125 / 431
四章 精霊ノ王
ex 総力戦 Ⅳ
しおりを挟む
化け物だと、目の前で暴れ回る少年を見て、精霊を捕らえるハンターの男はそう思った。
大剣を構える少年がどれほどの脅威と成り得るかは、信号弾が放たれた地点を通過した際に大雑把にその場で起きた事を精霊術で探った結果や、そもそも全勢力をこの程度の数の相手にぶつける指示が出ていた時点で察していた。
だがしかし、これほどまでとは思わなかった。
「冗談じゃねえぞ……ッ」
速度。攻撃力。どれをとっても段違いの強さを誇るが、ある程度肉体強化が耐久力に割を振ってる者なら一発はどうにかなっている事が多いし、結界で勢いを僅かにでも殺せればどうにかなる確率もあがる。
数の暴力で速度による回避をある程度無効化させ、距離を詰めていようと離れられようと攻撃を放ち喰らわせる事は出来ていた。
だがしかし、目の前の少年はまだ立っている。憔悴しきった事を一目で分からせるほどの空ろな瞳。全身から血液が溢れ出すという表現が間違いではない様に思える程の出血量。そんなどう考えたって立っている様なおかしい状態で、少年、瀬戸栄治は立って男を見据えている。
最後の一人になった男を見据えている。
結論だけを言えば耐久力が異常だった。どれだけ切り裂いても。どれだけ矢や精霊術を打ち込んでも。どれだけ鈍器で殴りつけても。それでも彼の意識が落ちる事は無い。
未だに辛うじて、その意識を保ち続けている。
動きは鈍り、文字通り辛うじて立てている少年に対し、男は未だ軽傷。普通であれば勝利を確信できる筈の状況下なのだが、男にはもう勝利への道筋が見えなかった。
今の憔悴しきった状態の相手にならば、おそらく五割程度の確率で攻撃を与える事が出来る。だけどその先がまるで見えない。完全に詰んでいる様な、そんな状況に思えた。
精霊と戦っている連中の援護は期待できない。元より作戦は抵抗してくるであろう精霊を抑え込みつつ、少年を孤立させて一気に叩くというものである。故にまだ倒し切れていない精霊を無視してまでこちらに援護を打ち込む事は無いだろう。
となれば詰みだ。本当に詰み。自分が倒されるのはもはや確定事項の様な事で、そして自分を倒した目の前の少年は精霊と戦っている連中にまで矛を向ける。そう、もはやそろえは確定事項だ。直感がそう告げてくる。
だけど逃げるわけにはいかなかった。逃げてはいけないと思った。
元よりこの戦いは、精霊を捕まえると言った利益の為の戦いではない。
そして自分達の狩り場を荒らす者への鉄槌を下すという理由でもない。
ただ単純に、目の前の人の道から外れた様な少年をそのまま野放しには出来なかった。
被害が自分達だけで済んでいる内に、あの脅威を止めておく必要があると、そう考えた。
そう、止めなければならないのだ。もはやそれは使命感に近い。
人が人に優しい世界で、彼が育んできた人間性がそうさせる。
だから動いた。精霊術で力を付与させたバタフライナイフを両手に真正面から突っ込んだ。
少年の反応は鈍い。万全の状態では当たらないであろう攻撃が、少年の腹部を掠る。
だけど掠っただけだ。一対一で攻撃をなんとか躱せる位には、少年の意識は残っている。
辛うじて躱した後、切り返してもう一度攻撃しようとしている男よりも早く、大剣を打ち込む事位は出来る。
そして大剣という鈍器で薙ぎ払われた男は地面を転がり、地に倒れ伏せる。
薄れゆく意識の中で彼の瞳に映ったのは、ふら付いて倒れる少年。そしてそこから再びゆっくりと起き上がる化け物。
そして次の瞬間、超高速で動きだした様に少年の姿はその場から消え、男の意識も掻き消える。
少年の意識はまだ消えない。
大剣を構える少年がどれほどの脅威と成り得るかは、信号弾が放たれた地点を通過した際に大雑把にその場で起きた事を精霊術で探った結果や、そもそも全勢力をこの程度の数の相手にぶつける指示が出ていた時点で察していた。
だがしかし、これほどまでとは思わなかった。
「冗談じゃねえぞ……ッ」
速度。攻撃力。どれをとっても段違いの強さを誇るが、ある程度肉体強化が耐久力に割を振ってる者なら一発はどうにかなっている事が多いし、結界で勢いを僅かにでも殺せればどうにかなる確率もあがる。
数の暴力で速度による回避をある程度無効化させ、距離を詰めていようと離れられようと攻撃を放ち喰らわせる事は出来ていた。
だがしかし、目の前の少年はまだ立っている。憔悴しきった事を一目で分からせるほどの空ろな瞳。全身から血液が溢れ出すという表現が間違いではない様に思える程の出血量。そんなどう考えたって立っている様なおかしい状態で、少年、瀬戸栄治は立って男を見据えている。
最後の一人になった男を見据えている。
結論だけを言えば耐久力が異常だった。どれだけ切り裂いても。どれだけ矢や精霊術を打ち込んでも。どれだけ鈍器で殴りつけても。それでも彼の意識が落ちる事は無い。
未だに辛うじて、その意識を保ち続けている。
動きは鈍り、文字通り辛うじて立てている少年に対し、男は未だ軽傷。普通であれば勝利を確信できる筈の状況下なのだが、男にはもう勝利への道筋が見えなかった。
今の憔悴しきった状態の相手にならば、おそらく五割程度の確率で攻撃を与える事が出来る。だけどその先がまるで見えない。完全に詰んでいる様な、そんな状況に思えた。
精霊と戦っている連中の援護は期待できない。元より作戦は抵抗してくるであろう精霊を抑え込みつつ、少年を孤立させて一気に叩くというものである。故にまだ倒し切れていない精霊を無視してまでこちらに援護を打ち込む事は無いだろう。
となれば詰みだ。本当に詰み。自分が倒されるのはもはや確定事項の様な事で、そして自分を倒した目の前の少年は精霊と戦っている連中にまで矛を向ける。そう、もはやそろえは確定事項だ。直感がそう告げてくる。
だけど逃げるわけにはいかなかった。逃げてはいけないと思った。
元よりこの戦いは、精霊を捕まえると言った利益の為の戦いではない。
そして自分達の狩り場を荒らす者への鉄槌を下すという理由でもない。
ただ単純に、目の前の人の道から外れた様な少年をそのまま野放しには出来なかった。
被害が自分達だけで済んでいる内に、あの脅威を止めておく必要があると、そう考えた。
そう、止めなければならないのだ。もはやそれは使命感に近い。
人が人に優しい世界で、彼が育んできた人間性がそうさせる。
だから動いた。精霊術で力を付与させたバタフライナイフを両手に真正面から突っ込んだ。
少年の反応は鈍い。万全の状態では当たらないであろう攻撃が、少年の腹部を掠る。
だけど掠っただけだ。一対一で攻撃をなんとか躱せる位には、少年の意識は残っている。
辛うじて躱した後、切り返してもう一度攻撃しようとしている男よりも早く、大剣を打ち込む事位は出来る。
そして大剣という鈍器で薙ぎ払われた男は地面を転がり、地に倒れ伏せる。
薄れゆく意識の中で彼の瞳に映ったのは、ふら付いて倒れる少年。そしてそこから再びゆっくりと起き上がる化け物。
そして次の瞬間、超高速で動きだした様に少年の姿はその場から消え、男の意識も掻き消える。
少年の意識はまだ消えない。
0
お気に入りに追加
369
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる