11 / 12
作戦G
2.フェリシアン
しおりを挟む
やはり思っていた通り、刺客はロランの知人だった。ということは、キュース軍の人間ということだ。
そして、ロランが捕らえられなかったということは、それだけ手練ということ。
情報が欲しいだけなら、あんなに兵が揃っているタイミングで侵入するはずがない。
狙いは殿下か。
キュース王国は、未だにこの国を諦めていないようだな。
とにかく、刺客の生死がはっきりしていない以上、警戒を強めた方が良さそうだ。
「それで、これからどこへ?」
気まずそうに視線をそらすのを見るに、刺客を探しにでも行く気だろうか。
「誤解はしないで頂きたいのですが…。」
「うん。」
「ええと…森へ。」
やっぱりね。
ロランが父上を裏切るとは思わないが、キュース側の人間と会うことがロランの為になるとは思えない。いたずらに傷を負うだけだろう。
「あいつは簡単に死ぬような奴ではありません。もし生きていて、そしてこのタウヌールに害を及ぼすようであれば、その責任は私にあります。」
「別にロランの責任じゃないよ。むしろ暗殺を止めたんだから手柄だよ。」
と言ってはみたものの、僕のフォローはあまり効果はなさそうだ。少し話の方向を変えてみるか。
「そもそもロランがあんなところにいたのは、主館に立入禁止になったからなんだろう?」
それは僕にも責任がある。
ここは元気のないロランの為に、ひと肌脱いであげよう。
「それならサボるなんてみみっちい反行などせずに、ジルに父上を説得してもらおうじゃないか。」
「しかしジルはとても怒っていました。協力してくれるでしょうか。」
怒っていたというより、悔しかったのだろう。
ジルはロランの為なのか、キュース人の名誉回復を切に願っている。
殿下に、キュース人であるロランが重用されているところをお見せするのは、良いアピールになっただろう。
当の本人は全く気にしていないようだが。
それに、忙しくさせることで余計なことを考える隙を無くすというのも、ジルなりの優しさなのではないかな。
「大丈夫だと思うよ。」
上手くいけば男女の仲も進展するかもしれないし。
「ロランの演技次第だけど。」
「私は何をしたらよろしいですか?」
目をきらきらと輝かせて、ずいと身を乗り出してきたロランを落ち着かせるように、肩をぽんぽんと叩き、助言をしてあげる。
場所は湖がいいだろう。
どうせ森へ入り峡谷を見に行くというのならうってつけだ。雰囲気も良い。
2人に雰囲気というものが通用するかは謎だけど。
「ちゃんと落ち込んでいる様子を見せるんだよ。」
「ちゃんと、とは?」
「ロランは平気なふりをする癖があるから。」
ね、と首を傾けると、ロランは神妙な顔つきでこくりと頷いた。たぶん分かっていない。自覚がないのだろう。
声のトーンを下げて、伏し目がちに喋るんだよ、と言ってあげると、真面目なロランはまたこくこくと頷いた。
「それで、主館に立入禁止になってしまって、自分はどうしようもない人間だって言ってごらん。」
「それだけで良いのですか?」
「うん。それだけでジルなら動くよ。」
たぶんね。
「そしてジルに言われれば、父上も考え直してくださるだろう。」
首を傾げるロラン。
「その、図々しいお願いということは重々承知なのですが。」
「何?」
「フェリシアン様が進言してくださるのではいけないのですか?」
きっかけを作ってしまったのは僕だから、罪滅ぼしに、一応言ってはみたのだが、父上は考えるとだけ仰って、禁止令を取り下げてはくださらなかった。
僕も面白がってオレリアに頼まれるままに服を仕立てていたから、オレリアを結婚から遠ざけた加担者と思われてしまったのかもしれない。
「ごめんね。」
とりあえず笑顔でごまかした。
「でも、僕の言った通りにすれば、きっとジルが父上を説得してくれるよ。」
「はい、頑張ります!」
「ついでにジルにしだれかかってみなよ。」
「え…そ、それは、どのように…。」
「こんな感じにさ。」
女性にしては背の高いロランの頭を僕の肩に引き寄せた。
ジルは僕より大きいから、鎖骨か、胸板のあたりになるだろうか。
「こうやって頭を預けて、抱きしめてもらえたら、脈があると考えていいんじゃないかな。」
「だっ!抱きしめて…もらえるでしょうか…。」
僕の肩から頭を離し、両の頬を押さえるロラン。
薄暗くてその色の変化までは分からないが、こういう表情は女の子らしく、男心を擽る。
これをジルに見せられたら苦労しないだろうに。
「男はギャップに弱いから。」
「なるほど。では作戦名は、作戦Gですね。」
「ああ…うん。」
ご自由に。
ぐっと拳を握るロランに若干の不安を覚えつつ、僕はロランを見送った。
僕の役目はジルをロランの元へと向かわせることだ。
ジルの庇護欲を煽るのは簡単だ。
さっそく兵舎へ赴き、ジルの個室の戸をノックした。
すると、すぐにラフな服装のジルが姿を見せ、頭を下げた。
「フェリシアン様、このような所までいかが致しましたか。」
「ロランのことで、ちょっとね。」
「ロランがどうかしましたか?」
「うん。さっき修練場で少し話したんだけど、どこか元気が無くて。」
そうですかと俯くジルは、やはり当たりはついていそうだ。
ロランから聞いた刺客の話をジルにも話すと、ジルの眉間のしわがどんどん深くなった。
「そのまま今度は森に行くって言い出して。」
「この時間にですか?」
「そうなんだ。僕もついて行ってやりたかったんだけど、勝手に殿下のお御身から離れるわけにはいかなくてね。心配だから、ジルが見に行ってあげてくれないかな?」
「はい、もちろんです。ご心配おかけして申し訳ありません。」
保護者感。でも、この先はジルに任せるしかない。
「よろしくね。」
そう言ってジルの部屋をあとにした。後の報告が楽しみで足取りが軽くなる。
良いことをすると気持ちがいいな。
そして、ロランが捕らえられなかったということは、それだけ手練ということ。
情報が欲しいだけなら、あんなに兵が揃っているタイミングで侵入するはずがない。
狙いは殿下か。
キュース王国は、未だにこの国を諦めていないようだな。
とにかく、刺客の生死がはっきりしていない以上、警戒を強めた方が良さそうだ。
「それで、これからどこへ?」
気まずそうに視線をそらすのを見るに、刺客を探しにでも行く気だろうか。
「誤解はしないで頂きたいのですが…。」
「うん。」
「ええと…森へ。」
やっぱりね。
ロランが父上を裏切るとは思わないが、キュース側の人間と会うことがロランの為になるとは思えない。いたずらに傷を負うだけだろう。
「あいつは簡単に死ぬような奴ではありません。もし生きていて、そしてこのタウヌールに害を及ぼすようであれば、その責任は私にあります。」
「別にロランの責任じゃないよ。むしろ暗殺を止めたんだから手柄だよ。」
と言ってはみたものの、僕のフォローはあまり効果はなさそうだ。少し話の方向を変えてみるか。
「そもそもロランがあんなところにいたのは、主館に立入禁止になったからなんだろう?」
それは僕にも責任がある。
ここは元気のないロランの為に、ひと肌脱いであげよう。
「それならサボるなんてみみっちい反行などせずに、ジルに父上を説得してもらおうじゃないか。」
「しかしジルはとても怒っていました。協力してくれるでしょうか。」
怒っていたというより、悔しかったのだろう。
ジルはロランの為なのか、キュース人の名誉回復を切に願っている。
殿下に、キュース人であるロランが重用されているところをお見せするのは、良いアピールになっただろう。
当の本人は全く気にしていないようだが。
それに、忙しくさせることで余計なことを考える隙を無くすというのも、ジルなりの優しさなのではないかな。
「大丈夫だと思うよ。」
上手くいけば男女の仲も進展するかもしれないし。
「ロランの演技次第だけど。」
「私は何をしたらよろしいですか?」
目をきらきらと輝かせて、ずいと身を乗り出してきたロランを落ち着かせるように、肩をぽんぽんと叩き、助言をしてあげる。
場所は湖がいいだろう。
どうせ森へ入り峡谷を見に行くというのならうってつけだ。雰囲気も良い。
2人に雰囲気というものが通用するかは謎だけど。
「ちゃんと落ち込んでいる様子を見せるんだよ。」
「ちゃんと、とは?」
「ロランは平気なふりをする癖があるから。」
ね、と首を傾けると、ロランは神妙な顔つきでこくりと頷いた。たぶん分かっていない。自覚がないのだろう。
声のトーンを下げて、伏し目がちに喋るんだよ、と言ってあげると、真面目なロランはまたこくこくと頷いた。
「それで、主館に立入禁止になってしまって、自分はどうしようもない人間だって言ってごらん。」
「それだけで良いのですか?」
「うん。それだけでジルなら動くよ。」
たぶんね。
「そしてジルに言われれば、父上も考え直してくださるだろう。」
首を傾げるロラン。
「その、図々しいお願いということは重々承知なのですが。」
「何?」
「フェリシアン様が進言してくださるのではいけないのですか?」
きっかけを作ってしまったのは僕だから、罪滅ぼしに、一応言ってはみたのだが、父上は考えるとだけ仰って、禁止令を取り下げてはくださらなかった。
僕も面白がってオレリアに頼まれるままに服を仕立てていたから、オレリアを結婚から遠ざけた加担者と思われてしまったのかもしれない。
「ごめんね。」
とりあえず笑顔でごまかした。
「でも、僕の言った通りにすれば、きっとジルが父上を説得してくれるよ。」
「はい、頑張ります!」
「ついでにジルにしだれかかってみなよ。」
「え…そ、それは、どのように…。」
「こんな感じにさ。」
女性にしては背の高いロランの頭を僕の肩に引き寄せた。
ジルは僕より大きいから、鎖骨か、胸板のあたりになるだろうか。
「こうやって頭を預けて、抱きしめてもらえたら、脈があると考えていいんじゃないかな。」
「だっ!抱きしめて…もらえるでしょうか…。」
僕の肩から頭を離し、両の頬を押さえるロラン。
薄暗くてその色の変化までは分からないが、こういう表情は女の子らしく、男心を擽る。
これをジルに見せられたら苦労しないだろうに。
「男はギャップに弱いから。」
「なるほど。では作戦名は、作戦Gですね。」
「ああ…うん。」
ご自由に。
ぐっと拳を握るロランに若干の不安を覚えつつ、僕はロランを見送った。
僕の役目はジルをロランの元へと向かわせることだ。
ジルの庇護欲を煽るのは簡単だ。
さっそく兵舎へ赴き、ジルの個室の戸をノックした。
すると、すぐにラフな服装のジルが姿を見せ、頭を下げた。
「フェリシアン様、このような所までいかが致しましたか。」
「ロランのことで、ちょっとね。」
「ロランがどうかしましたか?」
「うん。さっき修練場で少し話したんだけど、どこか元気が無くて。」
そうですかと俯くジルは、やはり当たりはついていそうだ。
ロランから聞いた刺客の話をジルにも話すと、ジルの眉間のしわがどんどん深くなった。
「そのまま今度は森に行くって言い出して。」
「この時間にですか?」
「そうなんだ。僕もついて行ってやりたかったんだけど、勝手に殿下のお御身から離れるわけにはいかなくてね。心配だから、ジルが見に行ってあげてくれないかな?」
「はい、もちろんです。ご心配おかけして申し訳ありません。」
保護者感。でも、この先はジルに任せるしかない。
「よろしくね。」
そう言ってジルの部屋をあとにした。後の報告が楽しみで足取りが軽くなる。
良いことをすると気持ちがいいな。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
タッタラ子爵家の奇妙な結婚事情
れん
恋愛
とある国にあるなんてことのない子爵家にまつわる結婚事情。
一つの一族を舞台にしたなんちゃって貴族の結婚のお話。
1.子爵令嬢と公爵の政略結婚
2.公爵令嬢と第三王子の恋人ごっこ
3.公爵令嬢と伯爵四男の家族計画(執筆中)
別サイトにも登録しています。
【完結】目覚めたら、疎まれ第三夫人として初夜を拒否されていました
ユユ
恋愛
気が付いたら
大富豪の第三夫人になっていました。
通り魔に刺されたはずの私は
お貴族様の世界へ飛ばされていました。
しかも初夜!?
“お前のようなアバズレが
シュヴァルに嫁げたことに感謝しろよ!
カレン・ベネット!”
どうやらアバズレカレンの体に入ったらしい。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?
hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。
待ってましたッ! 喜んで!
なんなら物理的な距離でも良いですよ?
乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。
あれ? どうしてこうなった?
頑張って断罪劇から逃げたつもりだったけど、先に待ち構えていた隣りの家のお兄さんにあっさり捕まってでろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。
×××
取扱説明事項〜▲▲▲
作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や感想、動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。*゜+
皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。
9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ(*゚ー゚*)ノ
全く自分に笑いかけてくれない婚約者と婚約破棄をしたら国が滅びました。
れん
恋愛
副題 金狼姫は婚約破棄されたので好きにします
王国の第一王子には婚約者がいた。王国の伝統と格式ある公爵家の娘だ。公爵家には二人の娘がおり、どちらも美しさは折り紙付だった。
だが王子は、その英知で国内外に名が知れる長女ではなく、女だてらに剣を握り、金狼姫などとあだ名される次女が自身の婚約者であることが不満で仕方がなかった。そのうえ相手も全く自分に興味がない様子。
日々降り積もる不満はついに爆発し、王子は婚約破棄を令嬢にたたきつけた。
「王子、本当に、でしょうか」
「くどい! 貴様との婚約は破棄する。二度とその顔を私の前に見せるな!」
王子の三度目の言葉にほろほろと涙を零した令嬢は、素早く踵を返すと駆け出し、とある人物の腕の中に飛び込んだ――。
三十年前ぐらいの「目が合うだけで幸せだった」みたいな話を目指した。王子は紛れもなく当て馬ですので人によってはちょっとかわいそうに感じるかもしれません。いや王子はかなりのクズになり果てたのでたぶん可哀そうに思わないかも……。
最初は副題がタイトルで、ヒロインがメインのはずだったんですが、気が付いたら王子サイドで語られる王国史がメインになってしまった。ヒロインはハッピーエンドだよ!!!
なお、時代背景的な舞台装置として、女性蔑視、人権侵害ともとれる発言を登場人物が悪気なくしております。あくまでもそう言った時代であり、それが普通の世界である。という認識で一つお願いします。
別サイトでも公開しています。
【完結】騙された侯爵令嬢は、政略結婚でも愛し愛されたかったのです
山葵
恋愛
政略結婚で結ばれた私達だったが、いつか愛し合う事が出来ると信じていた。
それなのに、彼には、ずっと好きな人が居たのだ。
私にはプレゼントさえ下さらなかったのに、その方には自分の瞳の宝石を贈っていたなんて…。
夫に離縁が切り出せません
えんどう
恋愛
初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。
妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる