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山間の集落、異世界より男来る事
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今は昔、とある山間に、住人が百人も満たないような小さな集落がありました。
集落の住民たちは、貧しいながらも、平和に慎ましく、豊かに暮らしていました。
ある日、そんな集落にある一人の男がやって来ました。外見は十代後半か二十代前半ほどで、それなりに容姿の良い若い男でした。その男は突然集落に踏み込んできたかと思うと、「自分は異世界から来た人間だ」などと主張しました。
集落の住民たちが注意深く観察してみると、確かに男は珍妙な格好をしていました。男は自分のその珍妙な格好を、「ガッコウのセイフクだ」と述べました。住民たちにはガッコウもセイフクも何のことなのかさっぱりわかりませんでしたが、とりあえずその男が只者ではないことだけはわかりました。
男は「自分はこの世界を救う存在だから、ぜひもてなせ」などと言いました。ある人は男のことを新手の宗教家だと言い、ある人は単なる阿呆だろうと言いました。そんな風に住民たちの間で議論が交わされた結果、ひとまず男を歓迎することにしました。
特に危険なものは持っていないようでしたし、追い返そうにも男はとても頑固そうで、争いごとはなるべく避けたい、と住民の誰もが思ったからです。
男はその日からその集落に住み着きました。毎日のように三食以上の飯を食らい、「まずいまずい」などとのたまい、集落の若い女に片っ端から声をかけました。声をかけられた若い女は、必ずといっていいほど「いやらしい目つきで見られて不快だった」と述べました。
それでも集落のために働いてくれればまだ良いのですが、男は一日中藁の上で寝転がっているばかりで、一向に働こうとする意志は見受けられませんでした。それを住民がそれとなく切り出してみると、「前の世界ではニートだったから」と男は答えました。住人はニートというものが何なのかわからず、やはり男の素性は不明なままでした。
男はときたま、住民たちによくわからないことを訊ねました。曰く、「この世界にマホウはないのか」だとか、「エルフはいないのか」だとか、「マオウはどこにいるんだ」だとか、「まずはスライム狩りから始めたい」だとか。住民たちにはマホウもエルフもマオウもスライムもすべて知らない単語であり、答えようがありませんでした。質問を否定される、または曖昧な態度を取られるたび、男はだんだんと不機嫌になっていきました。
男は「おかしい、自分にはチート能力があるはずなのに」と度々呟きましたが、住民たちは誰もが男を恐れて、そのチートとやらについて詳しく訊ねようとはしませんでした。
男の態度は日に日に悪化の一途を辿り、あるとき事件が起きました。
男が集落の若い女、それもまだ十歳を過ぎたばかりの子どもを、無理やり犯してしまったのです。
これには温和な住民たちも、さすがに怒らざるを得ませんでした。
住民たちは男を取り囲んで縛り上げ、集落からしばらく離れた森の中へと放り出しました。男を殺さなかったのは、住民たちの情けでした。
しかし、それでは終わりませんでした。森の中に放置された男は住民たちの情けも知らずに怒り狂い、なんと手のひらから炎を放ち、縛っていた縄を焼き切ってしまったのです。そしてそのままの勢いで集落に舞い戻ると、集落をその手のひらから出る炎で燃やし始めました。
住民たちは家財も投げ捨てて、逃げ惑いました。子どもの鳴き声や老人の呻き声、女性の悲鳴や男性の雄叫びなどがそこら中で響きました。男は笑いながら「フクシュウだ、フクシュウだ」とやはり意味不明なことを連呼しながら炎をあちらこちらへ放ちました。
やっとのことで逃げ延びた住民たちも一か所に追い込まれ、いよいよ誰もが全滅を覚悟したときです。
晴れていた空が急に雲に覆われたかと思うと、その合間から轟くような稲妻が男目がけて落ちました。稲妻をまともに受けた男は、身体を数度びくつかせたのち、数秒の間で絶命しました。
その後、雲からは雨が降り始めました。その雨のおかげで、集落を燃え上がらせていた炎は次第に小さなくなり、最後には一欠けらの残り火も残らずに消え去りました。
一瞬の出来事に、住民たちが唖然としていると、雲が割れ、そこから差し込む日光に照らされて、一人の大きな御仁が天から降りてきました。
住民たちはすぐさまそのお方を神だと察し、その場に跪きました。
そんな住民たちを見て、神は哀れそうな表情を浮かべ、「そんなにかしこまらなくて良い。今回のことは私に責任がある」と心底から申し訳なさそうに言いました。
住民の一人が「それはなぜでしょうか」と訊ねると、神は「あの男をこの世界に送ってしまったのは私だからだ」と答えました。神曰く、あの男は本人が主張していた通り別の世界から来た存在であったらしいですが、なんでも本来送るはずだった世界から座標がズレてしまい、間違えてこの世界へと降り立ってしまったとのことでした。
神はなおも申し訳なさそうにしながら、「お前たちには本当にすまないことをした。代わりに何でも願いを叶えよう」と言いました。そこで住民たちは相談し、「この集落に永遠の安寧をください」とお願いしました。神は「わかった」と頷くと、天へと帰っていきました。
すると、なんと燃えて崩れ去ったはずの家々が自然に元へと戻っていき、死んだはずの住民も次々と生き返っていきました。住民たちはお互いに抱き合い、神が起こしたこの奇跡を喜びました。
すべての家が元に戻り、人々が生き返った後には、丸焦げの男の死骸だけが残されました。住民たちは軽々しく男を迎え入れたことを反省し、それを後世に伝えていくという教訓も兼ねて、男の死骸を大きな墓の下に埋めました。今でもその墓は実在し、「愚かな異世界の男の墓」として有名であり、たびたび見物に来る旅人もいるといいます。
さて、神にお願いしてから集落は、どの家庭も子宝に恵まれ、めきめきと発展していきました。それはいつの間にか集落から村になり、そして街になって栄えました。住民たちも以前より裕福な生活ができるようになり、それはそれは幸せに暮らしました。
今でも残るその街には、ある一つの諺があります。「異世界の男は焼かれる前に焼き殺せ」。この諺は、今もこの一般社会に根付いています。この諺と、神への信仰心の大切さを伝え残すために、この話は現在まで語り継がれているというわけです。
集落の住民たちは、貧しいながらも、平和に慎ましく、豊かに暮らしていました。
ある日、そんな集落にある一人の男がやって来ました。外見は十代後半か二十代前半ほどで、それなりに容姿の良い若い男でした。その男は突然集落に踏み込んできたかと思うと、「自分は異世界から来た人間だ」などと主張しました。
集落の住民たちが注意深く観察してみると、確かに男は珍妙な格好をしていました。男は自分のその珍妙な格好を、「ガッコウのセイフクだ」と述べました。住民たちにはガッコウもセイフクも何のことなのかさっぱりわかりませんでしたが、とりあえずその男が只者ではないことだけはわかりました。
男は「自分はこの世界を救う存在だから、ぜひもてなせ」などと言いました。ある人は男のことを新手の宗教家だと言い、ある人は単なる阿呆だろうと言いました。そんな風に住民たちの間で議論が交わされた結果、ひとまず男を歓迎することにしました。
特に危険なものは持っていないようでしたし、追い返そうにも男はとても頑固そうで、争いごとはなるべく避けたい、と住民の誰もが思ったからです。
男はその日からその集落に住み着きました。毎日のように三食以上の飯を食らい、「まずいまずい」などとのたまい、集落の若い女に片っ端から声をかけました。声をかけられた若い女は、必ずといっていいほど「いやらしい目つきで見られて不快だった」と述べました。
それでも集落のために働いてくれればまだ良いのですが、男は一日中藁の上で寝転がっているばかりで、一向に働こうとする意志は見受けられませんでした。それを住民がそれとなく切り出してみると、「前の世界ではニートだったから」と男は答えました。住人はニートというものが何なのかわからず、やはり男の素性は不明なままでした。
男はときたま、住民たちによくわからないことを訊ねました。曰く、「この世界にマホウはないのか」だとか、「エルフはいないのか」だとか、「マオウはどこにいるんだ」だとか、「まずはスライム狩りから始めたい」だとか。住民たちにはマホウもエルフもマオウもスライムもすべて知らない単語であり、答えようがありませんでした。質問を否定される、または曖昧な態度を取られるたび、男はだんだんと不機嫌になっていきました。
男は「おかしい、自分にはチート能力があるはずなのに」と度々呟きましたが、住民たちは誰もが男を恐れて、そのチートとやらについて詳しく訊ねようとはしませんでした。
男の態度は日に日に悪化の一途を辿り、あるとき事件が起きました。
男が集落の若い女、それもまだ十歳を過ぎたばかりの子どもを、無理やり犯してしまったのです。
これには温和な住民たちも、さすがに怒らざるを得ませんでした。
住民たちは男を取り囲んで縛り上げ、集落からしばらく離れた森の中へと放り出しました。男を殺さなかったのは、住民たちの情けでした。
しかし、それでは終わりませんでした。森の中に放置された男は住民たちの情けも知らずに怒り狂い、なんと手のひらから炎を放ち、縛っていた縄を焼き切ってしまったのです。そしてそのままの勢いで集落に舞い戻ると、集落をその手のひらから出る炎で燃やし始めました。
住民たちは家財も投げ捨てて、逃げ惑いました。子どもの鳴き声や老人の呻き声、女性の悲鳴や男性の雄叫びなどがそこら中で響きました。男は笑いながら「フクシュウだ、フクシュウだ」とやはり意味不明なことを連呼しながら炎をあちらこちらへ放ちました。
やっとのことで逃げ延びた住民たちも一か所に追い込まれ、いよいよ誰もが全滅を覚悟したときです。
晴れていた空が急に雲に覆われたかと思うと、その合間から轟くような稲妻が男目がけて落ちました。稲妻をまともに受けた男は、身体を数度びくつかせたのち、数秒の間で絶命しました。
その後、雲からは雨が降り始めました。その雨のおかげで、集落を燃え上がらせていた炎は次第に小さなくなり、最後には一欠けらの残り火も残らずに消え去りました。
一瞬の出来事に、住民たちが唖然としていると、雲が割れ、そこから差し込む日光に照らされて、一人の大きな御仁が天から降りてきました。
住民たちはすぐさまそのお方を神だと察し、その場に跪きました。
そんな住民たちを見て、神は哀れそうな表情を浮かべ、「そんなにかしこまらなくて良い。今回のことは私に責任がある」と心底から申し訳なさそうに言いました。
住民の一人が「それはなぜでしょうか」と訊ねると、神は「あの男をこの世界に送ってしまったのは私だからだ」と答えました。神曰く、あの男は本人が主張していた通り別の世界から来た存在であったらしいですが、なんでも本来送るはずだった世界から座標がズレてしまい、間違えてこの世界へと降り立ってしまったとのことでした。
神はなおも申し訳なさそうにしながら、「お前たちには本当にすまないことをした。代わりに何でも願いを叶えよう」と言いました。そこで住民たちは相談し、「この集落に永遠の安寧をください」とお願いしました。神は「わかった」と頷くと、天へと帰っていきました。
すると、なんと燃えて崩れ去ったはずの家々が自然に元へと戻っていき、死んだはずの住民も次々と生き返っていきました。住民たちはお互いに抱き合い、神が起こしたこの奇跡を喜びました。
すべての家が元に戻り、人々が生き返った後には、丸焦げの男の死骸だけが残されました。住民たちは軽々しく男を迎え入れたことを反省し、それを後世に伝えていくという教訓も兼ねて、男の死骸を大きな墓の下に埋めました。今でもその墓は実在し、「愚かな異世界の男の墓」として有名であり、たびたび見物に来る旅人もいるといいます。
さて、神にお願いしてから集落は、どの家庭も子宝に恵まれ、めきめきと発展していきました。それはいつの間にか集落から村になり、そして街になって栄えました。住民たちも以前より裕福な生活ができるようになり、それはそれは幸せに暮らしました。
今でも残るその街には、ある一つの諺があります。「異世界の男は焼かれる前に焼き殺せ」。この諺は、今もこの一般社会に根付いています。この諺と、神への信仰心の大切さを伝え残すために、この話は現在まで語り継がれているというわけです。
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