上 下
18 / 28

第十話② エルトニア国

しおりを挟む
「あそこが役所です」

ヨシュアが示した方角に、大きな建物があった。ヨシュアは馬車道の端に馬車を寄せると停車する。真理衣は悠を抱え直すと馬車から降り立った。
ヨシュアに促され、真理衣は建物へ入って行く。

「…役所っぽい」
「そりゃあ役所ですからね」

設備は違うものの、日本の役所と大差ない光景が広がっており、真理衣は若干微妙な気持ちになった。
彼女はてっきり書類や羽ペンが飛んだりする魔法的な物をイメージしていたのである。

「文字書けますか?」
「代筆お願いして良いですか?」
「勿論です。では名前から」

真理衣はヨシュアに必要書類の記入を頼み、口頭で答えたが、名前と性別、年齢くらいしか記入できる物が無かった。

「マリーさん29歳…?!」

ヨシュアはこっそりと驚愕の表情を浮かべた。彼の目にはどう見ても20そこそこに見えていたのである。ヨシュアは咳払いをすると、真理衣に窓口カウンターへ行く様伝えた。

「ここで身分証を作ってもらうんですよ」

窓口には球体の機械の様な物が置いてあり、真理衣は腕輪型身分証を作る魔道具だと説明を受けた。国に仕える者は金色、一般市民は銀色、聖職者は透明なクリスタルで作られる。これは世界的に統一されている。真理衣は不安げに訊ねる。

「あー…私達みたいな難民っぽい人は?」
「マリーさんと悠さんは聖職者として登録しますので、クリスタルで作られます」

ヨシュアが周りに聞こえぬ様声を落として付け足す。

「貴女方は特別です。何しろユール神のご加護を受けているのですから…」

ユールがヨシュア達の記憶を弄った際に、加護の事を捩じ込んだ。サグドラ国の教会を出る前に、加護がある事も魔道具で確認済である。

「あ、そうなんですね…」

そう言えばそんな事も言われたな、と真理衣は笑って誤魔化した。彼女は保護してもらえる、という以外は忘れていた。
様々な事があり過ぎて、キャパシティがオーバーしたのである。

「こちらに利き手と逆の方を乗せて下さい。良いと言うまで動かさないで下さいね」

役人に言われ、真理衣は左手を魔道具の上にそっと乗せた。ジジジジと電子音に似た音がした後、球体が光り真理衣の手首に腕輪が徐々に姿を現した。
魔法らしい現象に、真理衣の気分が高揚する。

「はい、もう結構ですよ」

同じ様に、眠る悠の左手も乗せると彼女の手首にも小さな腕輪が嵌った。

「これ、成長したらキツくならないのかな?」

真理衣の疑問に役人がクスリと笑った。

「魔法で造られた物ですので、成長と共にサイズも変わりますからご心配なく」
「へぇ…凄い」

ヨシュアも、どれだけ辺鄙な所に住んで居たのだろうかと思わず笑い声が漏れ出てしまう。
真理衣は二人に笑われ赤くなった顔を片手で覆い隠した。

「くぅ…どうせある意味お上りさんだよチキショウ…」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

異世界転移した心細さで買ったワンコインの奴隷が信じられない程好みドストライクって、恵まれすぎじゃないですか?

sorato
恋愛
休日出勤に向かう途中であった筈の高橋 菫は、気付けば草原のど真ん中に放置されていた。 わけも分からないまま、偶々出会った奴隷商人から一人の男を購入する。 ※タイトル通りのお話。ご都合主義で細かいことはあまり考えていません。 あっさり日本人顔が最も美しいとされる美醜逆転っぽい世界観です。 ストーリー上、人を安値で売り買いする場面等がありますのでご不快に感じる方は読まないことをお勧めします。 小説家になろうさんでも投稿しています。ゆっくり更新です。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...