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信じてるアピールしてみましたが

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「そんな……」

 そこかー。そこにひっかかってたのかーと、がっくり。
 まぁお人よしそうなこの人のことだ。
頼るあてのない私を家に誘ったのが、悪いことだと思っちゃったのかな。

 そりゃ私も、知らない男の人を信用して家に行くのって怖いなって思ったし?
 普通ならつけこまれてるって思ったかもしれない。
不思議に、今はそんな気持ちはぜんぜんないんだけど。
でも、まぁ彼の言わんとすることはわかるけど。

「会ったばかりの人に、こんなことを言うとおかしいと思われるかもしれませんが」

 私は彼に抱きしめられたまま、うつむいて言う。

「あなたは初めから私を守ってくれて。優しくしてくれて。…こんなふうにあなたに言うのは、ご迷惑かと思っていたのですが。私、あなたのことを信じています。あなたは信じていい人だって思っていますから」

 初対面の人間に、頼る気まんまんである。
こんなこと言ったらひかれないかなーとビビりつつ口にする。
 うつむいたままで男の反応をうかがうけど、男はなにも言わず、私を抱きしめる腕も変化はなかった。

 えー。どういうことなの、これ?
どんびきとかしてないよね?
男の懸念を払拭しつつ、「信じてますから」アピールで牽制してみたつもりなんだけど。
 いや、言ってることは全面的に本心だけどさ。
人間、信じてるって言われれば、裏切りにくいかなーとかの計算はあります。

 男の無反応に耐えきれなくて、おそるおそる視線を上に向ける。
 と、こっちをじっと見ている男と目があった。

「……っ」

 ぎょっとして、あわてて俯く。
 うわ。なんて目で、こっちを見てるんですか。
 そんな切ないような優しい目で、こっち見ないでほしい。
イケメンにそんな目で見つめられるとか…。勘違いしそうになっちゃうじゃない。
そういうの、ほんとにいらないんで。

 って思ってるのに……!
 男は、私の顎に手をかけ、そっと私の顔を上に向かせる。
 そして私の顔をまじまじと見つめ、目の下を指の腹でなでた。

 優しい手つきに、体がむずがゆくなる。
ひとりでに頬が熱くなるのを感じる。
 こんな乙女な反応を自分がするとか。恥ずかしすぎなんだが。

「なんだ、やっぱりかわいいじゃねぇかよ。なーにが、顔がぐちゃぐちゃだから見ないでください、だよ」

「あっ」

 そうだよ、マスカラ!とれてぐちゃぐちゃだったんじゃん。
 あんな顔を人に見られるとか、ないわー。
慌てて下を向こうとしたけど、男の手が顔を抑えていて、できない。

「そんなかわいい顔してんのに、初対面の男を簡単に信用なんてするなよ。いくら異世界人っつっても、どこの世界の男だって、そんな信用できるもんじゃねぇだろ?」

「え……」

「それとも、異世界の人間だってことが抑止力になると思っている? そんなんたいした問題にならねぇよって、その身に教えてやったほうがいいのかよ?」
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