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第二章〜フューズ王国〜

第36話 執事

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 俺たちは、約一か月お世話になった寮に別れを告げると、早速新しい拠点へと移り住むこととなった。

「にしても、ほんとにバカ広いな……これ管理しきれるか?」

「トウマ一つお願い……というか提案があるんだけどちょっといい?」

「ん? なに?」

「召喚魔術で執事を召喚して管理してもらうのはどうかなーって」

「召喚魔術で召喚……か」

「やっぱりだめかしら……?」

「いや、ダメなわけじゃない。……が、俺の召喚魔術で召喚をするとなると色々と面倒ごとが起きそうだなと思ってな。
 現状俺たちはクランを設立したことで結構目立っている。前まではメンバーが一人増えてもギルドに怪しまれるくらいだけだったが、今は前より注目を集めている分、面倒事に巻き込まれる危険性が高くなるんだ」

「確かにそうね……トウマが召喚するのはとても優秀な人材ばかりだし……」

「ああ、そうだ。冒険者を登録していておらず、Bランク相当の実力を持っているのに、情報が全くないというのは傍から見たらすげぇ怪しいだろ?
 ギルドとは情報を開示しろと言われてもしなくてもいい契約だが、噂が王様にまで届いたらどうなると思う?」

「……恐らく情報を開示せざるを得ないわね」

「それに、他のライバルクランも情報を得ようとしてくるだろうな」

「それじゃあやっぱり……」

「だから目立たないように裏方に専念させればいいんだ」

「あ……、確かにそれなら目立たないわね。戦闘面以外での能力なら勘繰られることもないだろうし……」

「ああ、だから戦闘系のスキルじゃなくてサポート系特化要員にするつもりだ」

 神聖召喚魔術ホーリーサモンは召喚するときのイメージである程度指定することが出来るようだしな。

「じゃあ早速召喚を始めるぞ」

「え、今やるの?」

「今でしょ!」

「……」

 若干古いネタをぶっこんだら物凄く困ったような顔をされた。
 おかしいな。こっちの人は知らないネタなはずだから行けると思ったのに……。
 若干心に傷を負いつつも頭の中のイメージを固めていく。

「アブラカタブラ……アブラカタブラ……」

 二回召喚を行ったことで気づいたことだが、詠唱は必要だけど、唱える呪文はなんでもいいらしい。
 前回は他の人もいる前だったから格好つけるためにそれっぽいことを言っただけなんだけどな。
 リアンの「え、なにその詠唱……」という声が聞こえたような気がするが気のせいだろう。

「――ここに顕現せよ! 召喚!」


 床に魔法陣が展開されると、目を焼き尽くすような強い閃光を放つ。
 う、目がチカチカする……。

 次第に視界がハッキリしてきて、ぼんやりと人の姿が見えるようになってくる。

「トウマ様、カンナ様、リアン様、ノア様、お初にお目にかかります」

 俺の視線の先には執事服をピシッと着こなした中肉中背のイケメンが立っていた。
 華麗に一礼。短くセットされた金髪がさらりと揺れる。微かに香水の良い匂いが漂った。彼が顔を上げると、その碧眼が俺を射抜く。
 凄まじい眼力だ。仕事ができるオーラがプンプンする。

「名前はあるか?」

「いえ、ございません」

「じゃあ、今日からディランだ。よろしくな」

「……! ありがとうございます! こちらこそこれからよろしくお願いいたします!」

「よろしくです!」

「よろしくお願いします」

「よろしくね♪」

「あと俺の名前は呼び捨てでいいぞ」

「いえ、それはなりません。私めは執事でございます。どこで誰がこの会話を聞いているかわかりません。執事に呼び捨てで呼ばれたとなったら、トウマ様は執事に舐められているという噂が立つでしょう。なので私は今後もトウマ様と呼ばせていただきます」

 そうディランは俺に進言してくる。その鋭い眼光に若干ビビりながらなんとか言葉をひねり出そうとする。

「お、おう。そうか、確かにそうかもしれないな」

 もう威厳もクソもあったもんじゃねぇな。

「じゃあ、一回ステータス見せてもらうな」



 名称:ディラン 年齢:25歳



 種族:人族



 状態:使役(楠木斗真)



 ステータス レベル:1



 HP:890 MP:1007 腕力:897 体力:702 敏捷:870 知力:786 魔力:543 器用:890



 スキル
 時空魔術LvMax、次元魔術Lv4、槍術Lv8、騎乗Lv7、御者Lv8、交渉LvMax、社交LvMax、商売Lv6、料理LvMax、話術Lv8、清掃LvMax、指揮Lv6、教導Lv6


「うっわ……」

「ご主人様どうでした?」

「うーん、戦闘面抑えたはずなのにそれでも凄い強い……」

 俺はそういいながら紙にディランのステータスを書き出す。

「これまた凄いわね……」

「私より料理スキル高いですね……」

 カンナは料理スキルで負けていることがショックらしく、「私は用済み……」と悲しそうにつぶやいていた。
 頭をなでながら、そんなことないよ。というとしっぽをぶんぶん回しながら復活したが。
 カンナ……そんなちょろくていいのか……?

「料理スキルより次元魔術を覚えていることが異常よ。使える人初めてみたわ!」

「そんな凄い魔術なのか?」

「ええ、もちろんよ。最後に使える人がいたのが数百年前だし、今はディラン以外使える人いないかもしれないわね」

 それはかなり希少価値が高い魔術なのではないだろうか?
 しかし、次元魔術に時空魔術か……。
 いったい、どんなことが出来るのだろうか?

「ディラン、次元魔術ってどんなことが出来るんだ? 転移する魔術とか使えたりするのか?」

「はい、できます。ほかに有名なもので言いますと、空間操作や時間操作などですね」

 転移! やはりできるのか。
 そう、俺が思い浮かべていた能力は転移だ。これから旅などが増えるからそういう魔術もあると便利だなと思ってのことだ。

「空間操作や、時間操作は具体的にどんなことが出来るんだ?」

「はい、例えば今ここにいる部屋の空間を拡張することが出来たり、周りの時間の流れを早めたり、遅くしたりすることが出来ます」

 空間はともかく、時間の流れを遅くするってチートじゃん。

「ただ、範囲を広げると消費魔力が膨大になるのでそこが難点です」

 まあ当然制限はあるだろうな。そうじゃないと流石に反則だしね。
 ……あれ? そういえば俺はメッチャクチャMP多いから、トレースで俺が使ったら最強なんじゃない?

「なぁ、少し試したことがあるから意識同化をしてトレースをしたいんだけどいいか?」

「もちろんでございます」

 俺はディランに諸注意を伝えると、早速行おうとする。

「──才幹接続ステータスコネクト 

 俺はまずディランの時空魔術を選択する。

「──模倣トレース!」

 ふむふむ追加されているな。
 まずは時間操作の方から試してみるか。

時間減速タイムディサレーション!!」

 そう俺が唱えると周りの物音は一切しなくなった。
 カンナたちを見てみるとかすかに動いている程度だ。完全に停止しているわけではなく、名前どうり時間の流れが緩やかになるようだ。

「ふにふにー」

 俺はカンナの頬っぺたを摘み手を放す。すると、すぐに戻るわけではなく。ゆっくりと時間をかけて戻っていく。

「お、そろそろMPがやばいな」

 ついさっき召喚をしたばっかなので、あまりMPは残っていない。この20秒くらいで約1000近くのMPが消費されたようだ。残り百もない。
 魔術を解除すると、急に虚脱感に襲われ、その場に座り込む。

「大丈夫ですか!? ご主人様!」

「あ、ああ。少しMPを使いすぎただけだ。少し休めば治るはずだ」

「だめです! 体調が戻るまではベットで安静にしていてください!」

 そのままあれよあれよと、ベットへと運ばれてしまった。ほかの能力も気になるが仕方がない。
 最初は移動用要員兼、執事のつもりだったがなんかとてつもないやつを召喚しちまったな。
 それにしても、この能力によって戦闘の幅も広がりそうだな。
 そんなことを思いつつ、カンナの看病を受けた。
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