98 / 204
南部辺境遠征編
098 カナタ、作戦会議に連れていかれる
しおりを挟む
「なあ、凄すぎじゃね? 何なのあれ?」
「あはは……」
ニクに話を訊こうとして、一睨みで無視されたディーンは、カナタに絡んでいた。
Sランク冒険者が舌を巻くほどの広域魔法、しかも一度も目にしたことのない魔法だった。
カナタはニクのことを肉ゴーレムが進化した愛砢人形だとは言えないので笑って誤魔化すしかなかった。
しかし、興奮したディーンは空気を読まずに突っ込んだ質問を続けていた。
「こらこら、他パーティーのスキルを探るんじゃないわよ!」
セレーンの拳骨がディーンの頭に落ちた。
深夜だというのに子供に絡んでいたのだから当然だ。
「痛ってえなぁ」
「冒険者としての最低限のマナーでしょ?
あなたはSランク冒険者なんだから、あんたがそれじゃ示しがつかないでしょうが!」
もう一発拳骨が落ちた。
これでディーンもカナタを解放するしかなかった。
「うちのリーダーが済まなかったな。
はい、これ。拾っておいたから」
『紅龍の牙』メンバーのキースとガンツが拾って来たのは、ハンターウルフがドロップしたDGとガチャオーブだった。
50匹以上いた魔物が方々で瘴気へと戻りドロップしたものだ。
彼らは他に魔物が残っていないか調べる傍ら、ニクが無視していたドロップ品を拾い集めてくれたのだ。
「ありがとうごさいます」
カナタはセレーンにもキースとガンツにもお礼を言い、セレーンに抱えられるようにテントへと戻った。
だが実はディーンがあれだけ騒いで訊きだそうとしたことで、他の冒険者たちからカナタたちに追求が行くことがなくなっていた。
あれはカナタたちが嫌な思いをしないようにというディーンなりのパフォーマンスだったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、早朝に出発した先行隊は、夕闇の迫る中ついに国境の街である要塞都市ガーディアに辿り着いた。
ガーディアは国境としての手続きをする関所であると同時に隣国の侵略に備えた要塞都市でもあった。
尤も、隣国のウルティア国との関係は良好であり、この要塞都市は国境に近い迷宮からの氾濫に備える役割を主としていた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
ギルド職員と『紅龍の牙』のメンバーが対策本部となっている建物の中へと案内される。
そこに何故かカナタたちも一緒に連れていかれていた。
あのニクの魔法を見てカナタたちは、副ギルド長から討伐の主要メンバーと認識されてしまったのだ。
部屋の中にはライジン辺境伯領の辺境守備軍である第3軍司令のガウェイン将軍と幕僚たちが陣取っていた。
そこへ場違いな子供と女性を伴う集団が入って来たのだが、彼らも『紅龍の牙』という有名パーティーは知っていたので、そこの関係者だろうとスルーすることにしていた。
「援軍かたじけない」
第3軍司令のガウェイン将軍が副ギルド長に頭を下げる。
ここは国防の最前線、冒険者だからと侮ることはなかった。
「援軍の第1軍と第2軍、そして冒険者の混成軍は明後日には到着するはずだ。
それまで、状況の説明と作戦概要を知らせて欲しい」
カナタたちの先行隊は、獣車の速度もあり4日ほどの旅程でこの地に到着していた。
しかし、残りの混成軍は馬車がメインの移動手段のため、急いでもあと2日は到着にかかるはずだった。
この世界、地球と比べて情報伝達が著しく遅れていた。
通常はクックルという半魔の鳥による伝書の仕組みを使うが、これは途中でクックルが魔物に襲われるなどして確実性に乏しかった。
今回のように国境で異変があったなどの緊急時のみ、魔法便という転移の魔法を利用した魔導具を使うことが出来た。
これにより手紙の伝送を行うのだが、如何せん運べる手紙の量に制限があった。
そのため、詳しい作戦は現場で詰める必要があり、先行隊が組織されたということだった。
「了解した。では状況を説明させてもらおう」
ディーンの要求にガウェイン将軍は頷いて幕僚に説明をするようにと指示をした。
「魔物の氾濫は、我が国に近い17号迷宮で起こったとのウルティア国からの報告です。
そこから魔物がウルティア国側か我が王国側かどちらに進むかは神のみぞ知るというところだったのですが……。
斥候を放ち調査した結果、どうやら我が王国側に侵攻して来ていることが確定したのです」
幕僚が将軍に代わって説明を始めた。
ウルティア国側に斥候を放つというある意味敵対行動と取られかねない事をやっているが、これは迷宮の氾濫という緊急事態故にウルティア国側でも容認していることだった。
これで調査もさせないのなら、氾濫を食い止めなかった責任をウルティア国側が全て追わなければならない状況だろう。
むしろ魔物を使った侵略を疑われても不思議ではない状況になってしまう。
ウルティア国側でも魔物の対応は始まっており、王国と二国でこの危機を乗り越えようという協力体制となっていた。
「魔物の数は少なくとも5千、ほとんどがEランクだと思われますが、最高でAランクの魔物が数体確認されています。
この要塞都市の南側には国境線まで幅2kmほどの緩衝地帯が設けられています。
そこに陣を敷き、そこから国境線との間での迎撃戦となりますが、魔物を討伐するためでしたら、国境を越境してもかまわないとウルティア国側より許可を得ていますので、国境を気にせず討伐してください」
「魔物は人の集まるところにやって来る。
それは長年培った経験により確定している。
なのでここではこの要塞都市が魔物の攻撃目標になるだろう。
冒険者の方々の担当は南のウルティア国に向かって左翼側ということでどうか。
細かい作戦はギルドと冒険者側の指揮官――ディーン殿だったな――に一任する。
目的はただ一つ、魔物を殲滅することだ。
担当区域内ならどんな手を使っても構わない」
将軍が示した作戦は作戦になっていなかった。
ようするに丸投げだった。
だがこの世界、案外そんな感じで回っているのだった。
「あはは……」
ニクに話を訊こうとして、一睨みで無視されたディーンは、カナタに絡んでいた。
Sランク冒険者が舌を巻くほどの広域魔法、しかも一度も目にしたことのない魔法だった。
カナタはニクのことを肉ゴーレムが進化した愛砢人形だとは言えないので笑って誤魔化すしかなかった。
しかし、興奮したディーンは空気を読まずに突っ込んだ質問を続けていた。
「こらこら、他パーティーのスキルを探るんじゃないわよ!」
セレーンの拳骨がディーンの頭に落ちた。
深夜だというのに子供に絡んでいたのだから当然だ。
「痛ってえなぁ」
「冒険者としての最低限のマナーでしょ?
あなたはSランク冒険者なんだから、あんたがそれじゃ示しがつかないでしょうが!」
もう一発拳骨が落ちた。
これでディーンもカナタを解放するしかなかった。
「うちのリーダーが済まなかったな。
はい、これ。拾っておいたから」
『紅龍の牙』メンバーのキースとガンツが拾って来たのは、ハンターウルフがドロップしたDGとガチャオーブだった。
50匹以上いた魔物が方々で瘴気へと戻りドロップしたものだ。
彼らは他に魔物が残っていないか調べる傍ら、ニクが無視していたドロップ品を拾い集めてくれたのだ。
「ありがとうごさいます」
カナタはセレーンにもキースとガンツにもお礼を言い、セレーンに抱えられるようにテントへと戻った。
だが実はディーンがあれだけ騒いで訊きだそうとしたことで、他の冒険者たちからカナタたちに追求が行くことがなくなっていた。
あれはカナタたちが嫌な思いをしないようにというディーンなりのパフォーマンスだったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、早朝に出発した先行隊は、夕闇の迫る中ついに国境の街である要塞都市ガーディアに辿り着いた。
ガーディアは国境としての手続きをする関所であると同時に隣国の侵略に備えた要塞都市でもあった。
尤も、隣国のウルティア国との関係は良好であり、この要塞都市は国境に近い迷宮からの氾濫に備える役割を主としていた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
ギルド職員と『紅龍の牙』のメンバーが対策本部となっている建物の中へと案内される。
そこに何故かカナタたちも一緒に連れていかれていた。
あのニクの魔法を見てカナタたちは、副ギルド長から討伐の主要メンバーと認識されてしまったのだ。
部屋の中にはライジン辺境伯領の辺境守備軍である第3軍司令のガウェイン将軍と幕僚たちが陣取っていた。
そこへ場違いな子供と女性を伴う集団が入って来たのだが、彼らも『紅龍の牙』という有名パーティーは知っていたので、そこの関係者だろうとスルーすることにしていた。
「援軍かたじけない」
第3軍司令のガウェイン将軍が副ギルド長に頭を下げる。
ここは国防の最前線、冒険者だからと侮ることはなかった。
「援軍の第1軍と第2軍、そして冒険者の混成軍は明後日には到着するはずだ。
それまで、状況の説明と作戦概要を知らせて欲しい」
カナタたちの先行隊は、獣車の速度もあり4日ほどの旅程でこの地に到着していた。
しかし、残りの混成軍は馬車がメインの移動手段のため、急いでもあと2日は到着にかかるはずだった。
この世界、地球と比べて情報伝達が著しく遅れていた。
通常はクックルという半魔の鳥による伝書の仕組みを使うが、これは途中でクックルが魔物に襲われるなどして確実性に乏しかった。
今回のように国境で異変があったなどの緊急時のみ、魔法便という転移の魔法を利用した魔導具を使うことが出来た。
これにより手紙の伝送を行うのだが、如何せん運べる手紙の量に制限があった。
そのため、詳しい作戦は現場で詰める必要があり、先行隊が組織されたということだった。
「了解した。では状況を説明させてもらおう」
ディーンの要求にガウェイン将軍は頷いて幕僚に説明をするようにと指示をした。
「魔物の氾濫は、我が国に近い17号迷宮で起こったとのウルティア国からの報告です。
そこから魔物がウルティア国側か我が王国側かどちらに進むかは神のみぞ知るというところだったのですが……。
斥候を放ち調査した結果、どうやら我が王国側に侵攻して来ていることが確定したのです」
幕僚が将軍に代わって説明を始めた。
ウルティア国側に斥候を放つというある意味敵対行動と取られかねない事をやっているが、これは迷宮の氾濫という緊急事態故にウルティア国側でも容認していることだった。
これで調査もさせないのなら、氾濫を食い止めなかった責任をウルティア国側が全て追わなければならない状況だろう。
むしろ魔物を使った侵略を疑われても不思議ではない状況になってしまう。
ウルティア国側でも魔物の対応は始まっており、王国と二国でこの危機を乗り越えようという協力体制となっていた。
「魔物の数は少なくとも5千、ほとんどがEランクだと思われますが、最高でAランクの魔物が数体確認されています。
この要塞都市の南側には国境線まで幅2kmほどの緩衝地帯が設けられています。
そこに陣を敷き、そこから国境線との間での迎撃戦となりますが、魔物を討伐するためでしたら、国境を越境してもかまわないとウルティア国側より許可を得ていますので、国境を気にせず討伐してください」
「魔物は人の集まるところにやって来る。
それは長年培った経験により確定している。
なのでここではこの要塞都市が魔物の攻撃目標になるだろう。
冒険者の方々の担当は南のウルティア国に向かって左翼側ということでどうか。
細かい作戦はギルドと冒険者側の指揮官――ディーン殿だったな――に一任する。
目的はただ一つ、魔物を殲滅することだ。
担当区域内ならどんな手を使っても構わない」
将軍が示した作戦は作戦になっていなかった。
ようするに丸投げだった。
だがこの世界、案外そんな感じで回っているのだった。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
〖完結〗私が死ねばいいのですね。
藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。
両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。
それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。
冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。
クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。
そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全21話で完結になります。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる