上 下
40 / 41
第二章〜フューズ王国〜

第36話 執事

しおりを挟む
 俺たちは、約一か月お世話になった寮に別れを告げると、早速新しい拠点へと移り住むこととなった。

「にしても、ほんとにバカ広いな……これ管理しきれるか?」

「トウマ一つお願い……というか提案があるんだけどちょっといい?」

「ん? なに?」

「召喚魔術で執事を召喚して管理してもらうのはどうかなーって」

「召喚魔術で召喚……か」

「やっぱりだめかしら……?」

「いや、ダメなわけじゃない。……が、俺の召喚魔術で召喚をするとなると色々と面倒ごとが起きそうだなと思ってな。
 現状俺たちはクランを設立したことで結構目立っている。前まではメンバーが一人増えてもギルドに怪しまれるくらいだけだったが、今は前より注目を集めている分、面倒事に巻き込まれる危険性が高くなるんだ」

「確かにそうね……トウマが召喚するのはとても優秀な人材ばかりだし……」

「ああ、そうだ。冒険者を登録していておらず、Bランク相当の実力を持っているのに、情報が全くないというのは傍から見たらすげぇ怪しいだろ?
 ギルドとは情報を開示しろと言われてもしなくてもいい契約だが、噂が王様にまで届いたらどうなると思う?」

「……恐らく情報を開示せざるを得ないわね」

「それに、他のライバルクランも情報を得ようとしてくるだろうな」

「それじゃあやっぱり……」

「だから目立たないように裏方に専念させればいいんだ」

「あ……、確かにそれなら目立たないわね。戦闘面以外での能力なら勘繰られることもないだろうし……」

「ああ、だから戦闘系のスキルじゃなくてサポート系特化要員にするつもりだ」

 神聖召喚魔術ホーリーサモンは召喚するときのイメージである程度指定することが出来るようだしな。

「じゃあ早速召喚を始めるぞ」

「え、今やるの?」

「今でしょ!」

「……」

 若干古いネタをぶっこんだら物凄く困ったような顔をされた。
 おかしいな。こっちの人は知らないネタなはずだから行けると思ったのに……。
 若干心に傷を負いつつも頭の中のイメージを固めていく。

「アブラカタブラ……アブラカタブラ……」

 二回召喚を行ったことで気づいたことだが、詠唱は必要だけど、唱える呪文はなんでもいいらしい。
 前回は他の人もいる前だったから格好つけるためにそれっぽいことを言っただけなんだけどな。
 リアンの「え、なにその詠唱……」という声が聞こえたような気がするが気のせいだろう。

「――ここに顕現せよ! 召喚!」


 床に魔法陣が展開されると、目を焼き尽くすような強い閃光を放つ。
 う、目がチカチカする……。

 次第に視界がハッキリしてきて、ぼんやりと人の姿が見えるようになってくる。

「トウマ様、カンナ様、リアン様、ノア様、お初にお目にかかります」

 俺の視線の先には執事服をピシッと着こなした中肉中背のイケメンが立っていた。
 華麗に一礼。短くセットされた金髪がさらりと揺れる。微かに香水の良い匂いが漂った。彼が顔を上げると、その碧眼が俺を射抜く。
 凄まじい眼力だ。仕事ができるオーラがプンプンする。

「名前はあるか?」

「いえ、ございません」

「じゃあ、今日からディランだ。よろしくな」

「……! ありがとうございます! こちらこそこれからよろしくお願いいたします!」

「よろしくです!」

「よろしくお願いします」

「よろしくね♪」

「あと俺の名前は呼び捨てでいいぞ」

「いえ、それはなりません。私めは執事でございます。どこで誰がこの会話を聞いているかわかりません。執事に呼び捨てで呼ばれたとなったら、トウマ様は執事に舐められているという噂が立つでしょう。なので私は今後もトウマ様と呼ばせていただきます」

 そうディランは俺に進言してくる。その鋭い眼光に若干ビビりながらなんとか言葉をひねり出そうとする。

「お、おう。そうか、確かにそうかもしれないな」

 もう威厳もクソもあったもんじゃねぇな。

「じゃあ、一回ステータス見せてもらうな」



 名称:ディラン 年齢:25歳



 種族:人族



 状態:使役(楠木斗真)



 ステータス レベル:1



 HP:890 MP:1007 腕力:897 体力:702 敏捷:870 知力:786 魔力:543 器用:890



 スキル
 時空魔術LvMax、次元魔術Lv4、槍術Lv8、騎乗Lv7、御者Lv8、交渉LvMax、社交LvMax、商売Lv6、料理LvMax、話術Lv8、清掃LvMax、指揮Lv6、教導Lv6


「うっわ……」

「ご主人様どうでした?」

「うーん、戦闘面抑えたはずなのにそれでも凄い強い……」

 俺はそういいながら紙にディランのステータスを書き出す。

「これまた凄いわね……」

「私より料理スキル高いですね……」

 カンナは料理スキルで負けていることがショックらしく、「私は用済み……」と悲しそうにつぶやいていた。
 頭をなでながら、そんなことないよ。というとしっぽをぶんぶん回しながら復活したが。
 カンナ……そんなちょろくていいのか……?

「料理スキルより次元魔術を覚えていることが異常よ。使える人初めてみたわ!」

「そんな凄い魔術なのか?」

「ええ、もちろんよ。最後に使える人がいたのが数百年前だし、今はディラン以外使える人いないかもしれないわね」

 それはかなり希少価値が高い魔術なのではないだろうか?
 しかし、次元魔術に時空魔術か……。
 いったい、どんなことが出来るのだろうか?

「ディラン、次元魔術ってどんなことが出来るんだ? 転移する魔術とか使えたりするのか?」

「はい、できます。ほかに有名なもので言いますと、空間操作や時間操作などですね」

 転移! やはりできるのか。
 そう、俺が思い浮かべていた能力は転移だ。これから旅などが増えるからそういう魔術もあると便利だなと思ってのことだ。

「空間操作や、時間操作は具体的にどんなことが出来るんだ?」

「はい、例えば今ここにいる部屋の空間を拡張することが出来たり、周りの時間の流れを早めたり、遅くしたりすることが出来ます」

 空間はともかく、時間の流れを遅くするってチートじゃん。

「ただ、範囲を広げると消費魔力が膨大になるのでそこが難点です」

 まあ当然制限はあるだろうな。そうじゃないと流石に反則だしね。
 ……あれ? そういえば俺はメッチャクチャMP多いから、トレースで俺が使ったら最強なんじゃない?

「なぁ、少し試したことがあるから意識同化をしてトレースをしたいんだけどいいか?」

「もちろんでございます」

 俺はディランに諸注意を伝えると、早速行おうとする。

「──才幹接続ステータスコネクト 

 俺はまずディランの時空魔術を選択する。

「──模倣トレース!」

 ふむふむ追加されているな。
 まずは時間操作の方から試してみるか。

時間減速タイムディサレーション!!」

 そう俺が唱えると周りの物音は一切しなくなった。
 カンナたちを見てみるとかすかに動いている程度だ。完全に停止しているわけではなく、名前どうり時間の流れが緩やかになるようだ。

「ふにふにー」

 俺はカンナの頬っぺたを摘み手を放す。すると、すぐに戻るわけではなく。ゆっくりと時間をかけて戻っていく。

「お、そろそろMPがやばいな」

 ついさっき召喚をしたばっかなので、あまりMPは残っていない。この20秒くらいで約1000近くのMPが消費されたようだ。残り百もない。
 魔術を解除すると、急に虚脱感に襲われ、その場に座り込む。

「大丈夫ですか!? ご主人様!」

「あ、ああ。少しMPを使いすぎただけだ。少し休めば治るはずだ」

「だめです! 体調が戻るまではベットで安静にしていてください!」

 そのままあれよあれよと、ベットへと運ばれてしまった。ほかの能力も気になるが仕方がない。
 最初は移動用要員兼、執事のつもりだったがなんかとてつもないやつを召喚しちまったな。
 それにしても、この能力によって戦闘の幅も広がりそうだな。
 そんなことを思いつつ、カンナの看病を受けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼氏に身体を捧げると言ったけど騙されて人形にされた!

ジャン・幸田
SF
 あたし姶良夏海。コスプレが趣味の役者志望のフリーターで、あるとき付き合っていた彼氏の八郎丸匡に頼まれたのよ。十日間連続してコスプレしてくれって。    それで応じたのは良いけど、彼ったらこともあろうにあたしを改造したのよ生きたラブドールに! そりゃムツミゴトの最中にあなたに身体を捧げるなんていったこともあるけど、実行する意味が違うってば! こんな状態で本当に元に戻るのか教えてよ! 匡! *いわゆる人形化(人体改造)作品です。空想の科学技術による作品ですが、そのような作品は倫理的に問題のある描写と思われる方は閲覧をパスしてください。

最優テイマーの手抜きライフ。悪役令嬢に転生しても、追放されても、私は辺境の地でこの魔物たちと仲良く暮らします。

西東友一
ファンタジー
白川桜の好きな物は、動物と乙女ゲーム。 新作の乙女ゲームを買った帰り道、トラックに轢かれそうになったネコタンを助けたら死んでしまった。 せっかく買った乙女ゲームをやる前に死んでしまった無念の桜だったけれど、異世界に転生していた。 転生先はなんと乙女ゲーム内の悪役令嬢のサクラ・ブレンダ・ウィリアムだった。 サクラ・ブレンダ・ウィリアムは冷酷な最強テイマーだったけれど、心優しい桜は・・・ 「こんな、きゃわいい子たちを、戦わせるなんて無理!!」 そんなこんなで、期待された役割を果たせない桜は王家から追放されて、のんびりスローライフを始めます。

【短編集】人間がロボットになるのも悪くないかも?

ジャン・幸田
大衆娯楽
 人間を改造すればサイボーグになる作品とは違い、人間が機械服を着たり機械の中に閉じ込められることで、人間扱いされなくなる物語の作品集です。

無職無双 ~現実世界で無職になって絶望。異世界転生しても無職のままで絶望。だが、無職こそ最強の世界だった無職転生物語~

ユニ
ファンタジー
 42歳ごく普通に生活していたサラリーマン、同僚にはめられて無職。  だが、異世界転生したらリアルイケメンに生まれかわって大勝利。  しかし、ギルドの職業は勇者でも戦士でも魔法使いでも無く無職。  異世界でも無職。  それはそれでダラダラと異世界ライフを過ごしていた。  ある日、そんな生活も終わりを迎えギルドから大魔導師の師匠をつけられることに。  ギルドによる無職救済手段だと思われたが主人公は自分の秘められた力をまだ知らないだけだったのだ。  ごく普通だけどリアルで挫折した主人公が異世界で最強の力を手にして他の人のために生きるようになる成長物語。 「小説家になろう」様にて連載中 https://ncode.syosetu.com/n8726fo/ 「小説家になろう」様 毎日更新 「アルファポリス」様 毎月更新

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!? 政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。 十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。 さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。 (───よくも、やってくれたわね?) 親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、 パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。 そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、 (邪魔よっ!) 目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。 しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────…… ★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~ 『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』 こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。

転生したら牧場主になったけど家畜が何故か全員獣人♂だしハーレムが出来上がりつつある件について

ぺけ
BL
ひたすらにエロしかなくCPにする気も皆無の総攻めBLです。 んほぉ系、搾乳とか産卵とかメイン 転生社畜リーマン系27歳176cmが デカパイ雄牛のお兄さんやらクールな忠犬笑系お兄さんやナルシストな鳥のお兄さんと 向こうからの矢印がデカすぎて怖……と思いながらパコパコする倫理ストーリー皆無のハーレムものです 作者Twitter(@A0o6U) 匿名で感想やWEB拍手などあればこちらから

処理中です...