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一章 覚醒の日
6 有能である事の証明を
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アイリスの追試から少々のインターバルを置き、いよいよ俺の番が回ってきた。
廊下を抜け、競技場へと足を踏み入れる。
そうして正面に見えるのが、ハゲが追試用に構築した全長3メートル程のゴーレムだ。
強固な装甲は生半可な攻撃では傷一つ付かず、それこそある一定以上の実力が無ければ制限時間内に削り切れない。
普段の俺でも傷位なら付ける事ができるが、それでも破壊できるだけの実力は無かった。
故に今日此処に立っている。
そしてこれから戦うゴーレムと対面した後、自然とアイリスを探した。
大丈夫だろうかと、心配になったから。
だけどどうやら心配は無用だったみたいで。
何やら色々と言われているようだけど、それを涼しい顔してそれらを全て無視している。
もう言葉の暴力に殴られてもそう簡単にはダメージは負わない。それどころか。
「あ、頑張れユーリ君!」
そんな風に元気に俺の応援までしてくる始末だ。
とても酷い事を言われ続けた上に退学がほぼ決定的になっている奴の言動とは思えない。
だから周囲の連中の一部は困惑し始めている。
当然だ。
殴れば当たり前に返ってくる筈の反応が返ってこない。
そしてそこにあるべき筈の感情とは真逆の物がそこにある。
疲弊し憔悴している筈の奴が元気で余裕の様子を見せている。
何も知らなければ、気味悪がって困惑するのも無理はない。
そして殴っても反応しない奴を殴り続けるより、自分達の求める反応を見せる人間が現れたなら、矛先の大半はそちらに向く。
煽り。
罵り。
その大半が俺の方へと向いて来る。
どうでも良い。言わせておけばいい。
俺はアイリスの応援だけを聞いていれば良いんだ。
と、そこで少し離れた所にクラスメイト以外の人間が数人いる事に気付いた。
一人は二十代半ば程のスーツを着た見慣れない男。
教員……いや、でもあんな人は知らないな。見た事が無い。
でも学園内に居るという事は関係者だろうか。
まあそんな知らない誰かよりも、注目すべきは知っている誰かだ。
男とは離れた所に、連中に不快な表情を向ける兄貴が取り巻き数人と共にそこに居た。
何不快な表情とか浮かべてんだよ。
お前もやってる事、そいつらと変わらねえからな。
同族嫌悪か?
……まあ良い。兄貴の事なんてどうでも良い。とにかく今は目の前の事に集中しよう。
そして俺はゴーレムと……ハゲと向かい合う。
「なんだ? 自身有り気な表情だな。何か策でも用意したのか?」
ある訳が無いだろうと、そう言いたいように嫌な笑みを浮かべながらハゲは言う。
そんなハゲに、俺は馬鹿正直に答える事にした。
「用意しました!」
態々注目を一身に集めるように大きな声で。
突然の事で場が静まり返り、ハゲも思わず言葉を失っている。
全ての注目が今俺に集まり、次の一声を待っている。
そして俺は手の内を晒した。
「先生が虚言だの妄言だの落書きだのと馬鹿にしたアイリスの術式が、今劣化した状態で俺の頭の中にあります!」
そう宣言して訪れるのは再びの静寂。
やがてそれを破ったのはハゲの笑い声だった。
「何を言い出すのかと思えば、お前まで頭がおかしくなったのか。アイリス・エルマータが提出した論文の全ては虚言で構築されている。分かるか? そんな事はあり得ないんだ」
そしてハゲの言葉を皮切りに、あの連中からも煽り散らす言葉が降り注ぐ。
主に、俺の言葉を虚言と断定して。
それに元々からの無能さを絡めた煽り、笑い、罵倒。
まあ当然だ。
無能に加えて現実が見えていない虚言癖まで追加されたら、攻撃できる所が多すぎる。
サンドバッグみてえなもんだよ、今の俺は。
「私の優秀な生徒達の言う通りだ。お前もあの馬鹿も頭がおかしい。無能を通り越して害悪なゴミだよ」
「そうですか」
好きに言ってろ。お前が言葉を吐けば吐く程、覆った時の反動は大きくなる。
これから覆した後の反動は大きくなる。
「だったら俺が此処でアイリスの有能さを証明できれば、先生は無能を通り越した害悪なゴミ以下って事で良いんですよね」
「な……ッ!」
「あと先生はさっき証明すればアイリスを認めるって言ってましたよね……認めてもらいますよ。無能なあなたが理解できないだけで、本来ならアイリスの論文にはこの学園で先に進めるだけの価値があると。アイリスは退学になるべきではない、この学園で学ぶ資格がある人間であると」
「だ、誰に向かって口を聞いてるんだ! 言葉を慎め! 私の前から消えろ無能がァッ!」
そしてキレ散らかしたハゲがゴーレムを動かし始めた事で、追試が始まった。
「……」
ああ、そうだ俺は無能だ。
それは寸分違わず、間違いのない事実。
俺はただ力を借りてるだけだから、俺は何も凄くなんてない。
でもお前も高笑いしている馬鹿共も。
全員全員無能なんだよ。
アイリスの前では、此処に居る全員が無能なんだ。
それを証明する。
さあ始めるぞ。
アイリスの頭の中にあった世界を、現実に引きずり出せ。
……術式展開。
廊下を抜け、競技場へと足を踏み入れる。
そうして正面に見えるのが、ハゲが追試用に構築した全長3メートル程のゴーレムだ。
強固な装甲は生半可な攻撃では傷一つ付かず、それこそある一定以上の実力が無ければ制限時間内に削り切れない。
普段の俺でも傷位なら付ける事ができるが、それでも破壊できるだけの実力は無かった。
故に今日此処に立っている。
そしてこれから戦うゴーレムと対面した後、自然とアイリスを探した。
大丈夫だろうかと、心配になったから。
だけどどうやら心配は無用だったみたいで。
何やら色々と言われているようだけど、それを涼しい顔してそれらを全て無視している。
もう言葉の暴力に殴られてもそう簡単にはダメージは負わない。それどころか。
「あ、頑張れユーリ君!」
そんな風に元気に俺の応援までしてくる始末だ。
とても酷い事を言われ続けた上に退学がほぼ決定的になっている奴の言動とは思えない。
だから周囲の連中の一部は困惑し始めている。
当然だ。
殴れば当たり前に返ってくる筈の反応が返ってこない。
そしてそこにあるべき筈の感情とは真逆の物がそこにある。
疲弊し憔悴している筈の奴が元気で余裕の様子を見せている。
何も知らなければ、気味悪がって困惑するのも無理はない。
そして殴っても反応しない奴を殴り続けるより、自分達の求める反応を見せる人間が現れたなら、矛先の大半はそちらに向く。
煽り。
罵り。
その大半が俺の方へと向いて来る。
どうでも良い。言わせておけばいい。
俺はアイリスの応援だけを聞いていれば良いんだ。
と、そこで少し離れた所にクラスメイト以外の人間が数人いる事に気付いた。
一人は二十代半ば程のスーツを着た見慣れない男。
教員……いや、でもあんな人は知らないな。見た事が無い。
でも学園内に居るという事は関係者だろうか。
まあそんな知らない誰かよりも、注目すべきは知っている誰かだ。
男とは離れた所に、連中に不快な表情を向ける兄貴が取り巻き数人と共にそこに居た。
何不快な表情とか浮かべてんだよ。
お前もやってる事、そいつらと変わらねえからな。
同族嫌悪か?
……まあ良い。兄貴の事なんてどうでも良い。とにかく今は目の前の事に集中しよう。
そして俺はゴーレムと……ハゲと向かい合う。
「なんだ? 自身有り気な表情だな。何か策でも用意したのか?」
ある訳が無いだろうと、そう言いたいように嫌な笑みを浮かべながらハゲは言う。
そんなハゲに、俺は馬鹿正直に答える事にした。
「用意しました!」
態々注目を一身に集めるように大きな声で。
突然の事で場が静まり返り、ハゲも思わず言葉を失っている。
全ての注目が今俺に集まり、次の一声を待っている。
そして俺は手の内を晒した。
「先生が虚言だの妄言だの落書きだのと馬鹿にしたアイリスの術式が、今劣化した状態で俺の頭の中にあります!」
そう宣言して訪れるのは再びの静寂。
やがてそれを破ったのはハゲの笑い声だった。
「何を言い出すのかと思えば、お前まで頭がおかしくなったのか。アイリス・エルマータが提出した論文の全ては虚言で構築されている。分かるか? そんな事はあり得ないんだ」
そしてハゲの言葉を皮切りに、あの連中からも煽り散らす言葉が降り注ぐ。
主に、俺の言葉を虚言と断定して。
それに元々からの無能さを絡めた煽り、笑い、罵倒。
まあ当然だ。
無能に加えて現実が見えていない虚言癖まで追加されたら、攻撃できる所が多すぎる。
サンドバッグみてえなもんだよ、今の俺は。
「私の優秀な生徒達の言う通りだ。お前もあの馬鹿も頭がおかしい。無能を通り越して害悪なゴミだよ」
「そうですか」
好きに言ってろ。お前が言葉を吐けば吐く程、覆った時の反動は大きくなる。
これから覆した後の反動は大きくなる。
「だったら俺が此処でアイリスの有能さを証明できれば、先生は無能を通り越した害悪なゴミ以下って事で良いんですよね」
「な……ッ!」
「あと先生はさっき証明すればアイリスを認めるって言ってましたよね……認めてもらいますよ。無能なあなたが理解できないだけで、本来ならアイリスの論文にはこの学園で先に進めるだけの価値があると。アイリスは退学になるべきではない、この学園で学ぶ資格がある人間であると」
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「……」
ああ、そうだ俺は無能だ。
それは寸分違わず、間違いのない事実。
俺はただ力を借りてるだけだから、俺は何も凄くなんてない。
でもお前も高笑いしている馬鹿共も。
全員全員無能なんだよ。
アイリスの前では、此処に居る全員が無能なんだ。
それを証明する。
さあ始めるぞ。
アイリスの頭の中にあった世界を、現実に引きずり出せ。
……術式展開。
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