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ハシザワイサオ
ハシザワイサオ その4
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少しだけ、ケイタの部屋を覗き見たことがある。ケイタが高校一年生のくらいのときだ。息子の趣味を覗くなど悪趣味極まりないが、あれはたぶんの気の迷いの一種だった。あの頃はまだケイタとの関係をもっと良好にできると信じていた節もあった。
ケイタの部屋は、男の部屋にしてはやけに小奇麗に整頓されていた。家具も少なく、昔から使っている勉強机、一人用の古いベッド、大きめの本棚一つで、他にこれといったものはなかった。本棚を覗くと、辞書やら歴史や数学の参考書やらが並んでいた。小説や漫画などの娯楽本の類はあまりなかった。ふと、その真面目そうな本の列の奥に、まだ何かが並んでいることに気づいた。本来なら、そんなところまで見ずにさっさと引き返すべきだったのだが、初めて息子の部屋に忍び込んだ高揚感もあってか、本の一部を退けて、それを見た。
それは成人向けの漫画やゲームのパッケージのようだった。「魔法少女」やら「変身ヒロイン」やらという単語が散見された。何冊か取り出してみると、表紙にはゴスロリみたいなひらひらの服を着た少女や、レオタードのような身体に密着した衣装を着た少女などが描かれていた。中には精液らしきものをかけられていたり、白目を剥いていたりした。
「なにやってんの?」
背後から唐突に声をかけられ、持っていた数冊を思わず取り落とした。ばらばらと音を立てて床に散らばった。
振り返ると、開けたドアの前に、バイトから帰ってきたらしいケイタが立っていた。
俺はとっさに言い訳しようか即座に謝ろうかと迷い、本棚を覗く中腰の姿勢のまま何も言えなくなってしまった。正直なところ、怒鳴られることを覚悟して身を固くしたが、次に出てきたケイタの声は、至って平穏だった。
「あー、見たの?」
俺は無表情のケイタと床に落ちた何冊かに交互に視線を走らせて、頷いた。
ケイタは激高する様子も恥ずかしがる様子もなく、自嘲するように口元を歪めた。
「くっだらねえ趣味だよな。呆れた?」
それには俺はとっさに首を横に振った。
「いや、男の性的嗜好なんてこんなもんなんじゃないか?」
特に根拠もなかったけれど、そう言った。ケイタの口元の歪みは取れなかった。
「まあ、そんなもんだよな」
そう言ったきり、ケイタはその場に突っ立ったまま、俯いていた。俺は居心地が悪くなり、「勝手に入ってごめん」と謝ってから、ケイタと擦れ違うように部屋を出た。するとケイタは俺と代わるようにするりと部屋に入り、ドアを閉めた。
俺はしばらく居間にも自分の部屋にも行く気になれなくて、廊下をうろちょろしながらケイタの部屋のドアを見ていた。あの歪んだ笑いを脳裏に思い描いていた。
結局、十分も経たないうちに自室に戻った。夕飯時に顔を合わせたときのケイタは、普段の通りで、変わったところはなかった。いつものように言葉は少なく、無表情だった。
俺はただただ、まともに目も合わせられずに、唾を飲み込むばかりだった。
ケイタの部屋は、男の部屋にしてはやけに小奇麗に整頓されていた。家具も少なく、昔から使っている勉強机、一人用の古いベッド、大きめの本棚一つで、他にこれといったものはなかった。本棚を覗くと、辞書やら歴史や数学の参考書やらが並んでいた。小説や漫画などの娯楽本の類はあまりなかった。ふと、その真面目そうな本の列の奥に、まだ何かが並んでいることに気づいた。本来なら、そんなところまで見ずにさっさと引き返すべきだったのだが、初めて息子の部屋に忍び込んだ高揚感もあってか、本の一部を退けて、それを見た。
それは成人向けの漫画やゲームのパッケージのようだった。「魔法少女」やら「変身ヒロイン」やらという単語が散見された。何冊か取り出してみると、表紙にはゴスロリみたいなひらひらの服を着た少女や、レオタードのような身体に密着した衣装を着た少女などが描かれていた。中には精液らしきものをかけられていたり、白目を剥いていたりした。
「なにやってんの?」
背後から唐突に声をかけられ、持っていた数冊を思わず取り落とした。ばらばらと音を立てて床に散らばった。
振り返ると、開けたドアの前に、バイトから帰ってきたらしいケイタが立っていた。
俺はとっさに言い訳しようか即座に謝ろうかと迷い、本棚を覗く中腰の姿勢のまま何も言えなくなってしまった。正直なところ、怒鳴られることを覚悟して身を固くしたが、次に出てきたケイタの声は、至って平穏だった。
「あー、見たの?」
俺は無表情のケイタと床に落ちた何冊かに交互に視線を走らせて、頷いた。
ケイタは激高する様子も恥ずかしがる様子もなく、自嘲するように口元を歪めた。
「くっだらねえ趣味だよな。呆れた?」
それには俺はとっさに首を横に振った。
「いや、男の性的嗜好なんてこんなもんなんじゃないか?」
特に根拠もなかったけれど、そう言った。ケイタの口元の歪みは取れなかった。
「まあ、そんなもんだよな」
そう言ったきり、ケイタはその場に突っ立ったまま、俯いていた。俺は居心地が悪くなり、「勝手に入ってごめん」と謝ってから、ケイタと擦れ違うように部屋を出た。するとケイタは俺と代わるようにするりと部屋に入り、ドアを閉めた。
俺はしばらく居間にも自分の部屋にも行く気になれなくて、廊下をうろちょろしながらケイタの部屋のドアを見ていた。あの歪んだ笑いを脳裏に思い描いていた。
結局、十分も経たないうちに自室に戻った。夕飯時に顔を合わせたときのケイタは、普段の通りで、変わったところはなかった。いつものように言葉は少なく、無表情だった。
俺はただただ、まともに目も合わせられずに、唾を飲み込むばかりだった。
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