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ⅩⅥ
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「ヤっていなかったのか。なら総次が逃げるのも当たり前だな」
「分かってたけどさー、俺としても真剣に愛の告白をしてた訳だし」
「素面なら魔法使えるだろうが。 考えろ馬鹿」
「馬鹿って言ったらお前がバーカ!」
渦中の人物である総次の逃走をみすみす許してしまったとして口論を始める透と進。つい先程まではおろおろしているだけしか出来なかった正義だったが、進の言葉に思い出し、二人に近寄る。
「あの……総次さんが魔法使えなくなる時って……」
「あれ? 言って無かったっけ。 ヤってる時……本人が性的な快感を得てる時は一時的に使えなくなるらしいよ」
これは、総次本人が何度も試してみた上で分かった事らしい。だからこそ祐一郎はそれを知った上で殺害の前に魔法を使われないようあのような行為に走ったのか。
「まあ兎に角……修哉が動かないとも思えないし、どっかで退院の情報を仕入れていたとしたら……」
「総次の家に行く。 正義着いて来い」
「はい!」
進は車の鍵を持ち、正義に声を掛け外出の準備を始めた。
夢現に貴斗の声を聞いたような気がした。
あの頃はただもがいて、好きになればなるほど終わりが近付く事に怯えていた。
試すような事も何度も言った。その度に何度も貴斗は根気よく自分と向き合ってくれて、まさかその繰り返していた行為が貴斗の精神を削っていっていたなんてその時は考えもしなかった。
思えば当時の貴斗も自分と同様まだ若かった。沢山の無理をさせていた。幾ら後悔しても本人はもうこの世には居ない。生涯でただ一度きり、自分を見て、自分のことを考えてくれた相手を、自分のせいで失ってしまったのだ。
不意に、口の中に温かく甘い液体のようなものが広がる。瞬間的に自宅に戻ってきた総次はベッドに横になると、それ以上の事を考えるのも億劫だった。
この数日色々な事があり過ぎた。急に過去を思い出した反動か、意識の外に追いやっていた過去の記憶がつい昨日の事のように頭の中を巡る。
聞かなくても、試さなくても分かっていた。どれだけ貴斗に愛されていたか。
「貴斗……」
貴斗に触れられた時のように身体が反応を示している。無意識にそこにいるはずの貴斗の対応を求めようと手を伸ばそうといた――しかし、手は伸ばせなかった。何かがおかしい、総次がそう思い始めたその時だった。
「目が覚めた? 総次」
透とも進とも違うその声の主に総次は目を開けた。そこはやはり自分の部屋だった。ただ一つ眠りに落ちる前と違っているのは身体の自由が利かないこと。そして自分の部屋に居るはずの無い客人の声。透と進、二人の内のどちらでも無いが、過去に聞いた事があるような声。
ロボットのようにぎこちない動きで声の主を振り返る。総次の背後に居たその人物の姿を目にした時、総次は目を大きく見開き、一瞬息をする事すら忘れていた。
「修哉、さんっ……」
「久し振り、覚えててくれたんだ」
総次の中で警報が激しく鳴り響いていた。ドアから家に入った訳ではないが、戸締まりはいつでも完璧にしている。最後に家を出たのは祐一郎が現れたあの日の朝だったが、施錠の確認は怠っていない。自分以外の誰かが訪問をしてくる事など有り得ないのだ。無論、「正式な手順を経て」を前提としているので、それ以外の侵入経路が全く無いとも言えなかった。
今問題にすべきは「どのように」の手段では無く、「何の為に」となる目的のほうだった。幾ら手段を熟考したところで現に目の前に侵入者が居るのだから。しかし目的に関しても、それがこの人物である事から総次には容易に推測する事が出来た。
「……殺しに来ましたか」
「察しがいいね」
総次の言葉ににこりと笑みを浮かべる修哉の外見は、一目見ただけでは男であるとは思えない中性的な顔立ちで、あれから髪も伸びたらしく、薄い金髪を鎖骨まで携えたその姿は北欧系の外国人と間違える事も出来そうだった。
総次の目覚めを切っ掛けに行動を始めた修哉が手持ちのバッグから取り出したのは総次の予想に反し、ナイフでは無く大人向けの玩具だった。しかも随分とリアルな形に作られており、恐らく外国人の形を模したものだろう、直径も長さも日本人に馴染みのあるソレの大きさとは違っていた。
まさか、と総次は少し前の記憶を辿る。口の中に広がった甘い液体、それから感じ始めた身体の疼き。
「何、を……」
息が上がり始めるのを感じていた。
「何を今更聞いてるの?」
命どころか色々なものの危機に総次は辛うじて拘束をされていなかった両足で立ち上がろうと膝を立てた。
「ねえ総次? 腹上死って一番恥ずかしい死に方だと思わない?」
修哉の言葉に返答は不要と、総次は立ち上がり開け放したままの寝室の扉へと駆け出した。
が、直ぐに嗚咽と共に総次の身は後方の修哉の方へと引き寄せられた。眠っている内に媚薬だけではなく首輪を取り付けられていた事に気付いて居なかったのだ。
首輪の先の鎖は修哉が握っている。
「無理矢理引っ張られるか、自分からこっちに来るか決めて?」
「何で……」
総次はその首輪に見覚えがあった。視界の隅に見えるか見えないかの程度のものだったが、恐らくこの首輪には総次の名前が書かれている。かつて総次が使っていたものだからだ。
「まさか……健太、も……?」
健太は総次の三番目の恋人で貴斗の次に付き合っていた相手だ。侑李の話にでた「メンヘラ」で「死にたい」とメールを送り「DV」のあった相手となる。
「さあ、どうでしょ? それより早くしてよ」
修哉が軽く鎖を引くと、それに繋がった首輪ごと総次の上半身は修哉へと引き寄せられる。少し冷静になって考えてみれば健太がこの首輪を後生大事に持っている訳が無かった。健太はこの首輪を付けた総次ごと置いて行って、二度とあの部屋には戻らなかったのだから――
祐一郎に引き続き健太までもと良からぬ想像が頭を巡った総次だったが、直ぐにそれはないと結論付け、総次を待つ修哉に対し「思い通りの行動は取らない」とその場に立ち止まった。
「…そういう強情なところが貴斗の支配欲を煽ったのかなあ」
無表情に総次を見つめる修哉だったが、言葉の端には何処か苛つきを感じさせた。総次のパソコンチェアに腰を下ろしていた修哉はその場から立ち上がり、反対に手に持った鎖の端を床に向けて強く叩き付ける。両手の自由を奪われていた総次は胸元を庇おうと肩から床に落ちる。
「ご主人様には絶対服従、だろ?」
「ッ、誰が……ご主人様だって……?」
「ああごめん。 君のご主人様は貴斗一人だっけ?」
「黙れ!」
「黙んねーよ」
柔和な口調から一転、床に横たわる総次の身体を足で仰向けにさせ、その爪先を下肢へと忍ばせる。
「薬だけでもう半勃ち? 口では生意気な事言ってても身体は正直だねー」
着衣の上からも分かるその形を足の平で踏み付けながら擦ると、総次の腰が僅かに揺れ始める。
「あはっ、気持ち良くなってきちゃった? 自分から擦り付けてきちゃって」
「…っざけんな、…まえ、ぜ、ってー……殺すっ……」
「やだー、総次くんこわーい」
高い声を出して笑いながら修哉は屈み込み総次のズボンに手を掛ける。片手にしっかりと握ったままの玩具が視界に入ると途端に総次は足をばたつかせ抵抗しだす。
「絶対無理っ……! そんなの入んない、からっ……」
「総次なら大丈夫でしょ? ヤりまくりでガバガバだろうし」
抵抗する総次の両足の間に割り入り、修哉は耳元でそっと囁く。
「貴斗以外のモノも咥え込みまくりのビッチ……」
総次が嫌いな、修哉の低い囁き声だった。自分でも分かっていたつもりのソレを最も言われたくなかった相手から言われ、総次が一瞬抵抗を忘れた瞬間を逃さず、修哉は総次の着衣を下着ごと併せて取り払う。
「あーあ、えっろーい」
両足の間に身を割り込ませていた修哉は総次の姿を見下ろしながらその姿に目を細める。
魔法も使えず、逃げ切れぬ状態まで追い詰められた総次は見られる事は仕方無いと諦め、顔を背けた。その時にふと総次が最も隠して起きたかった記憶が甦った。
「分かってたけどさー、俺としても真剣に愛の告白をしてた訳だし」
「素面なら魔法使えるだろうが。 考えろ馬鹿」
「馬鹿って言ったらお前がバーカ!」
渦中の人物である総次の逃走をみすみす許してしまったとして口論を始める透と進。つい先程まではおろおろしているだけしか出来なかった正義だったが、進の言葉に思い出し、二人に近寄る。
「あの……総次さんが魔法使えなくなる時って……」
「あれ? 言って無かったっけ。 ヤってる時……本人が性的な快感を得てる時は一時的に使えなくなるらしいよ」
これは、総次本人が何度も試してみた上で分かった事らしい。だからこそ祐一郎はそれを知った上で殺害の前に魔法を使われないようあのような行為に走ったのか。
「まあ兎に角……修哉が動かないとも思えないし、どっかで退院の情報を仕入れていたとしたら……」
「総次の家に行く。 正義着いて来い」
「はい!」
進は車の鍵を持ち、正義に声を掛け外出の準備を始めた。
夢現に貴斗の声を聞いたような気がした。
あの頃はただもがいて、好きになればなるほど終わりが近付く事に怯えていた。
試すような事も何度も言った。その度に何度も貴斗は根気よく自分と向き合ってくれて、まさかその繰り返していた行為が貴斗の精神を削っていっていたなんてその時は考えもしなかった。
思えば当時の貴斗も自分と同様まだ若かった。沢山の無理をさせていた。幾ら後悔しても本人はもうこの世には居ない。生涯でただ一度きり、自分を見て、自分のことを考えてくれた相手を、自分のせいで失ってしまったのだ。
不意に、口の中に温かく甘い液体のようなものが広がる。瞬間的に自宅に戻ってきた総次はベッドに横になると、それ以上の事を考えるのも億劫だった。
この数日色々な事があり過ぎた。急に過去を思い出した反動か、意識の外に追いやっていた過去の記憶がつい昨日の事のように頭の中を巡る。
聞かなくても、試さなくても分かっていた。どれだけ貴斗に愛されていたか。
「貴斗……」
貴斗に触れられた時のように身体が反応を示している。無意識にそこにいるはずの貴斗の対応を求めようと手を伸ばそうといた――しかし、手は伸ばせなかった。何かがおかしい、総次がそう思い始めたその時だった。
「目が覚めた? 総次」
透とも進とも違うその声の主に総次は目を開けた。そこはやはり自分の部屋だった。ただ一つ眠りに落ちる前と違っているのは身体の自由が利かないこと。そして自分の部屋に居るはずの無い客人の声。透と進、二人の内のどちらでも無いが、過去に聞いた事があるような声。
ロボットのようにぎこちない動きで声の主を振り返る。総次の背後に居たその人物の姿を目にした時、総次は目を大きく見開き、一瞬息をする事すら忘れていた。
「修哉、さんっ……」
「久し振り、覚えててくれたんだ」
総次の中で警報が激しく鳴り響いていた。ドアから家に入った訳ではないが、戸締まりはいつでも完璧にしている。最後に家を出たのは祐一郎が現れたあの日の朝だったが、施錠の確認は怠っていない。自分以外の誰かが訪問をしてくる事など有り得ないのだ。無論、「正式な手順を経て」を前提としているので、それ以外の侵入経路が全く無いとも言えなかった。
今問題にすべきは「どのように」の手段では無く、「何の為に」となる目的のほうだった。幾ら手段を熟考したところで現に目の前に侵入者が居るのだから。しかし目的に関しても、それがこの人物である事から総次には容易に推測する事が出来た。
「……殺しに来ましたか」
「察しがいいね」
総次の言葉ににこりと笑みを浮かべる修哉の外見は、一目見ただけでは男であるとは思えない中性的な顔立ちで、あれから髪も伸びたらしく、薄い金髪を鎖骨まで携えたその姿は北欧系の外国人と間違える事も出来そうだった。
総次の目覚めを切っ掛けに行動を始めた修哉が手持ちのバッグから取り出したのは総次の予想に反し、ナイフでは無く大人向けの玩具だった。しかも随分とリアルな形に作られており、恐らく外国人の形を模したものだろう、直径も長さも日本人に馴染みのあるソレの大きさとは違っていた。
まさか、と総次は少し前の記憶を辿る。口の中に広がった甘い液体、それから感じ始めた身体の疼き。
「何、を……」
息が上がり始めるのを感じていた。
「何を今更聞いてるの?」
命どころか色々なものの危機に総次は辛うじて拘束をされていなかった両足で立ち上がろうと膝を立てた。
「ねえ総次? 腹上死って一番恥ずかしい死に方だと思わない?」
修哉の言葉に返答は不要と、総次は立ち上がり開け放したままの寝室の扉へと駆け出した。
が、直ぐに嗚咽と共に総次の身は後方の修哉の方へと引き寄せられた。眠っている内に媚薬だけではなく首輪を取り付けられていた事に気付いて居なかったのだ。
首輪の先の鎖は修哉が握っている。
「無理矢理引っ張られるか、自分からこっちに来るか決めて?」
「何で……」
総次はその首輪に見覚えがあった。視界の隅に見えるか見えないかの程度のものだったが、恐らくこの首輪には総次の名前が書かれている。かつて総次が使っていたものだからだ。
「まさか……健太、も……?」
健太は総次の三番目の恋人で貴斗の次に付き合っていた相手だ。侑李の話にでた「メンヘラ」で「死にたい」とメールを送り「DV」のあった相手となる。
「さあ、どうでしょ? それより早くしてよ」
修哉が軽く鎖を引くと、それに繋がった首輪ごと総次の上半身は修哉へと引き寄せられる。少し冷静になって考えてみれば健太がこの首輪を後生大事に持っている訳が無かった。健太はこの首輪を付けた総次ごと置いて行って、二度とあの部屋には戻らなかったのだから――
祐一郎に引き続き健太までもと良からぬ想像が頭を巡った総次だったが、直ぐにそれはないと結論付け、総次を待つ修哉に対し「思い通りの行動は取らない」とその場に立ち止まった。
「…そういう強情なところが貴斗の支配欲を煽ったのかなあ」
無表情に総次を見つめる修哉だったが、言葉の端には何処か苛つきを感じさせた。総次のパソコンチェアに腰を下ろしていた修哉はその場から立ち上がり、反対に手に持った鎖の端を床に向けて強く叩き付ける。両手の自由を奪われていた総次は胸元を庇おうと肩から床に落ちる。
「ご主人様には絶対服従、だろ?」
「ッ、誰が……ご主人様だって……?」
「ああごめん。 君のご主人様は貴斗一人だっけ?」
「黙れ!」
「黙んねーよ」
柔和な口調から一転、床に横たわる総次の身体を足で仰向けにさせ、その爪先を下肢へと忍ばせる。
「薬だけでもう半勃ち? 口では生意気な事言ってても身体は正直だねー」
着衣の上からも分かるその形を足の平で踏み付けながら擦ると、総次の腰が僅かに揺れ始める。
「あはっ、気持ち良くなってきちゃった? 自分から擦り付けてきちゃって」
「…っざけんな、…まえ、ぜ、ってー……殺すっ……」
「やだー、総次くんこわーい」
高い声を出して笑いながら修哉は屈み込み総次のズボンに手を掛ける。片手にしっかりと握ったままの玩具が視界に入ると途端に総次は足をばたつかせ抵抗しだす。
「絶対無理っ……! そんなの入んない、からっ……」
「総次なら大丈夫でしょ? ヤりまくりでガバガバだろうし」
抵抗する総次の両足の間に割り入り、修哉は耳元でそっと囁く。
「貴斗以外のモノも咥え込みまくりのビッチ……」
総次が嫌いな、修哉の低い囁き声だった。自分でも分かっていたつもりのソレを最も言われたくなかった相手から言われ、総次が一瞬抵抗を忘れた瞬間を逃さず、修哉は総次の着衣を下着ごと併せて取り払う。
「あーあ、えっろーい」
両足の間に身を割り込ませていた修哉は総次の姿を見下ろしながらその姿に目を細める。
魔法も使えず、逃げ切れぬ状態まで追い詰められた総次は見られる事は仕方無いと諦め、顔を背けた。その時にふと総次が最も隠して起きたかった記憶が甦った。
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