいりました。数日後、フィン様と共に、こちらのお屋敷に滞在なさるようです。ひなげしの間は、ダイアモンド様がいつも使用されるお部屋でしょう。先に送られてきたダイアモンド様のお荷物を、すでにいれています」

 バドーさんは、レイが口を挟む前に素早く口を挟んだ。
レイは、目を丸くして、オウム返しに言う。

「ダイアモンドが? こっちに来るのか?」

 バドーさんは、しっかりとうなずいて「はい」と答えた。
ゆったりとした言葉に、みょうに焦っているふうだったレイも、はぁ……っと息を吐いた。

「そうか。ダイアモンドが。……なら、ひなげしの間は使えねぇよな」

 お。落ち着いたみたいで、なにより。
ところで、ダイアモンド様?って、誰?
名前的に、女子だよね?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

期限付きの聖女

波間柏
恋愛
今日は、双子の妹六花の手術の為、私は病院の服に着替えていた。妹は長く病気で辛い思いをしてきた。周囲が姉の協力をえれば可能性があると言ってもなかなか縦にふらない、人を傷つけてまでとそんな優しい妹。そんな妹の容態は悪化していき、もう今を逃せば間に合わないという段階でやっと、手術を受ける気になってくれた。 本人も承知の上でのリスクの高い手術。私は、病院の服に着替えて荷物を持ちカーテンを開けた。その時、声がした。 『全て かける 片割れ 助かる』 それが本当なら、あげる。 私は、姿なきその声にすがった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

渡り人は近衛隊長と飲みたい

須田トウコ
恋愛
 20歳になった仁亜(ニア)は記念に酒を買うが、その帰りに足湯を通して異世界転移してしまう。 次に目覚めた時、彼女はアイシスという国の城内にいた。 その日より、異世界から来た「渡り人」として生活しようとするが・・・  最強の近衛隊長をはじめ、脳筋な部下、胃弱な部下、寝技をかける部下、果てはオジジ王にチャラ王太子、カタコト妃、氷の(笑)宰相にGの妻、下着を被せてくる侍女長、脳内に直接語りかけてくる女・・・  あれ、皆異世界転移した私より個性強くない? 私がいる意味ってある? そんな彼女が、元の世界に帰って酒が飲めるよう奮闘する物語。  ※一話一話は短いと思います。通勤、通学、トイレで格闘する時のお供に。  ※本編完結済みです。今後はゆっくり後日談を投稿する予定です。 更新については近況ボードにてお知らせ致します。  ※なろう様にも掲載しております。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...