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二話
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「彼女は聖女の生まれ変わりシャイナ=ノービス。ノービス公爵家三番目のご令嬢だ」
全てが繋がっていく。カテリーナには理解ができた。
この婚約破棄、ただ自分を貶めるだけの婚約破棄ではない。
王都内の貴族における権力闘争。その権力闘争に、実家であるヴァンハイアー家は圧倒的に敗北したらしい。
仕方のないことではある。
まず身分が違う。
格式が下であるカテリーナの伯爵家は、ノービス公爵家からすれば路傍の石。
温厚穏和な両親は争いを望まず、権力闘争となればどうしても一歩二歩と遅れてしまう。
そもそも王子との婚約も、国王陛下より領地経営や統治手腕に優秀なヴァンハイアー家へ内密に頼み込まれたことによるものだ。
断りきれない両親は国王陛下の頼みを聞き入れてしまった。
国王陛下が病気により伏せてから長い。
サラン様崩御により心を痛めて、起き上がれぬまで気持ちを落とされてしまった。
おもわぬ幸運でくり上がったスティーヴ王子殿下の浮かれた頭では、古狐とまで噂されるノービス公爵と対等に渡り合うのは不可能だろう。餌を目の前に与えられた犬のように言いなりになるのが落ちだ。
そして。会場の視線を一身に浴びているにもかかわらず、おどおどした風で、どこか堂々としたような。
蠱惑的な魅力を振り撒くこの女性に迫られたのなら、幼さを残すカテリーナを捨てる選択を取るのは容易に想像がつくのだ。
シャイナ=ノービスは、わずかに異国の血が混じるのか、肌の色はやや褐色が混じる。
それが非常に大人びて魅力的に感じる。それでいて早熟の果実かのような肌の艶は、男性ならかじりつきたい衝動にかられるだろう。
髪の毛はもっとすばらしい。一切の混じりけもない赤だ。太陽から産み出された糸のようだ。
瞳の奥は金色で、見つめると誘惑され吸い込まれそうになる。
「お初にお目にかかります。
お美しい伯爵家のカテリーナお嬢様。
シャイナ=ノービスです。ノービス公爵家の令嬢でございます。
ご挨拶は大丈夫。カテリーナ様のお話は、スティーヴ殿下によく聞いております。ねえ殿下?」
だめだ。
この女の目、危険すぎる。
挨拶を交わすという常識を飛び越え、衆目の前で平気でこちらの挨拶を封じたのだ。
殺す気だ。
まぎれもない悪の意思。
前世でも感じたことのないほどの、恐ろしい殺意を秘めている。
だから平気でいられる。どうせ殺してしまうと思ってるから。
逃げなければ。
だけど、聖女がこの王都を離れたら、途端に死者の魂に溢れてしまう。
殺されてしまってもそうなるが、無責任に王都を離れるわけにはいかない。
この場で確かめておかなければ。
__シャイナ=ノービスがなぜ、聖女を騙るのかを。
「ひとつだけお聞かせ願いたいのですが、聖女様のだという証はどのようにたてられたのでしょうか?」
「お前に伝える必要があるか? 次期国王である俺の言葉に間違いがあるとでも?」
「いえ。そうは言っておりません。
ですが、聖女様はお隠れになってからずっと姿を顕さなかった。名を騙る者や、他国の間者に襲われないようにしているのかもしれません」
「だから何だというのだ。
もはやお前は俺の婚約者でもなんでもない。関係のないことに口を挟むな」
「いいではありませんかスティーヴ様。教えて差し上げても」
「シャイナがそう言うなら、教えてやろう。良かったな?」
シャイナ=ノービスの一言で手のひらを覆した王子の話では、辺境の街ザールに溢れた悪霊をシャイナがたった一人で消滅させ、救うことに成功したというのだ。
本当の話なら、街ごと浄化を行うなど聖女にしかできない芸当。国をあげて褒章すべき行動だ。
スティーブ殿下の正室にという話が舞い込んでも、民には何の疑問も浮かばぬ美談だ。
だが、おかしい。
カテリーナだけが知っている違和感。
辺境の街ザールに悪霊など沸くことは決して『ない』のだ。
証明は困難を極める。何より愛する存在を護るため、とにかくこの場を切り抜けなければならない。
カテリーナは必死に頭を働かせていた。
全てが繋がっていく。カテリーナには理解ができた。
この婚約破棄、ただ自分を貶めるだけの婚約破棄ではない。
王都内の貴族における権力闘争。その権力闘争に、実家であるヴァンハイアー家は圧倒的に敗北したらしい。
仕方のないことではある。
まず身分が違う。
格式が下であるカテリーナの伯爵家は、ノービス公爵家からすれば路傍の石。
温厚穏和な両親は争いを望まず、権力闘争となればどうしても一歩二歩と遅れてしまう。
そもそも王子との婚約も、国王陛下より領地経営や統治手腕に優秀なヴァンハイアー家へ内密に頼み込まれたことによるものだ。
断りきれない両親は国王陛下の頼みを聞き入れてしまった。
国王陛下が病気により伏せてから長い。
サラン様崩御により心を痛めて、起き上がれぬまで気持ちを落とされてしまった。
おもわぬ幸運でくり上がったスティーヴ王子殿下の浮かれた頭では、古狐とまで噂されるノービス公爵と対等に渡り合うのは不可能だろう。餌を目の前に与えられた犬のように言いなりになるのが落ちだ。
そして。会場の視線を一身に浴びているにもかかわらず、おどおどした風で、どこか堂々としたような。
蠱惑的な魅力を振り撒くこの女性に迫られたのなら、幼さを残すカテリーナを捨てる選択を取るのは容易に想像がつくのだ。
シャイナ=ノービスは、わずかに異国の血が混じるのか、肌の色はやや褐色が混じる。
それが非常に大人びて魅力的に感じる。それでいて早熟の果実かのような肌の艶は、男性ならかじりつきたい衝動にかられるだろう。
髪の毛はもっとすばらしい。一切の混じりけもない赤だ。太陽から産み出された糸のようだ。
瞳の奥は金色で、見つめると誘惑され吸い込まれそうになる。
「お初にお目にかかります。
お美しい伯爵家のカテリーナお嬢様。
シャイナ=ノービスです。ノービス公爵家の令嬢でございます。
ご挨拶は大丈夫。カテリーナ様のお話は、スティーヴ殿下によく聞いております。ねえ殿下?」
だめだ。
この女の目、危険すぎる。
挨拶を交わすという常識を飛び越え、衆目の前で平気でこちらの挨拶を封じたのだ。
殺す気だ。
まぎれもない悪の意思。
前世でも感じたことのないほどの、恐ろしい殺意を秘めている。
だから平気でいられる。どうせ殺してしまうと思ってるから。
逃げなければ。
だけど、聖女がこの王都を離れたら、途端に死者の魂に溢れてしまう。
殺されてしまってもそうなるが、無責任に王都を離れるわけにはいかない。
この場で確かめておかなければ。
__シャイナ=ノービスがなぜ、聖女を騙るのかを。
「ひとつだけお聞かせ願いたいのですが、聖女様のだという証はどのようにたてられたのでしょうか?」
「お前に伝える必要があるか? 次期国王である俺の言葉に間違いがあるとでも?」
「いえ。そうは言っておりません。
ですが、聖女様はお隠れになってからずっと姿を顕さなかった。名を騙る者や、他国の間者に襲われないようにしているのかもしれません」
「だから何だというのだ。
もはやお前は俺の婚約者でもなんでもない。関係のないことに口を挟むな」
「いいではありませんかスティーヴ様。教えて差し上げても」
「シャイナがそう言うなら、教えてやろう。良かったな?」
シャイナ=ノービスの一言で手のひらを覆した王子の話では、辺境の街ザールに溢れた悪霊をシャイナがたった一人で消滅させ、救うことに成功したというのだ。
本当の話なら、街ごと浄化を行うなど聖女にしかできない芸当。国をあげて褒章すべき行動だ。
スティーブ殿下の正室にという話が舞い込んでも、民には何の疑問も浮かばぬ美談だ。
だが、おかしい。
カテリーナだけが知っている違和感。
辺境の街ザールに悪霊など沸くことは決して『ない』のだ。
証明は困難を極める。何より愛する存在を護るため、とにかくこの場を切り抜けなければならない。
カテリーナは必死に頭を働かせていた。
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