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第三話
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あの海以来だ蜜に会うのは。極道に少し気圧されている様子の蜜の肩を抱いて店の外へと連れ出す。
特に隠し立てするような間柄でも無いので大通りを出てすぐの所にあるファストフードを選んだ。蜜は食欲が無いと言ってリンゴジュースのみを頼んだが、俺自身もそれほど腹が減っていた訳でもないので、蜜と同じく飲み物だけにしようと思いコーラを選ぶ。
数年振りの再会ではあったが、蜜はあの頃と少しも変わらず、色白い肌も色素の薄い髪の長さもそのままだった。
ただ、一つだけ気になるとしたらこめかみに残る青い痣。肌の色が白いからそれは余計に良く目立ち、俺の視線がその辺りに向いていると気付くと蜜はさり気なく俯きながら髪で額の辺りを隠した。
「それにしても久し振りだねぇ亮ちゃん。あの海以来だから二年くらい?」
態とらしく声を張る蜜が逆に痛々しく見えた。もしかしたら蜜にこんな気を遣わせるほど酷い目で蜜のことを見ていたのかもしれない。
手を伸ばして触れてみたいと思った。蜜のその白い手に。強く握り締めたらどんな反応をするのだろうと考えながらストローの先端を前歯で噛む。
「もうそんなになったか。俺は相変わらずこんなだけど、お前は何やってんだ?」
「俺、は……」
蜜が少しだけ言葉に詰まった。勿論、蜜が今どんな仕事をしているかなどあの場所で会ったのだから分かる。知りたいのはその事ではなく蜜がそうなった過程だ。
蜜の細い指先がストローを摘まんで紙コップの中を掻き回す。言葉に悩んでいるのは明白で、表情は曇っていた。その手を掴んだら――俺を見てくれるだろうかと指先が動くのと同時に蜜の唇が薄く開いた。
「今――関と一緒に暮らしてる」
絶望を与えるには十分すぎる言葉。それが悩んだ末の蜜の結論なのだろうと、伸ばしかけた手に硬く拳を握って膝の上に置いた。
「そうなんだ? 関は今何してんの?」
分かっていたはずのことなのに、妙に苛ついてしまう。無性に煙草が吸いたい。しかし此処は運悪く喫煙席。口元だけで笑顔を作ってもその端がピクピクと安定しない。何故今自分はこんなに苛ついてしまうのだろうか。蜜と出会うまでは確かに自分はストレートだった。今だって闇雲に男に欲情する訳ではない。蜜だけなのだ。
「あっ関は今ホストクラブで働いてるよ」
「は? ホスト? 関が?」
話の流れを変えようと思ったのか、蜜の切り出しは意外なものだった。
「うん! 大学には行かなかったんだけどね。頭良いのに勿体ない。もう毎日キラキラしてんの!」
俺が知っている幼なじみの関は暗くてチビで陰気なガリだ。しかし関のことを話す蜜は自分のことのようにキラキラとした表情で嬉しく話す。大部分の人間は恋人が内向的な引きこもりよりは明るく輝いているものを好むはずだ。それに比べて俺はどうだ。関を守るために鍛えた喧嘩の腕。それがこうじて今はこうして暴力団という世界にいる。例えネオンの中でも光り輝いている関とは雲泥の差だ。きっと蜜が望むのもそんなヒーローのような男なのだろう。
「だから今度亮ちゃんも関に会ってあげて。近くのMISSING ROSENっていう店にいるはずだから」
「ああ……MISSING ROSENだったらウチが担当してる店だな」
正直関のことはどうでも良かった。関が働いているというMISSING ROSENはこの数年で急成長を遂げたホストクラブだ。客がほぼ女ばかりという事で用心棒といえど俺らの出番は殆ど無い。
特に隠し立てするような間柄でも無いので大通りを出てすぐの所にあるファストフードを選んだ。蜜は食欲が無いと言ってリンゴジュースのみを頼んだが、俺自身もそれほど腹が減っていた訳でもないので、蜜と同じく飲み物だけにしようと思いコーラを選ぶ。
数年振りの再会ではあったが、蜜はあの頃と少しも変わらず、色白い肌も色素の薄い髪の長さもそのままだった。
ただ、一つだけ気になるとしたらこめかみに残る青い痣。肌の色が白いからそれは余計に良く目立ち、俺の視線がその辺りに向いていると気付くと蜜はさり気なく俯きながら髪で額の辺りを隠した。
「それにしても久し振りだねぇ亮ちゃん。あの海以来だから二年くらい?」
態とらしく声を張る蜜が逆に痛々しく見えた。もしかしたら蜜にこんな気を遣わせるほど酷い目で蜜のことを見ていたのかもしれない。
手を伸ばして触れてみたいと思った。蜜のその白い手に。強く握り締めたらどんな反応をするのだろうと考えながらストローの先端を前歯で噛む。
「もうそんなになったか。俺は相変わらずこんなだけど、お前は何やってんだ?」
「俺、は……」
蜜が少しだけ言葉に詰まった。勿論、蜜が今どんな仕事をしているかなどあの場所で会ったのだから分かる。知りたいのはその事ではなく蜜がそうなった過程だ。
蜜の細い指先がストローを摘まんで紙コップの中を掻き回す。言葉に悩んでいるのは明白で、表情は曇っていた。その手を掴んだら――俺を見てくれるだろうかと指先が動くのと同時に蜜の唇が薄く開いた。
「今――関と一緒に暮らしてる」
絶望を与えるには十分すぎる言葉。それが悩んだ末の蜜の結論なのだろうと、伸ばしかけた手に硬く拳を握って膝の上に置いた。
「そうなんだ? 関は今何してんの?」
分かっていたはずのことなのに、妙に苛ついてしまう。無性に煙草が吸いたい。しかし此処は運悪く喫煙席。口元だけで笑顔を作ってもその端がピクピクと安定しない。何故今自分はこんなに苛ついてしまうのだろうか。蜜と出会うまでは確かに自分はストレートだった。今だって闇雲に男に欲情する訳ではない。蜜だけなのだ。
「あっ関は今ホストクラブで働いてるよ」
「は? ホスト? 関が?」
話の流れを変えようと思ったのか、蜜の切り出しは意外なものだった。
「うん! 大学には行かなかったんだけどね。頭良いのに勿体ない。もう毎日キラキラしてんの!」
俺が知っている幼なじみの関は暗くてチビで陰気なガリだ。しかし関のことを話す蜜は自分のことのようにキラキラとした表情で嬉しく話す。大部分の人間は恋人が内向的な引きこもりよりは明るく輝いているものを好むはずだ。それに比べて俺はどうだ。関を守るために鍛えた喧嘩の腕。それがこうじて今はこうして暴力団という世界にいる。例えネオンの中でも光り輝いている関とは雲泥の差だ。きっと蜜が望むのもそんなヒーローのような男なのだろう。
「だから今度亮ちゃんも関に会ってあげて。近くのMISSING ROSENっていう店にいるはずだから」
「ああ……MISSING ROSENだったらウチが担当してる店だな」
正直関のことはどうでも良かった。関が働いているというMISSING ROSENはこの数年で急成長を遂げたホストクラブだ。客がほぼ女ばかりという事で用心棒といえど俺らの出番は殆ど無い。
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