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Hybrid -化物-
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ひとり足止めの為に残り、三人を先へ行かせた柊弥だったが、その柊弥は自生する大木の幹に背中を強く打ち付け口から血を吐き出す。
「か、っは……」
脇腹は抉られており、既に片方の目は見えてもいない。
食い止めると大見得を切って見送ったからには、何としてでも千影を追わせてはいけない。その思いを以て殿を引き受けた柊弥だったが、力の差は歴然だった。
深雪が蹴散らした屋敷内の雑兵とは違う。話が違うとも途中で言いたくなった。
目の前にいるこの人物こそが千影を監禁していた張本人であり、ラスボスとも言える存在。
「身を挺して仲間を先に行かせる姿勢だけは評価に値するが、君ひとりで本当に勝てるとでも思っていたのかな」
掴まれた腕がみしりと痛む。千影から話だけは聞いたことがあったが、こうして対峙することで明らかに分かる今まで出会ったこともない、ただの化け物。
「不死身の春近と違い、ただ怪力だけが取り柄の君が」
「ぐっあぁぁあ!」
抉られた柊弥の片腕がだらりとぶら下がる。
こんな人気のない森の片隅でひっそりと生を終わらせることになると柊弥は思ってもいなかった。
「はっ、……俺、知ってるよ……」
それはいつだったか千影が柊弥に明かした秘密。恋人である綜真にだけは明かせない千影の唯一の秘密だった。
「アンタ、父親の癖に千影のこと」
「姦しい口を――」
顔を掴まれ、その長い爪先が残ったもう片方の瞳へ向けられる。
走馬灯のように脳裏に思い浮かぶのは少し年の離れた可愛い弟妹たち――そして四分の一だけ同じ血が通う千影、大学で親しくなった綜真、種族間の確執により初めから敵意を向けてきた深雪。
次の瞬間、目の前の体は不意に衝突してきた何者かによって吹き飛ばされた。
柊弥は唖然としながらも薄れゆく意識の中、目の前に背中を向けるその人物へと視線を向ける。
「殺、させませんよ……お養父さん」
千影と綜真を見送った後すぐに駆け戻った深雪は命が尽きる直前の柊弥を庇い、十六夜の前に立ちはだかる。
深雪はその身から放つ殺気を隠そうともせず養父である十六夜へと向けていた。
十六夜の様子に注意を払ったまま、深雪はちらりと柊弥へ視線を向ける。
「全く……情けない蝙蝠ですね」
「……今、この状況見て……言える台詞がそれ……?」
深雪は最初から千影のことしか最優先に考えない人間だった。
自分たちより一学年上だということを理由にして、やたら年上ぶりたがるところはあったが、内面的には千影よりも幼い部分があり、弟妹を抱える柊弥から見れば常時反抗期の弟のようなものだった。
「……お養父さん、見逃しては頂けませんか」
「出来ない相談だね」
深雪は幼いころ十六夜に引き取られて千影とは兄弟同然の関係で育った。そのせいか千影に対しては過保護な部分がある。
深雪にとっては千影と千影が大切にしている綜真が無事に逃げられれば良いので、柊弥は自分のことなどこのまま捨て置かれても仕方がない存在だと思っていた。
「そう、ですか――なら」
風もないのに草葉が揺れる。柊弥の良く見知った深雪の背中が徐々に変形していくのが分かる。
「所詮交雑種である貴方が、純血種の私に勝てるなどと思わないで頂きたいですね」
柊弥も初めて見た、深雪の狼の姿。その毛の一本一本が月明かりに照らされて美しく輝く。
「美しい――これが人狼の本来の姿か」
十六夜は恍惚とした表情でその姿を眺めていた。
「か、っは……」
脇腹は抉られており、既に片方の目は見えてもいない。
食い止めると大見得を切って見送ったからには、何としてでも千影を追わせてはいけない。その思いを以て殿を引き受けた柊弥だったが、力の差は歴然だった。
深雪が蹴散らした屋敷内の雑兵とは違う。話が違うとも途中で言いたくなった。
目の前にいるこの人物こそが千影を監禁していた張本人であり、ラスボスとも言える存在。
「身を挺して仲間を先に行かせる姿勢だけは評価に値するが、君ひとりで本当に勝てるとでも思っていたのかな」
掴まれた腕がみしりと痛む。千影から話だけは聞いたことがあったが、こうして対峙することで明らかに分かる今まで出会ったこともない、ただの化け物。
「不死身の春近と違い、ただ怪力だけが取り柄の君が」
「ぐっあぁぁあ!」
抉られた柊弥の片腕がだらりとぶら下がる。
こんな人気のない森の片隅でひっそりと生を終わらせることになると柊弥は思ってもいなかった。
「はっ、……俺、知ってるよ……」
それはいつだったか千影が柊弥に明かした秘密。恋人である綜真にだけは明かせない千影の唯一の秘密だった。
「アンタ、父親の癖に千影のこと」
「姦しい口を――」
顔を掴まれ、その長い爪先が残ったもう片方の瞳へ向けられる。
走馬灯のように脳裏に思い浮かぶのは少し年の離れた可愛い弟妹たち――そして四分の一だけ同じ血が通う千影、大学で親しくなった綜真、種族間の確執により初めから敵意を向けてきた深雪。
次の瞬間、目の前の体は不意に衝突してきた何者かによって吹き飛ばされた。
柊弥は唖然としながらも薄れゆく意識の中、目の前に背中を向けるその人物へと視線を向ける。
「殺、させませんよ……お養父さん」
千影と綜真を見送った後すぐに駆け戻った深雪は命が尽きる直前の柊弥を庇い、十六夜の前に立ちはだかる。
深雪はその身から放つ殺気を隠そうともせず養父である十六夜へと向けていた。
十六夜の様子に注意を払ったまま、深雪はちらりと柊弥へ視線を向ける。
「全く……情けない蝙蝠ですね」
「……今、この状況見て……言える台詞がそれ……?」
深雪は最初から千影のことしか最優先に考えない人間だった。
自分たちより一学年上だということを理由にして、やたら年上ぶりたがるところはあったが、内面的には千影よりも幼い部分があり、弟妹を抱える柊弥から見れば常時反抗期の弟のようなものだった。
「……お養父さん、見逃しては頂けませんか」
「出来ない相談だね」
深雪は幼いころ十六夜に引き取られて千影とは兄弟同然の関係で育った。そのせいか千影に対しては過保護な部分がある。
深雪にとっては千影と千影が大切にしている綜真が無事に逃げられれば良いので、柊弥は自分のことなどこのまま捨て置かれても仕方がない存在だと思っていた。
「そう、ですか――なら」
風もないのに草葉が揺れる。柊弥の良く見知った深雪の背中が徐々に変形していくのが分かる。
「所詮交雑種である貴方が、純血種の私に勝てるなどと思わないで頂きたいですね」
柊弥も初めて見た、深雪の狼の姿。その毛の一本一本が月明かりに照らされて美しく輝く。
「美しい――これが人狼の本来の姿か」
十六夜は恍惚とした表情でその姿を眺めていた。
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