20 / 115
1-2 彼女が世界に馴染めるように
11 所有物
しおりを挟む
「俺がウィザードに……ですか?」
「ええ。私はそれが最も最善の策ではないかと考えています」
冗談などを言っている感じではなく、何処までも大真面目に。
そんな風に、誰にでも就けるわけではない職の上澄みに位置に立っているであろう篠原は、非現実的に思える提案の理由を掘り下げていく。
「今現在杉浦さんとユイさんは契約という形で結ばれている。つまり、そうですね……この言い方は非常に乱暴であまり言いたくは無いのですが、ユイさんは杉浦さんの所有物という事になります」
「所有物……ですか」
あまり聞いていて気分の良い言葉ではない。
ユイが人間という括りに入れて良いのかは分からないが、こちらの認識としては完全に人間の女の子だ。
少なくとも自分は、物としてはみれない。
それはきっと篠原も同じだろう。
「今は便宜上そういう事にしておいてください。あくまで今はですよ」
「分かってますよ。それで俺の所有物云々とウィザードになる事にどんな関係が?」
「簡単に言ってしまえば、ユイさんの所有者である杉浦さんがウィザードになり北陸第一支部に所属すれば、事実上ユイさんは我々の管理下に置かれるという訳です」
「置かれると……ユイが他のウィザードに狙われたりなんて事にはならないって事ですか?」
「その危険性を最小限にする事ができます。現に主に低級のアンノウンを解呪……人間に害の無い状態にしてウィザードが利用している例も少なくありません。確実にコントロールできる状態であるならば掴み取れる規定が異界管理局にはあるんです。それらと同じ扱いにできれば……民間人がユイさん程の力を持つアンノウンを抱えているという状況よりは遥かに守りやすくなる」
「……できるんですか? なんか低級のアンノウンをみたいな話出てましたけど、多分ユイはそんなレベルじゃないですよね。そんな凄い奴をコントロールしましたなんて話、現状部外者の俺が考えても通すの難しいと思うんですけど」
「通せるか通せないかじゃない。通すんです。下げられるだけの頭を下げて作れるだけの資料を作り、それらを後押しする為の実績作りも支援する。やれるだけの事は全部やらなければ」
そんな、強い覚悟を秘めた視線と声音を篠原はぶつけてくる。
(……やっぱこの人絶対逃げて無いんだよな)
内心そう考えながら、鉄平は頭を下げる。
「すみません、なんか色々やってもらって……大変じゃないですか?」
「この今を選ぶという事はそういう事です。それに……杉浦さんをウィザードにする事には我々としても大きなメリットがありますから」
「メリット?」
「そもそも北陸第一支部に限らず、ウィザードは深刻なレベルで戦力が足りていないんです」
「こっちを殺さない戦い方であれだけ動ける人達がいるのにですか?」
「……それでもです。この辺りは流石に半分こちら側に片足を突っ込んでいる杉浦さんにもお話できない事になるので今は掘り下げられませんが……戦力が足りない事は事実です」
だから、と篠原は纏めるように言う。
「こちら側にもメリットはあります。なので我々に掛かる負担などの事は考えなくても大丈夫ですが……さて、どうでしょうか?」
「……」
「まだ雇用条件の話を始めとした本来話しておかなければならない話は何もしていません。なのであくまでヒアリングです。基本的な労働条件などがのめる場合、ウィザードになるか否か。急ですが今の考えを教えてくれると助かります」
「……俺は余程ヤバイ条件じゃなきゃ頷きますよ」
鉄平は殆ど間を空けずにそう返す。
「別に今の俺が辞めにくい職に就いている訳じゃ無いし……それにユイを助ける為にウィザードと戦うような事をしている時点で今更止まらないでしょ。それが最善の手なら喜んでやります」
「……そうか」
「だけどユイはどうだ?」
「ん? ワシか?」
「ああ、お前の意思を聞いてない」
それは絶対に聞かなければならない。
「さっき篠原さんは便宜上ユイは俺の所有物だって言いましたけど……便宜上で実際はそうじゃない。だったらユイの考えも尊重しないと駄目だと思うんです」
「確かにそうですね。私も聞き方が悪かった」
篠原がそう頷いた所で、改めてユイに問いかける。
「ユイ、お前はどうしたい?」
「いや、鉄平が良いなら普通に良いぞ。なんか大変な事があってもどんと来いじゃ」
「……良いのかよ、本当に」
言いながら、先程までのユイの事を思い返す。
「お前さっき無害だから好きにしてくださいなんて事にはならない、とかそういう話してた時に頭抱えてたよな。それなのに良いのか? こういう組織に所属するって事は、それこそ好きにしてくださいって状態からは少し離れると思うぞ」
「いや、それはいい。別にその事自体にワシの不満は無いからの」
「え、無いのに頭抱えてたのお前。パフォーマンス?」
「いやいやいや、そんな訳無いじゃろう」
そしてユイは一拍空けてから言う。
「ワシが好きにやれないという事はきっと鉄平もそうじゃろう? 頭を抱えていたのはそういう事じゃ。じゃから……鉄平が良いならそれでいい」
「……そっか。だったら俺は大丈夫だ」
どうやらユイはただこちらの心配をしてくれていただけらしい。
きっと本当にそれだけだ。
やはり自分の事を棚に上げて人の事で頭を抱えだすような奴は、たとえ条件が厳しかろうと見捨てるわけにはいかない。
見捨てたくない。
だからこれで良い。
「なら止めんよ。じゃが無理は駄目じゃぞ」
「おう。……とまあこんな感じです篠原さん。だから頂いた話は前向きに検討しますよ」
コンビニバイトのフリーターからウィザードに転職する事を前向きに。
「そうですか。色々と良かったです」
「でも一つ確認しておきたい事があって」
「給料面とか社会保障の話ですかね」
「あ、いや、それはまた後日しっかり聞きたいんですけど、えっとそもそもの話……」
「そもそもの話?」
篠原に問い返され、鉄平は少々視線を反らしながら答える。
「資格とか何も無い未経験の高卒フリーターがウィザードにって、そもそも転職可能な話なんですかね」
そんな立ち塞がる壁の話を。
「ええ。私はそれが最も最善の策ではないかと考えています」
冗談などを言っている感じではなく、何処までも大真面目に。
そんな風に、誰にでも就けるわけではない職の上澄みに位置に立っているであろう篠原は、非現実的に思える提案の理由を掘り下げていく。
「今現在杉浦さんとユイさんは契約という形で結ばれている。つまり、そうですね……この言い方は非常に乱暴であまり言いたくは無いのですが、ユイさんは杉浦さんの所有物という事になります」
「所有物……ですか」
あまり聞いていて気分の良い言葉ではない。
ユイが人間という括りに入れて良いのかは分からないが、こちらの認識としては完全に人間の女の子だ。
少なくとも自分は、物としてはみれない。
それはきっと篠原も同じだろう。
「今は便宜上そういう事にしておいてください。あくまで今はですよ」
「分かってますよ。それで俺の所有物云々とウィザードになる事にどんな関係が?」
「簡単に言ってしまえば、ユイさんの所有者である杉浦さんがウィザードになり北陸第一支部に所属すれば、事実上ユイさんは我々の管理下に置かれるという訳です」
「置かれると……ユイが他のウィザードに狙われたりなんて事にはならないって事ですか?」
「その危険性を最小限にする事ができます。現に主に低級のアンノウンを解呪……人間に害の無い状態にしてウィザードが利用している例も少なくありません。確実にコントロールできる状態であるならば掴み取れる規定が異界管理局にはあるんです。それらと同じ扱いにできれば……民間人がユイさん程の力を持つアンノウンを抱えているという状況よりは遥かに守りやすくなる」
「……できるんですか? なんか低級のアンノウンをみたいな話出てましたけど、多分ユイはそんなレベルじゃないですよね。そんな凄い奴をコントロールしましたなんて話、現状部外者の俺が考えても通すの難しいと思うんですけど」
「通せるか通せないかじゃない。通すんです。下げられるだけの頭を下げて作れるだけの資料を作り、それらを後押しする為の実績作りも支援する。やれるだけの事は全部やらなければ」
そんな、強い覚悟を秘めた視線と声音を篠原はぶつけてくる。
(……やっぱこの人絶対逃げて無いんだよな)
内心そう考えながら、鉄平は頭を下げる。
「すみません、なんか色々やってもらって……大変じゃないですか?」
「この今を選ぶという事はそういう事です。それに……杉浦さんをウィザードにする事には我々としても大きなメリットがありますから」
「メリット?」
「そもそも北陸第一支部に限らず、ウィザードは深刻なレベルで戦力が足りていないんです」
「こっちを殺さない戦い方であれだけ動ける人達がいるのにですか?」
「……それでもです。この辺りは流石に半分こちら側に片足を突っ込んでいる杉浦さんにもお話できない事になるので今は掘り下げられませんが……戦力が足りない事は事実です」
だから、と篠原は纏めるように言う。
「こちら側にもメリットはあります。なので我々に掛かる負担などの事は考えなくても大丈夫ですが……さて、どうでしょうか?」
「……」
「まだ雇用条件の話を始めとした本来話しておかなければならない話は何もしていません。なのであくまでヒアリングです。基本的な労働条件などがのめる場合、ウィザードになるか否か。急ですが今の考えを教えてくれると助かります」
「……俺は余程ヤバイ条件じゃなきゃ頷きますよ」
鉄平は殆ど間を空けずにそう返す。
「別に今の俺が辞めにくい職に就いている訳じゃ無いし……それにユイを助ける為にウィザードと戦うような事をしている時点で今更止まらないでしょ。それが最善の手なら喜んでやります」
「……そうか」
「だけどユイはどうだ?」
「ん? ワシか?」
「ああ、お前の意思を聞いてない」
それは絶対に聞かなければならない。
「さっき篠原さんは便宜上ユイは俺の所有物だって言いましたけど……便宜上で実際はそうじゃない。だったらユイの考えも尊重しないと駄目だと思うんです」
「確かにそうですね。私も聞き方が悪かった」
篠原がそう頷いた所で、改めてユイに問いかける。
「ユイ、お前はどうしたい?」
「いや、鉄平が良いなら普通に良いぞ。なんか大変な事があってもどんと来いじゃ」
「……良いのかよ、本当に」
言いながら、先程までのユイの事を思い返す。
「お前さっき無害だから好きにしてくださいなんて事にはならない、とかそういう話してた時に頭抱えてたよな。それなのに良いのか? こういう組織に所属するって事は、それこそ好きにしてくださいって状態からは少し離れると思うぞ」
「いや、それはいい。別にその事自体にワシの不満は無いからの」
「え、無いのに頭抱えてたのお前。パフォーマンス?」
「いやいやいや、そんな訳無いじゃろう」
そしてユイは一拍空けてから言う。
「ワシが好きにやれないという事はきっと鉄平もそうじゃろう? 頭を抱えていたのはそういう事じゃ。じゃから……鉄平が良いならそれでいい」
「……そっか。だったら俺は大丈夫だ」
どうやらユイはただこちらの心配をしてくれていただけらしい。
きっと本当にそれだけだ。
やはり自分の事を棚に上げて人の事で頭を抱えだすような奴は、たとえ条件が厳しかろうと見捨てるわけにはいかない。
見捨てたくない。
だからこれで良い。
「なら止めんよ。じゃが無理は駄目じゃぞ」
「おう。……とまあこんな感じです篠原さん。だから頂いた話は前向きに検討しますよ」
コンビニバイトのフリーターからウィザードに転職する事を前向きに。
「そうですか。色々と良かったです」
「でも一つ確認しておきたい事があって」
「給料面とか社会保障の話ですかね」
「あ、いや、それはまた後日しっかり聞きたいんですけど、えっとそもそもの話……」
「そもそもの話?」
篠原に問い返され、鉄平は少々視線を反らしながら答える。
「資格とか何も無い未経験の高卒フリーターがウィザードにって、そもそも転職可能な話なんですかね」
そんな立ち塞がる壁の話を。
0
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?
サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに――
※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる