異世界で(口の悪い)騎士様に拾われたのですが

門兵さんに誤解をさせていますが

「話を合わせるって、どういうことですか？」

「え。適当に、にこにこ笑ってくれていればいいだけだぜ？」

「適当にって……。どう話をもっていくのかとか教えていただけませんか？そんなとっさに、うまく話を合わせたりできないかもしれませんし」

　なんという無茶ぶり。
私、そんなに機転が利くほうじゃないんですけど……！

　必死で訴えても、レイはわらうばっかりで答えてくれない。
そうこう行っているうちに、前の商人さんたちの確認が終わったみたい。

「はい、次！」

　商人さんたちの馬車が街の中に入っていくと、門番さんが私たちのほうに声をかけた。

「ええええええっと、はい！」

　あ、びっくりして妙に大声で返事してしまった。
　私たちに声をかけた門兵さんは私の大声に驚き目を見開たかと思うと、くはっと笑った。
けれど直後に私の隣に立つレイの姿を認めると、一瞬でぴんっと姿勢を正した。

「こ、これは、ブロッケンシュタイン様！お帰りになっていたとは気づかず、失礼いたしました！」

「あぁ、ご苦労。…すまないが、こちらは俺の客人だ。仔細は言えないが、ブロッケンシュタイン家ゆかりになる予定の娘で、身元は俺が保証する。街へ同行してもよいだろうか」

　レイは門兵に尋ねた。
　先ほどまでの気楽な雰囲気をどこに隠したのか、急に威儀を正し、うっすらと笑いながら威圧感を放ちながら。
形こそ質問になっていたけれど、レイの雰囲気は、門兵が俺に逆らうなんてありえないよな？と無言で圧力をかけている。
口調もさっきまでの砕けきったものとは違い、丁寧だけど偉そうだ。

　レイが貴族って聞いてもピンとこなかったけど、いま少しだけ納得したかも。
人を態度だけで従わせて当然って様が、支配階級の人間っぽいわ。

　若いほうの門兵は、指示を仰ぐように髭の門兵を見る。
ふさふさとしたお髭をたくわえた門兵さんは、偉そうな態度のレイをほほえましそうに見た。

「おやおや。ブロッケンシュタイン様も、とうとうそんなお年頃ですか」

　おおっとこれは恥ずかしい。
お髭の門兵さんは、レイが子どものころからの顔見知りなんだろう。
権力を前に押しているレイに対して、近所の子の成長を喜ぶ好々爺みたいな反応だ。
　こういう反応って、なまじ権力があると恥ずかしく感じるよね。
それか馴れ馴れしい態度に激するかだけど、レイがそんな男なら、この門兵さんもこんなこと言わないだろうし。
　私にも興味深そうに視線を投げてくる門兵さんにごまかし笑いをしつつ、レイの様子を観察する。
レイは余裕たっぷりの笑みを浮かべ、門兵さんに自慢げに答えた。

「俺ももう26歳なんでね」

「もうそんなお年なんですね。癒し人は外見で年齢がわからないので不便ですなぁ。まぁおめでとうございます」

「じゃぁ入っていいか？」

　レイは、門番さんの子ども扱いにもめげず、貴族らしい態度を続行して尋ねる。
おひげの門番さんは、目元を和ませて、大げさに頭をさげた。

「もちろんですよ。ブロッケンシュタイン様の保証があれば、この街に入れない人間なんておりません。お嬢様、どうぞお入りください。ようこそ、この街へ！」