18 / 19
十八話
しおりを挟む
「本当かカテリーナ!? ほらサラン兄様、カテリーナも許すと言っていますし、寛大に……」
「すてぃぶ」
赤子の泣き声。
印象で例えるならそれでしょう。
決して違うのは、ソレが発した言葉は赤子と違い怖気と狂気と戦慄が一気にやってきたような、冷や汗がどっと溢れ出て止まらなくなり、過呼吸になっているのに空気がまったく口に入ってくれないような。
一声聞いただけで耳を犯され地獄の針山に磔にされたような、身体を刺すような恐ろしさに頭が掻き回されることです。
皆はその場に固まりました。
文字通り、氷づけにされたように。
「すてぃぶ」「すてぃぶ」
聖女の加護があるとはいえ、私の全身も冷や汗が吹き出します。
アレは、封印の穴から自ら這い出してきたのです。
恐ろしいことです。そんなことは、あってはならないことです。
それにしても……。
いったい誰が誰を探しているのでしょう?
「かっ、カテリーナぁ……」
ああ、そんなに涙目になって、顔中大粒の汗だらけになりながら私を見つめられても困りますよスティーヴ。
私だって必死に皆を守っているのです。
現に、私から遠い場所に立っている兵士は気絶して倒れました。
もし私の聖女の守護が無ければ、ソレの瘴気を浴びて骨になって溶けています。
私は皆を守るため、ここから動けませんよ。ええ。
「すてぃぶ……すてぃいいぃいいいぃいいぃぃぃいいいぶ」
「ひっ……!?!?」
聖女の力の源は、想いの強さです。
信じる心です。
アンデッドの力も、反対に執着の心が反映するのでしょうか。
私が聖女なら、
彼女はノーライフ・クイーンとでも言いましょうか。
産まれたばかりのおぞましいナニカは、まるで立て付けのいい引き戸を開け放つかのように封印を開け、今はスティーヴの背後に立っています。
見てください、あのおぞましい姿を。
聖なる加護なしでは目にしたら脳が壊れるでしょう。
「ぁぅううう!!! すてぃぶ、すてぃぶ」
赤子のような金切り声で、スティーヴを探しています。
いえ、もう見つけているのでしょう。
振り向くのを待っているのです。
振り向いた瞬間、封印の暗闇の中に連れ去るつもりです。
二人っきり、という事でしょうか。
利用され捨てられた恨み、苦しみ、無念。
愛を含めた全ての情念をスティーヴにぶつけるつもりです。
その為には、スティーヴが自ら振り向かないといけません。
振り向いてはいけない。
教えてあげたいですが、今喋るとアーサーやガリウス、両親たちの加護が弱まるかも知れないので口を開けません。
本当は教えてあげたい。でも出来なくてごめんなさいスティーヴ。
「…………」
「…………」
ソレと目を合わせました。
本来ならソレと目を合わせたなら、瞬間で即死するのですが、私は大丈夫。
シャイナだったソレは、私に敵意はまったくありませんでした。
彼女はある意味、目的を達するためなら非常に合理的だったのです。
命とか、財産にこだわりが無くなった今。
シャイナが求めるものは目の前にあり、私はその男をなんとも思っていないのです。
ある意味、女同士の不戦協定。
最終決着でした。
スティーヴは小刻みに小動物のように震え、股間を濡らし、か細い声で言いました。
「なあ……後ろにナニがいるんだカテリーナ。お願いだ。教えて。本当に、後生だから。お前のことを誤解してた。一生大事にするから、な?」
わかっているくせに。
言わなくても分かっているでしょう?
良かったではないですか、また会えて。
「ああぁ嫌だぁ……肩に手が、乗ってる。助けてたすけ、たすけ……」
すていぶ
「ギャアアアァ!? ぐぎゃあぁぁぁあ……ウギャアアアアアアァー!?」
振り向いてしまったのですね。
あまりの残酷さに目を背けます。
穴に引き摺り込まれるスティーヴは、永遠に彼女と一緒です。
彼女は律儀に、自ら封印の穴の中へ戻っていきました。
二人っきりが良いのでしょう。
お気持ち、尊重させて頂きます。
私は、二度と封印が解けぬよう、何重にも封印を重ね、ザールの地を後にしました。
全てが解決し、肩の荷が全て降りた気分です!
「すてぃぶ」
赤子の泣き声。
印象で例えるならそれでしょう。
決して違うのは、ソレが発した言葉は赤子と違い怖気と狂気と戦慄が一気にやってきたような、冷や汗がどっと溢れ出て止まらなくなり、過呼吸になっているのに空気がまったく口に入ってくれないような。
一声聞いただけで耳を犯され地獄の針山に磔にされたような、身体を刺すような恐ろしさに頭が掻き回されることです。
皆はその場に固まりました。
文字通り、氷づけにされたように。
「すてぃぶ」「すてぃぶ」
聖女の加護があるとはいえ、私の全身も冷や汗が吹き出します。
アレは、封印の穴から自ら這い出してきたのです。
恐ろしいことです。そんなことは、あってはならないことです。
それにしても……。
いったい誰が誰を探しているのでしょう?
「かっ、カテリーナぁ……」
ああ、そんなに涙目になって、顔中大粒の汗だらけになりながら私を見つめられても困りますよスティーヴ。
私だって必死に皆を守っているのです。
現に、私から遠い場所に立っている兵士は気絶して倒れました。
もし私の聖女の守護が無ければ、ソレの瘴気を浴びて骨になって溶けています。
私は皆を守るため、ここから動けませんよ。ええ。
「すてぃぶ……すてぃいいぃいいいぃいいぃぃぃいいいぶ」
「ひっ……!?!?」
聖女の力の源は、想いの強さです。
信じる心です。
アンデッドの力も、反対に執着の心が反映するのでしょうか。
私が聖女なら、
彼女はノーライフ・クイーンとでも言いましょうか。
産まれたばかりのおぞましいナニカは、まるで立て付けのいい引き戸を開け放つかのように封印を開け、今はスティーヴの背後に立っています。
見てください、あのおぞましい姿を。
聖なる加護なしでは目にしたら脳が壊れるでしょう。
「ぁぅううう!!! すてぃぶ、すてぃぶ」
赤子のような金切り声で、スティーヴを探しています。
いえ、もう見つけているのでしょう。
振り向くのを待っているのです。
振り向いた瞬間、封印の暗闇の中に連れ去るつもりです。
二人っきり、という事でしょうか。
利用され捨てられた恨み、苦しみ、無念。
愛を含めた全ての情念をスティーヴにぶつけるつもりです。
その為には、スティーヴが自ら振り向かないといけません。
振り向いてはいけない。
教えてあげたいですが、今喋るとアーサーやガリウス、両親たちの加護が弱まるかも知れないので口を開けません。
本当は教えてあげたい。でも出来なくてごめんなさいスティーヴ。
「…………」
「…………」
ソレと目を合わせました。
本来ならソレと目を合わせたなら、瞬間で即死するのですが、私は大丈夫。
シャイナだったソレは、私に敵意はまったくありませんでした。
彼女はある意味、目的を達するためなら非常に合理的だったのです。
命とか、財産にこだわりが無くなった今。
シャイナが求めるものは目の前にあり、私はその男をなんとも思っていないのです。
ある意味、女同士の不戦協定。
最終決着でした。
スティーヴは小刻みに小動物のように震え、股間を濡らし、か細い声で言いました。
「なあ……後ろにナニがいるんだカテリーナ。お願いだ。教えて。本当に、後生だから。お前のことを誤解してた。一生大事にするから、な?」
わかっているくせに。
言わなくても分かっているでしょう?
良かったではないですか、また会えて。
「ああぁ嫌だぁ……肩に手が、乗ってる。助けてたすけ、たすけ……」
すていぶ
「ギャアアアァ!? ぐぎゃあぁぁぁあ……ウギャアアアアアアァー!?」
振り向いてしまったのですね。
あまりの残酷さに目を背けます。
穴に引き摺り込まれるスティーヴは、永遠に彼女と一緒です。
彼女は律儀に、自ら封印の穴の中へ戻っていきました。
二人っきりが良いのでしょう。
お気持ち、尊重させて頂きます。
私は、二度と封印が解けぬよう、何重にも封印を重ね、ザールの地を後にしました。
全てが解決し、肩の荷が全て降りた気分です!
0
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
虐げられ聖女の力を奪われた令嬢はチート能力【錬成】で無自覚元気に逆襲する~婚約破棄されましたがパパや竜王陛下に溺愛されて幸せです~
てんてんどんどん
恋愛
『あなたは可愛いデイジアちゃんの為に生贄になるの。
貴方はいらないのよ。ソフィア』
少女ソフィアは母の手によって【セスナの炎】という呪術で身を焼かれた。
婚約した幼馴染は姉デイジアに奪われ、闇の魔術で聖女の力をも奪われたソフィア。
酷い火傷を負ったソフィアは神殿の小さな小屋に隔離されてしまう。
そんな中、竜人の王ルヴァイスがリザイア家の中から結婚相手を選ぶと訪れて――
誰もが聖女の力をもつ姉デイジアを選ぶと思っていたのに、竜王陛下に選ばれたのは 全身火傷のひどい跡があり、喋れることも出来ないソフィアだった。
竜王陛下に「愛してるよソフィア」と溺愛されて!?
これは聖女の力を奪われた少女のシンデレラストーリー
聖女の力を奪われても元気いっぱい世界のために頑張る少女と、その頑張りのせいで、存在意義をなくしどん底に落とされ無自覚に逆襲される姉と母の物語
※よくある姉妹格差逆転もの
※虐げられてからのみんなに溺愛されて聖女より強い力を手に入れて私tueeeのよくあるテンプレ
※超ご都合主義深く考えたらきっと負け
※全部で11万文字 完結まで書けています
四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?
青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。
二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。
三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。
四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。
聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~
アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
お嬢様のために暴君に媚びを売ったら愛されました!
近藤アリス
恋愛
暴君と名高い第二王子ジェレマイアに、愛しのお嬢様が嫁ぐことに!
どうにかしてお嬢様から興味を逸らすために、媚びを売ったら愛されて執着されちゃって…?
幼い頃、子爵家に拾われた主人公ビオラがお嬢様のためにジェレマイアに媚びを売り
後継者争い、聖女など色々な問題に巻き込まれていきますが
他人の健康状態と治療法が分かる特殊能力を持って、お嬢様のために頑張るお話です。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています
※完結しました!ありがとうございます!
私は王子の婚約者にはなりたくありません。
黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。
愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。
いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。
そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。
父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。
しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。
なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。
さっさと留学先に戻りたいメリッサ。
そこへ聖女があらわれて――
婚約破棄のその後に起きる物語
【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。
婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。
三葉 空
恋愛
ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる