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第十話② エルトニア国
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「あそこが役所です」
ヨシュアが示した方角に、大きな建物があった。ヨシュアは馬車道の端に馬車を寄せると停車する。真理衣は悠を抱え直すと馬車から降り立った。
ヨシュアに促され、真理衣は建物へ入って行く。
「…役所っぽい」
「そりゃあ役所ですからね」
設備は違うものの、日本の役所と大差ない光景が広がっており、真理衣は若干微妙な気持ちになった。
彼女はてっきり書類や羽ペンが飛んだりする魔法的な物をイメージしていたのである。
「文字書けますか?」
「代筆お願いして良いですか?」
「勿論です。では名前から」
真理衣はヨシュアに必要書類の記入を頼み、口頭で答えたが、名前と性別、年齢くらいしか記入できる物が無かった。
「マリーさん29歳…?!」
ヨシュアはこっそりと驚愕の表情を浮かべた。彼の目にはどう見ても20そこそこに見えていたのである。ヨシュアは咳払いをすると、真理衣に窓口カウンターへ行く様伝えた。
「ここで身分証を作ってもらうんですよ」
窓口には球体の機械の様な物が置いてあり、真理衣は腕輪型身分証を作る魔道具だと説明を受けた。国に仕える者は金色、一般市民は銀色、聖職者は透明なクリスタルで作られる。これは世界的に統一されている。真理衣は不安げに訊ねる。
「あー…私達みたいな難民っぽい人は?」
「マリーさんと悠さんは聖職者として登録しますので、クリスタルで作られます」
ヨシュアが周りに聞こえぬ様声を落として付け足す。
「貴女方は特別です。何しろユール神のご加護を受けているのですから…」
ユールがヨシュア達の記憶を弄った際に、加護の事を捩じ込んだ。サグドラ国の教会を出る前に、加護がある事も魔道具で確認済である。
「あ、そうなんですね…」
そう言えばそんな事も言われたな、と真理衣は笑って誤魔化した。彼女は保護してもらえる、という以外は忘れていた。
様々な事があり過ぎて、キャパシティがオーバーしたのである。
「こちらに利き手と逆の方を乗せて下さい。良いと言うまで動かさないで下さいね」
役人に言われ、真理衣は左手を魔道具の上にそっと乗せた。ジジジジと電子音に似た音がした後、球体が光り真理衣の手首に腕輪が徐々に姿を現した。
魔法らしい現象に、真理衣の気分が高揚する。
「はい、もう結構ですよ」
同じ様に、眠る悠の左手も乗せると彼女の手首にも小さな腕輪が嵌った。
「これ、成長したらキツくならないのかな?」
真理衣の疑問に役人がクスリと笑った。
「魔法で造られた物ですので、成長と共にサイズも変わりますからご心配なく」
「へぇ…凄い」
ヨシュアも、どれだけ辺鄙な所に住んで居たのだろうかと思わず笑い声が漏れ出てしまう。
真理衣は二人に笑われ赤くなった顔を片手で覆い隠した。
「くぅ…どうせある意味お上りさんだよチキショウ…」
ヨシュアが示した方角に、大きな建物があった。ヨシュアは馬車道の端に馬車を寄せると停車する。真理衣は悠を抱え直すと馬車から降り立った。
ヨシュアに促され、真理衣は建物へ入って行く。
「…役所っぽい」
「そりゃあ役所ですからね」
設備は違うものの、日本の役所と大差ない光景が広がっており、真理衣は若干微妙な気持ちになった。
彼女はてっきり書類や羽ペンが飛んだりする魔法的な物をイメージしていたのである。
「文字書けますか?」
「代筆お願いして良いですか?」
「勿論です。では名前から」
真理衣はヨシュアに必要書類の記入を頼み、口頭で答えたが、名前と性別、年齢くらいしか記入できる物が無かった。
「マリーさん29歳…?!」
ヨシュアはこっそりと驚愕の表情を浮かべた。彼の目にはどう見ても20そこそこに見えていたのである。ヨシュアは咳払いをすると、真理衣に窓口カウンターへ行く様伝えた。
「ここで身分証を作ってもらうんですよ」
窓口には球体の機械の様な物が置いてあり、真理衣は腕輪型身分証を作る魔道具だと説明を受けた。国に仕える者は金色、一般市民は銀色、聖職者は透明なクリスタルで作られる。これは世界的に統一されている。真理衣は不安げに訊ねる。
「あー…私達みたいな難民っぽい人は?」
「マリーさんと悠さんは聖職者として登録しますので、クリスタルで作られます」
ヨシュアが周りに聞こえぬ様声を落として付け足す。
「貴女方は特別です。何しろユール神のご加護を受けているのですから…」
ユールがヨシュア達の記憶を弄った際に、加護の事を捩じ込んだ。サグドラ国の教会を出る前に、加護がある事も魔道具で確認済である。
「あ、そうなんですね…」
そう言えばそんな事も言われたな、と真理衣は笑って誤魔化した。彼女は保護してもらえる、という以外は忘れていた。
様々な事があり過ぎて、キャパシティがオーバーしたのである。
「こちらに利き手と逆の方を乗せて下さい。良いと言うまで動かさないで下さいね」
役人に言われ、真理衣は左手を魔道具の上にそっと乗せた。ジジジジと電子音に似た音がした後、球体が光り真理衣の手首に腕輪が徐々に姿を現した。
魔法らしい現象に、真理衣の気分が高揚する。
「はい、もう結構ですよ」
同じ様に、眠る悠の左手も乗せると彼女の手首にも小さな腕輪が嵌った。
「これ、成長したらキツくならないのかな?」
真理衣の疑問に役人がクスリと笑った。
「魔法で造られた物ですので、成長と共にサイズも変わりますからご心配なく」
「へぇ…凄い」
ヨシュアも、どれだけ辺鄙な所に住んで居たのだろうかと思わず笑い声が漏れ出てしまう。
真理衣は二人に笑われ赤くなった顔を片手で覆い隠した。
「くぅ…どうせある意味お上りさんだよチキショウ…」
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