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30歳だから恋愛はますますうまくできなくなる。……でも、勇気をだして、よかった。
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わたしは、今年で30歳になった。
いわゆる大台。
進藤さんは、たぶん27歳か28歳くらい。
おまけに、すごくかっこいい。
わたしは、派遣の事務員で。
進藤さんは、有名な科学研究所の研究者。
考えても、意味がない。
わかっているのに、そんな意味のない比較ばかり、考えてしまう。
それからも、進藤さんは言葉通り何度も事務室に顔を出してくれた。
でも、出張で研究所どころか国内にいないことも多かった。
すこしだけ期待していた忘年会も、新年会も、新藤さんは欠席だった。
顔は覚えてもらっても、会えるのは、仕事中だけ。
仕事の潤滑剤的な雑談はできても、プライベートらしいプライベートな話はできなかった。
もし、わたしが23歳とか24歳とかくらい若ければ。
折りを見て連絡先くらい聞けたかもしれない。
でも、なりたての「30代」というレッテルは、わたしから積極性を払底した。
せめて彼と肩を並べるようなキャリアの持ち主であれば。
彼がさらさらと書く英語や中国語の書類をさらりと読める賢さがあれば。
あるいは「大人の女」にふさわしい恋愛スキルがあれば。
たら、れば、ばっかり並べて、結局連絡先も聞けなかった。
1か月前、進藤さんもこの3月末でこの研究所をやめて、違う研究所に勤務することになったってご挨拶までしてもらったのに……。
もう、この職場に顔を出しても、新藤さんはいなくなっちゃうのに。
ほんとうに、このまま、二度と会えないのかな……。
同じ事務員の人たちにも、わたしが進藤さんが好きだなんて言えなかった。
そういう話はしないというのが、事務職員の中で暗黙のルールになっていた。
わたしたちと、研究員さんたちは、違う。
見えない壁が、研究員さんたちはないようにふるまってくれていても、はっきりとあった。
まして、派遣のわたしなんて。
……だけど、なんで連絡先くらい、聞かなかったんだろう。
研究員さんたちも、みんながみんな事務員に優しいわけじゃない。
「それくらいやってよ」と事務員の仕事じゃないあれこれを押し付ける人もいた。
書類の提出期限が迫っているとお知らせしたら「こっちは事務員と違って、秒を争う研究してるんだよ!」って怒鳴る人もいた。
でも、進藤さんは一度も事務員であるわたしたちを格下扱いしなかったし、態度にも現さなかった。
それどころか、出張のたびにお菓子をくださって、「おいしいかわからないけど!」ってあの優しい笑顔で言ってくれて……。
なんだろ。
もう会えないって思ってるのに、次から次に、進藤さんのことを思い出す。
郵便物を抱えて困ってたら、走ってドアを開けてくれた時のこと。
せき込んでいたら、のど飴をくれたこと。
お菓子のお礼を言ったら、「よかった。中国のお菓子って、わりとハズレもあるから、いつも不安なんだよね」って笑ってくれたこと。
馬鹿みたいに小さな出来事を、宝物みたいに思い出す。
30歳にもなって。
なんでわたしは、こんなに不慣れで、馬鹿で、後悔ばっかり。
いわゆる大台。
進藤さんは、たぶん27歳か28歳くらい。
おまけに、すごくかっこいい。
わたしは、派遣の事務員で。
進藤さんは、有名な科学研究所の研究者。
考えても、意味がない。
わかっているのに、そんな意味のない比較ばかり、考えてしまう。
それからも、進藤さんは言葉通り何度も事務室に顔を出してくれた。
でも、出張で研究所どころか国内にいないことも多かった。
すこしだけ期待していた忘年会も、新年会も、新藤さんは欠席だった。
顔は覚えてもらっても、会えるのは、仕事中だけ。
仕事の潤滑剤的な雑談はできても、プライベートらしいプライベートな話はできなかった。
もし、わたしが23歳とか24歳とかくらい若ければ。
折りを見て連絡先くらい聞けたかもしれない。
でも、なりたての「30代」というレッテルは、わたしから積極性を払底した。
せめて彼と肩を並べるようなキャリアの持ち主であれば。
彼がさらさらと書く英語や中国語の書類をさらりと読める賢さがあれば。
あるいは「大人の女」にふさわしい恋愛スキルがあれば。
たら、れば、ばっかり並べて、結局連絡先も聞けなかった。
1か月前、進藤さんもこの3月末でこの研究所をやめて、違う研究所に勤務することになったってご挨拶までしてもらったのに……。
もう、この職場に顔を出しても、新藤さんはいなくなっちゃうのに。
ほんとうに、このまま、二度と会えないのかな……。
同じ事務員の人たちにも、わたしが進藤さんが好きだなんて言えなかった。
そういう話はしないというのが、事務職員の中で暗黙のルールになっていた。
わたしたちと、研究員さんたちは、違う。
見えない壁が、研究員さんたちはないようにふるまってくれていても、はっきりとあった。
まして、派遣のわたしなんて。
……だけど、なんで連絡先くらい、聞かなかったんだろう。
研究員さんたちも、みんながみんな事務員に優しいわけじゃない。
「それくらいやってよ」と事務員の仕事じゃないあれこれを押し付ける人もいた。
書類の提出期限が迫っているとお知らせしたら「こっちは事務員と違って、秒を争う研究してるんだよ!」って怒鳴る人もいた。
でも、進藤さんは一度も事務員であるわたしたちを格下扱いしなかったし、態度にも現さなかった。
それどころか、出張のたびにお菓子をくださって、「おいしいかわからないけど!」ってあの優しい笑顔で言ってくれて……。
なんだろ。
もう会えないって思ってるのに、次から次に、進藤さんのことを思い出す。
郵便物を抱えて困ってたら、走ってドアを開けてくれた時のこと。
せき込んでいたら、のど飴をくれたこと。
お菓子のお礼を言ったら、「よかった。中国のお菓子って、わりとハズレもあるから、いつも不安なんだよね」って笑ってくれたこと。
馬鹿みたいに小さな出来事を、宝物みたいに思い出す。
30歳にもなって。
なんでわたしは、こんなに不慣れで、馬鹿で、後悔ばっかり。
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