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ウルティア国戦役編

186 カナタ、低級愛砢人形を作る

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 カナタがガンマ1とゼータ5の抱擁を見守っていると、一緒に復活したイータがカナタのことをジッとみつめているのに気付いた。

「?」

 その意味の良く判らない反応にカナタが首を傾げると、イータは怒ったように頬を膨らませてプイと視線を外した。

「(いったい何だったんだろう?)」

 イータの視線はカナタを恨んで睨んでいるという様子でもないく、何か言いたそうではあるが、その感情が悪意なのか好意なのかも判らない様子だった。
カナタはそんなイータに構うことなく、作業を続けることにした。

「ニク、他にも教えてもらえることはある?」

 カナタは愛砢人形ラブラドールの秘密のまだ半分も教わっていないことを理解していた。
システムの術式も丸々コピーするブラックボックスだし、ヒヒイロカネの微細ゴーレムも、単純にコピーしただけだった。
それで製造が出来ると言っても、それは一から製造できるようになることとは違うとカナタは感じていた。

「では、肉ゴーレムからの製造方法を教えましょう。
肉ゴーレムからの製造される愛砢人形ラブラドールは低級の実験体となりますが、製造過程を体験するには良い例となるでしょう。
まず肉ゴーレムをアイテムオーブから出してください」

 カナタが倫理観により躊躇したのは、素体が生きているからだろう。
肉ゴーレムならば問題ない。そうニクは判断していた。

 カナタは、オリハルコンとヒヒイロカネを手に入れるために鉱山ダンジョンに行って来たばかりだったため、ゴーレムオーブを大量に【ロッカー】に仕舞っていた。
鉱山ダンジョンではゴーレムが大量にポップするため、ガチャオーブからゴーレムそのものが出ることがある。
さらに、ゴーレムマスターと呼ばれる魔物はゴーレムを召喚するため、倒すと高確率でゴーレムオーブをドロップするのだ。
カナタはそのゴーレムオーブを【ロッカー】から出そうとして、黄色の他に山吹色のゴーレムオーブと赤色のゴーレムオーブもあることに気付いた。

「あれ? どれを出せばいいんだろう?」

 カナタはニクが要求した肉ゴーレムが、ノーマルの黄色のゴーレムオーブなのか、山吹色の愛砢人形ラブラドールが確定しているオーブなのかを悩んだのだ。
さらに、HNハイノーマルの赤色のゴーレムオーブは使えないのかと気になっていた。
イプシロンの強化外装は、鉄ゴーレムにシステムを搭載している。
つまり、HNのゴーレムオーブ由来なのだ。

「まあいいや。全部だしとこう」

 カナタは山吹色、黄色、赤色のゴーレムオーブを【ロッカー】から出して作業台の上に置いた。

「ニク、山吹色と黄色、どっちから肉ゴーレムを出せばいい?
それと赤色は使えないの?」

 カナタの疑問にニクは表情一つ変えずに答えた。
別にニクが伝え忘れたのではなく、カナタが勝手に気をもんだだけなのだが、それをニクも気にすることなくスルーしたのだ。
いや、今は特別な作業にリソースを使用しているため、感情に回す余裕がないのかもしれなかった。

「今回は黄色を使用します。
赤色はイプシロンとデルタの強化外装に使用します。
それは別途説明させていただきます」

「わかった」

 カナタは素直に黄色のNゴーレムオーブを開いた。


ガチャガチャ ポン!

Nアイテム ストーン(貴石)ゴーレム
      石(貴石)で出来たゴーレム
      手に入れた者が他人に譲渡しない限りその者に従属する
      主に荷運びなどの力仕事に従事させるため重宝されている
      材料が高価な貴石のため潰して素材にされることが多い


「ああ、しまった!
幸運値のせいでNランクの最上級ゴーレムが出てしまった!」

 カナタがNゴーレムオーブを開くと、幸運値のせいでNクラス内では最上級の貴石ゴーレムが出て来てしまった。
ある意味大当たりというハズレを引いた瞬間だった。

 カナタはそのまま貴石ゴーレムを【ガチャオーブ化】でガチャオーブに戻すと【ロッカー】に仕舞った。
この時、未開封のガチャオーブと混ざらないように別のコマの【ロッカー】に仕舞うのを忘れなかった。
そして予備で出してあった黄色いNゴーレムオーブをニクに渡した。

「ニク、開いて」

「はい、マスター」


ガチャガチャ ポン!

Nアイテム 肉ゴーレム
      肉で出来たゴーレム
      手に入れた者が他人に譲渡しない限りその者に従属する
      主に魔物から逃亡する際の囮として使われる

      
「所有権はマスターに譲渡します」

 肉ゴーレムは起き上がるとカナタに従属のポーズをとった。

「では、システムを製造します。
竜玉に付与魔法で魔法術式を書き込んでください。
術式はこれです」

 ニクが空中に魔法術式を展開した。
それは球体を形作っており、竜玉の表面いっぱいに描き込むようになっていた。
その術式をカナタは錬金術、陣魔法のスキルにより記憶すると、付与魔法で竜玉の表面に付与した。
すると竜玉は黄金の光を放ち輝き出した。

「次にヒヒイロカネによりカバーを作ります。
これは竜玉の防御装甲であり、微細ゴーレムの材料でもあります。
ここにもアイテムボックスと微細ゴーレム製造の魔法陣を付与します」

 前回と同様に魔法術式が空中に展開し、カナタはヒヒイロカネを錬金術でカバーに加工しながら、それをヒヒイロカネのカバー表面に付与魔法で付与した。
すると魔法術式による効果なのか、ヒヒイロカネの形状が変化し、二つの窪みが形成された。

「次に竜玉をヒヒイロカネのカバー内にはめます」

 と言っても、ヒヒイロカネのカバーには蓋も何もなく、内部にアクセスする方法はなかった。

「?」

 カナタが首を傾げていると、ニクは竜玉をヒヒイロカネのカバーに近づけた。
するとアイテムボックスの効果なのか、竜玉がカバーに吸い込まれ、カバーの中心に設置された。
その様子は目で見えなかったが、カナタの【魔力感知】の能力で魔力的に見えていた。

「そこへ液体化オリハルコンとヒヒイロカネの微細ゴーレムを注入するのは前回と同様です」

 つまり、これでシステムが完成したのだ。

「では、肉ゴーレムを機能停止させて胸を開き、システムを埋め込んでください」

「え?」

 まさかの外科手術を要求されてカナタは戸惑った。
ゼータ5とイータの時は、彼女たちが機能停止していて、助かる道はそうするしかなかったので躊躇せずに胸を開いたが、生きている・・・・・肉ゴーレムにそんなことをするのは、カナタにはどうしても無理だった。
そう、カナタは肉ゴーレム時代のニクを必死に助けたように、肉ゴーレムを生きていると認識していたのだ。
つまり、この行為は肉ゴーレムを殺して素体とし、愛砢人形ラブラドールに利用しようとしているとしか思えなかったのだ。

「肉ゴーレムには魂も疑似魂も存在しません。
機械を機能停止させるのに何の躊躇が必要でしょうか」

 ニクの冷たい、いや冷静な言葉も、カナタには響いて来なかった。
カナタにはそんなことで割り切れない思いがあったのだ。

「でも、そうやって組織の人間は、愛砢人形ラブラドールを機械として切り刻んだんじゃないの?」

 カナタには肉ゴーレムを切り刻むことが出来なかった。

ドン、ギュッ

 そのカナタの背中にぶつかるものがあった。

「マスター大好き♡」

 カナタの気持ちが嬉しくてイータがカナタに抱き着いたのだった。
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